杜の里から

日々のつれづれあれやこれ

なぜEMが効かないのか?(前編)

前回エントリーで私は、「批判する人が行うのは「EMの全否定」ではありません。 」と述べました。
その舌の根も乾かぬ内に、いきなりこんな「釣り」の様なタイトルを掲げるとは、おまえは何を考えているのだ? とお思いでしょう。
でもこう言っているのは、私ではないのです。

EMという微生物資材は、「EM研究所」、「EM研究機構」、そして沖縄県那覇市に拠を持つ「サン興産業」の三社が製造・販売しています。
実はこのタイトルは、この「サン興産業」のHPにある、「サン興産業メッセージ」という項目のタイトルなのです。
ではEM製造メーカーである「サン興産業」がわざわざ自社のサイト中に、なぜこんなEM否定ともとれるメッセージを敢えて書かなくてはならなかったのか、今回はこの事について考えてみる事にします。

サン興産業のこのメッセージ内容を詳細に見てみますと、そこには中々興味ある事が述べられていました。それはまさに「EM開発秘話」とも呼べるものでした(→魚拓)。
サン興産業では元々自社製の微生物資材を製造販売していましたが、それはどれも品質的に安定せず、この問題を比嘉教授(以下比嘉さん)に相談した事からすべてが始まります(以下、強調は引用者によります)。

  バイオスター、バイオスター2号、バイオライフ、バイオクリーン、バイオガーデンを安定させそれを基に色々な微生物を取り込む事により、大きく飛躍し確立 された微生物資材へと生まれ変わりました。もし比嘉教授の指導が無ければ現在のEMは無かったとも考えられます。又、比嘉教授も大量生産する等の手段も無く、研究で終わった可能性も考えられます。双方が運命的に出会う事によりEMが生まれ、その後色々な多くの人々に出会い、支えられ現在のEMの基が出来ました。

これはつまり、今までEMを発明したのは比嘉さんであると言われていましたが、実はEMの元となったのはサン興産業の微生物資材でもあったという事です。そして、

 その後バイオスター、バイオスター2号、バイオライフ、バイオクリーン、バイオガーデンは元沖縄県農林部長大城喜信氏の命名によりサイオンと変わりました。サイオンとは沖縄の農業の三大恩人の1人である蔡温の名前より頂きました。

という事で、ここで開発されたサン興産業の微生物資材は、新たに「サイオン」と名付けられた訳です。
興味深い事にこの「サイオン」については、比嘉さんの半生をまとめた「比嘉照夫のすべて」サンマーク出版)でも以下の様に述べられています。

(p.58~59)
ところで、この有用微生物群は「EM」という名称になる前に、「サイオン」という名前だったことを知る人は少ないだろう。何かの学術名か英語名のように聞こえるかもしれないが、沖縄の人にとっては"農業の神様"として親しまれている名前である。
漢字で書くと「蔡温」。十八世紀の琉球で活躍した哲人政治家で、治山治水に秀でた才覚を見せ、なかでも元文検地という耕地整理を十四年かけて完成させ、琉球の農業の礎を築いた功労が語り伝えられている。
その名付けの提案は、現県農林水産部長の大城氏であるが、自分が発見した微生物群の名前として拝借することは比嘉さんにとって年来の念願でもあった。

サン興産業では自社の微生物資材が「サイオン」と命名されたと言い、比嘉さんは「自分が発見した微生物群の名前」と言っていて、ここで双方の見解に微妙な食い違いが生じている訳です。
つまり、EMの開発段階では比嘉さんとサン興産業双方の共同研究の形をとっており、そこで出来上がった新たな微生物資材を、双方とも自分のものであるという認識でいた訳です。
そしてこの「サイオン」は、海外戦略の一環として、外国人が覚えやすい新たな名前が付けられる事となります。ここの所も「比嘉照夫のすべて」ではこう述べられています。

(p.59)
ただし、この「サイオン」名はまもなく、有用徴生物群が世界的に評価され、広がっていくなかで変更を迫られることになった。海外では「サイオン」という名前は通りが悪く、簡明な英語名が必要になった。そこで、比嘉さんの知人のアメリカ人の提案で、そのものずばりの「EM(Effective Micro-organismus=有用微生物群)」をいう名前を使うことになった。

こうしてEM(=サイオン)が誕生しました。
ここまででお分かりの様に、比嘉さんが行ったのは菌の選定と基礎研究で、製品として世に出たものはサン興産業の微生物資材の改良版(以下「サン興EM」)でした。
そしてその後「サン興EM」は世界救世教の下部団体である自然農法研究所の協力で普及する事になりますが、今度はそこで新たなEMが生まれる事となります。

 しかし、その数年後にEMの良さを知った自然農法研究所が比嘉教授の後ろ盾によりEMを独自に製造する事になり弊社は大きな打撃を受けましたが、その後良きライバルとして切磋琢磨し今日に到っております。
(~中略)
 しかし指導技術者が居ない、修得に難しく時間が掛かる等の理由で自然農法研究所は比嘉教授へお願いし、サイオンEM2号・3号・4号を一つにした万能EM1号の開発を依頼、EM1号の誕生となりました。その後のEM研究所の指導はEM1号で全て可能との指導でありました。

これが現在広く普及している、いわゆる比嘉さんが開発したEM(以下「比嘉EM」)という訳です。
しかしこの辺りから、元々純粋に農業用資材として普及指導してきたサン興産業と、比嘉さん指導のEM研究機構、EM研究所との認識の違いが明らかになってきます。
サン興産業では自然条件や土壌状態により、サイオンEM2号・3号・4号の比率を細かく分けて指導していたのですが、EM研究所・EM研究機構はEM1号(比嘉EM)だけで全て出来ると指導し、この事をサン興産業は以下の様に厳しく指摘しているのです。

「EM1号で全て出来る。EM1号を増やし活性液を作り効くまで使え。」この事がEMは効果が無いと評価される大きな原因です。


「効くまで使え」、これは比嘉さんお得意の教えです。
つまり、EMが効かない原因は比嘉さんの教えにあると、サン興産業はここで真正面から比嘉さんを批判しているのです。
またEMが効かない更に大きな要因として、サン興産業は「EM活性液」の問題点を指摘します。

サン興産業は10倍活性液(10%)又は20倍活性液(5%)を教えます。決して50倍、100倍活性液は教えません。10倍活性と100倍活性では単純にコストは10分の1です。しかし、失敗する確立は100倍です。
(~中略~)
又機械を使って1%(100倍活性液)を作っている事もサン興産業は知っております。その多くはメンテナンスが難しく、メーカー、販売店の無責任により使用されず、又一部使用されても臭く、うんこの臭いのあるEM活性液でない物を作っているのが大多数です。

つまり適正以上に薄められ、菌層のバランスも崩れ、もはや効果が期待出来ないものまでが広く使われている事にサン興産業は危機感を抱いているのです。

今現在の姿は良い活性液を作り、現場の状況に合わせて効率の良い使い方をして最高の効果を得る事では無く、EMをどれだけ多く増やせるかがEMを知っている事となり、EMを増やす事が目的になっております。しかしそれは悪いEMでありEM活性液ではありません。

そしてサン興産業の厳しい指摘は、次の【EM(有用微生物群)はなぜ効かないの?そしてなぜ効くの?】の項目へとさらに続きます。

今、 EMと称して作られ流通し、又再販され利用されているEMがどれくらいの種類、量があると考えますか。想像出来ないぐらいの種類、量になります。企業が作っているEM、農家が作っているEM、ボランティア組織で作っているEM、個人々々が家庭で作っているEM、その全てがEMです。
 その全てが同じ様な効果を出していれば本当にEMは魔法の水です。魔法の水でないから失敗もします。効くEMもあります。効かないEMもあります。物を腐らす汚染源となるEMも悪影響を及ぼすEMもあります
何が効くEMか効かないEMかを判断できない人が個人々々の作り方で雑多のEMを作っているからです。

そして最後の項目【EM拡大活性液 自由配布販売に関する危機提起】ではこうも警告しています。

拡大活性液は諸刃の刃です。十分に理解し利用すれば最大の利益を生みます。しかし、もて遊べば大きな害を生じます。この様な事を考えあわせれば、今後のEMの普及発展を望む為には警鐘を鳴らざるを得ません。

今現在、行政やNPOや一部の教育機関などでは、微生物の知識もなくただ業者の言われるがまま、あまりにも無造作にEMを培養している姿が目に付きます。
それはおそらくこんな機器を使用しているのかもしれませんが、これは100倍から更に20倍、つまり2000倍まで増やすというものです。
しかしこのようにして作られた活性液の中身は、果たして一体何なのでしょう? 活性液を作っている人達は、一度でもその中身を気にした事があるのでしょうか?
「これはEMが増えたものだから大丈夫。」
そんな根拠とも言えない根拠で、もはや疑う事すら考えもつかないと言う人がいるならば、ぜひこのメッセージを読んでほしいと願います。
また、活性液を過剰に培養する事についての問題はこちらでも詳しく述べられています。
その(2)の項目に注目して下さい。

EM1号にバランスよく多種の培養されていると誤解されているが、EM1号はほぼ乳酸菌と酵母であり、他有用菌および有用成分は少なくバランスが取れていない。バランスを出来るだけ取る為に1~3号を利用するのが良い。
(~中略~)
 一時培養でこのバランスは大きく崩れます。糖蜜は主に1号(乳酸菌、酵母)の餌であり他の菌は一部利用できるが生き残る事が出来るかもしれませんが増殖は不可能です。これを一次、二次と繰り返すと糖蜜だけで増える菌だけが残ります。

農業で自分の田んぼや畑でEMを利用する場合、これは完全に個人的な行いですから何かあっても自己責任の範疇になります。でも河川や海へのEM活性液やEMだんごの投入はどうでしょうか。
海や川は個人の持ち物ではありません。それはれっきとした社会資産であり、人類にとってかけがえのない財産でもあります。
ではこの貴重な財産にどんな成分か分からぬものを、一個人や一団体の権限だけで大量に投与するという行為が、果たして許されるのでしょうか?
河川へのEM投入活動を見てみると、環境の専門家のアドバイスを受けているという姿はどこも見られません(EMインストラクターなどは門外です)。
環境活動には必ず科学的視点が必要です。最低限、まずは自分たちが投下する液体の正体を知る事、そしてその成分分析ぐらいは必須項目であろうかと考えます。

このメッセージがいつ頃書かれたものかははっきりしませんが、最後のpdf資料「EM製造の歴史」にある年代から、私は多分2009年頃かと想像しています。
ですから今現在はもしかしたら多少は改善されているのかもしれませんが、もし比嘉さんの説明ばかりに耳を傾けていたのなら、このメッセージが果たしてどれほどEMユーザーに浸透しているかはなはだ疑問に感じます。
なにせサン興産業は先に引用した通り比嘉さんの発言を批判していますし、また更に、

 一度原点に戻り、正しいEM、EMは生き物であり人間の都合の良いだけの働きをしない事を理解して下さい。

などと、「EMは万能である」という比嘉さんの教えすら否定する様な意見も述べられているからです。
しかしこれは言うまでもなく、実際にEMを製造しているメーカーからの、直々の警告であるという事を肝に命ずるべきなのです。

後編に続く)