杜の里から

日々のつれづれあれやこれ

EMへの疑問(5) ~その効果はホントなの?(後編)~

2008年10月27日に開催された環境フォーラム「よみがえれ!日本橋川」の終了後、12月1日、比嘉さんはこの模様を自身のWEBマガジンの中で報告しました。
しかしその内容は、参加者の言葉を載せる事無く、ただあのパンフの文面をそのまま書き綴っているだけです。

(「新・夢に生きる 第19回 環境フォーラム「よみがえれ!日本橋川」より)

EM活性液投入1年後には水質は大幅に改善され、類型指定Cからその上のランクBに達し、ランクAに限りなく近いBとなった。~(中略)~

EM投入1年半後は、類型指定はBからA、またはAAレベルに達している。海水浴場の水質判定基準で見ると、水泳可のBまたは適のAに達している。測定数値のバラツキは局所的な強い降雨によるもので、降雨がなく見た目にキレイな場合に測定するとAAレベルとなっている。

すなわち、日本橋川は降雨の影響が少ない場合はヤマメやイワナが棲む水産1級の水質レベルにあり、非常時(地震・大火)の水源としての活用も可能と言える


その後この文面は、EM成功事例として各地のEMサイトや広報誌に掲載される事になります(→こちら(PDF))。

しかしこの後、今年になってからはウェブサイト上では新たな水質調査のデータが中々見つからず、また「日本橋亀島川流域連絡会」のサイトも更新が行われなくなったため、現状どうであるかを知る事は出来なくなってしまいました。
NPO活動の報告ではあいも変わらずEMだんご投入は盛んに行われており、こちらとしてはただその状況を見守っているばかりとなりました。

そんな中、2009年10月15日、比嘉さんの新たなWEBサイト「甦れ! 食と健康と地球環境」の中でこの「日本橋川」が取り上げられました(→こちら)。
その内容を見てみますと、

 その結果、数ヶ月で悪臭は消え、半年後にはヘドロがかなり分解されゴカイやミミズが発生し、ハゼやボラが見つかるようになり、1年後には大腸菌も極端に減って、水泳可という水質まで改善され、ボラやスズキやウグイ、カニ、エビなど多種多様な生物が戻り生態系が豊かになってきた。

とか、

今でも大雨が降ると汚れた川となるが数日もすると透視度が2~3m、川底まで見える清流となる。にわかに信じられない話であるが1年そこらで日本橋川は甦ったのである。


などと、これまでのEMサイトでの発言がそのまま掲載されています。
今までのWEBマガジンはEMの内輪サイトでしたが、流石にここでのこの発言はどうなのでしょう。

そこで現状はどうなっているのか、10月下旬、HPに載っている千代田区政策経営部広報広聴課宛てにメールを送ってみました。
一週間後、そこの課長Sさん(念のため伏字と致します)から返信が来ましたが、そこには半ば予想通りの内容が記されていたのです。
前半部は浄化活動をしている市民団体の説明がなされ、現状については後半部に記されていましたが、ここでは肝心のその部分を紹介します(掲載については許可を頂きました)。

*                 *                 *

(2009年11月6日受信)

お尋ねの「第15回 EMで甦った東京の日本橋川(1)」のサイト内容ですが、掲載中の前段の意見は別にして、千代田区に係わる『…日本橋川や、外壕に投入され平成17年から今日まで合計で238,500個が投入されている』までは、表現に曖昧な部分もありますが、概ね事実です。
しかし、『その結果、数ヶ月で悪臭は消え、半年後にはヘドロがかなり分解されゴカイやミミズが発生し、ハゼやボラが見つかるようになり、1年後には大腸菌も極端に減って、水泳可という水質まで改善され、ボラやスズキやウグイ、カニ、エビなど多種多様な生物が戻り生態系が豊かになってきた』との記述は、甚だ疑問で事実でない部分もあります。

まず、大腸菌に関しては、区でも団体でも水質検査を行っておりますが、EM液、及びEM団子が本格的に投入された平成18年12月以前とその後現在まで約3年間は一言で申し上げれば変化はありません。当然、検査日前の降雨等における自然環境の変化を受け、調査毎の数値上下はありますが、一定下降、一定上昇のデータにはなっていません。また、団体が行った調査によるヘドロの堆積量も改善といえる変化はありません。
ハゼやボラの生存は、EM菌投入以前にも見られた光景であり、EM菌による効果とは言い切れません。さらに、「水泳可という水質まで改善」は、根拠のある調査結果ではないと推測しますし、河川を目視した現状ではとても泳げるものではありません。比嘉教授の発表には本件のほかにも事実誤認と思われる記述にWEB批判があり、本件では団体が比嘉教授に対し訂正を求める予定でいます。

EM菌効果を期待するには、前述したとおり全ての環境に効果あるものではなく、一定の条件が必要なようです。
日本橋川のように緩やかな汽水河川でも毎秒3トンの流水があり、このような条件にはEM液、EM団子を投入しても効果は期待できないと思われます。団体でも浄化手法の変更研究を進めています。
*                 *                 *

ご覧の通り、「変化なし」というのが実状のようです。
この後団体が比嘉さんに訂正を求めたのかは未確認ですが、そうこうしている内に早くも11月10日に「食と健康と地球環境」のサイトが更新され、「第16回 EMで甦った東京の日本橋川(2)」が掲載されました(→こちら)。
その内容はまさに呆れるばかりです。
訂正どころか、合いも変わらず2008年10月27日の環境フォーラムでの事実誤認の内容と、そしてあろうことか、神田川東京湾までEMで綺麗になったなどと言う始末です。
神田川はEM投入前から綺麗になっています。(→参照
これは上流の落合水再生センター、下水道事業、湧水の導水事業などのおかげによるもので、アユの遡上は平成5年(1993年)から毎年確認されています(→参照)。
それに環境評価というのは、たまたま見た日がそうだからと言って、それをもって改善したなどという判断はしません。その日その日によって環境は刻々変ります。綺麗に澄んだ日もあれば濁る日もあります。東京湾赤潮青潮の発生など、月や季節毎に環境は常に変化しています。
だから総合的な判断は、年間を通じた経年変化をもってなされなければなりません。そしてそれによるところの判断では「変化なし」なのです。
またこの比嘉さんの考え方には大いに問題があります。
それは、すべてEMのおかげとする事により、他の地道な活動をしている人達の存在をすべて否定してしているという事になってしまっている事を本人は気づいていないのです。
まさに比嘉さんは、「確証バイアス」の好サンプルと化しています。
実はこれこそ、EMによる環境浄化活動の一番の問題点なのです。

しかし、今回の日本橋川の浄化活動を見るにつけ、EM側ばかりが問題である訳ではありません。
例えばこの看板です。↓

   

【浄化活動を実施中!】などと書かれていたら、周りから見たらさもEMが今現在浄化作用を及ぼしているものと勘違いされやすいものです。
この活動は元々試験的なものだったのですから、本来は【浄化活動】ではなく【浄化試験】とすべきだったのです。そうすれば、効果があるのかないのか、人々はその観測データの方に関心を示すようになった事でしょう。
そしてその肝心のデータの開示という問題です。
ウェブサイトのどこを探しても、日本橋川で計測されたデータは見当たりません(私の探し方が悪いのかもしれませんが)。あるのはただの活動報告ばかりです。
計測したデータをその都度一覧表ではなく折れ線グラフで表記し、誰が見ても経年変化が一目で分かるように示すべきだったのです。
それにより、それを見た人はもしかしたら、あまり変化がない事にがっかりするかもしれません。
しかし、敢えてそのような負のデータも示す事により、現在の活動をその都度再検討し、河川に対する新たな認識を持つきっかけにもなるのではないでしょうか。
勿論川の清掃作業は重要で、これこそ市民レベルで地道に行うべきものだと思います。
しかしそこで、ただ子供たちに環境活動に興味を持ってもらうというためだけにEMだんごを投げ入れるというのは間違っています。それは微生物の働きや環境そのものに対する誤った認識を持たせるだけです。
結局何かを投入するという事は、良く効くと言われる薬剤を投入するのと同じ感覚を持ってしまうのです。そして周りを見る事なくただそれだけに注目する事になり、結果比嘉さんの様な考え方に陥らせてしまう危険性を孕んでいるのです。

川は繋がっています。上流から下流、そして海に繋がるまで、川は一本の大きな生命体です。
子供たちにそのような意識を持たせるためには、今自分たちが住んでいる場所ばかりではなく、上流部分や周辺の水処理施設の見学会などを積極的に薦めるべきだと考えます。
そして総合的な視点から、今現在自分達の住む環境を見つめさせる事が重要であると私は思うのです。

「変化なし」という事ならば、ここでのEM投入は素直に止めるべきでしょう。
元々試験的なものだったのですから、これからは投入を止めてからの経年変化を観察していくのもまた良いかもしれません。
それにこのままにしておけば事実誤認の内容が広く宣伝され、人々に「EMは万能」という誤った認識が伝えられるだけです。それは各地で行われている浄化活動にとっても、決して善い事ではないのですから。

EM活動を中止したら比嘉さんは、果たして何と言い出すのでしょうか。うまくいかなかったのはそれを使った当人が悪いからとでも言うでしょうか。
なにせ「EMはすべて使う人の力量と責任という原則」であると、しっかりこちらでおっしゃっています。
これからの比嘉さんの発言には要注目です。