杜の里から

日々のつれづれあれやこれ

震災5年目に中央メディアは何を語るのか(追記あり)

2月15日月曜日の夜、この日見るともなく「報道ステーション」を流していましたら、終了間際に突如、福島県での「甲状腺がん」の検討委員会報告が紹介され、
「分からないのに、原発事故影響とは考えられないと結論して良いのか?」
とか何とかいちゃもんの様なコメントを残し、震災5年目となる3月11日に「甲状腺がん」特集を組むとの予告がなされました。
この委員会報告はこの日の毎日新聞でも報道されましたが、報ステではこの時の発表資料の一部も映像で紹介されました。
しかしそこでは、
放射線の影響の可能性は小さいとはいえ現段階ではまだ完全に否定できず】
という文字部分だけがクローズアップされ、すぐ上の行にある
【事故当時5歳以下からの発見はない】
という部分はピンボケ処理がなされてるという具合でした。(→参考:「県民健康調査における中間取りまとめ 最終案」(PDF)
こんな予告を見たおかげで、また前回の様な、ただ不安を煽るだけの内容になってしまうのかと、思わず暗澹な気持ちにさせられてしまいました。
(2月18日23:10 追記)
(映像を見つけましたので再確認してみたら、ピンボケ処理と言うよりもシャドウ処理でした。
でもすべて消さずに敢えて中途半端に見える様にしているのは、何らかの意図でもあるのでしょうか。)
(映像はこちら、5:40辺りから問題のニュース映像です。)
(更に追記)
報ステが言ってるのは、「放射線影響は否定出来ないと言いながら、なぜ放射線の影響とは考えにくいと言えるのか」という疑問でした。)
 

 

今年は震災から5年目の節目という事でもあり、多分当日はまた報道各社(特にテレビ局)が大挙して被災地を訪れ、さながら一大イベントの如く報道合戦を繰り広げる事でしょう。
勿論、今現在の被災地の姿を正しく紹介してくれるならありがたい事ですが、中にはこの日に合わせて恣意的なドキュメントなど流す所もあるかもしれません。
地元ローカルで製作される震災関連番組では、被災者へのインタビューやロケによる現地報告などが多く放送されていて、その様な番組を自分はよく見ていますが、中央メディアが作る問題提起型のドキュメンタリーなどもたまに見ています。
しかしこの、「特集」という形で不定期に放送される番組の中には、時折その問題提起の仕方に疑問を感じるものもあり、この手の番組には自分は以前から注意を払っています。
というのは、ドキュメンタリーという手法は、素材の編集の仕方次第で自分の意図する形にどうにでも作り上げる事が出来てしまうからです。

震災から5年経ち、震災関連番組がどんどん減っていく中で、北海道や西日本など被災地から遠く離れた地域ではますます震災そのものが忘れられ、そこでは新たな情報に書き換えられる事なく、未だに5年前に抱いたイメージのままでいる人もまだ多く存在しているのではないでしょうか。
その様な中に恣意的に編集されたドキュメンタリーなどが流され、誤ったイメージが植え付けられるという事はなかったでしょうか。
特に福島県での「風評」問題などは未だに根深いものがあり、やがてそれが「福島差別」へと変貌している問題に対し、今現在地元からは多くの声が発信されています(→一例)。

甲状腺がん」についても、確かにまだ分からない事があるのは事実ですが、この5年の間に分かってきた事だってあるのです。
この様な事を、中央メディア(特にテレビ)はちゃんと全国に伝えてきたでしょうか。

この時期になると、「震災の風化」問題についてニュースキャスターやコメンテーターらの口から語られます。
では問題意識を持っていると言うならば、伝える側の代表である、メディア自身がするべき妙案でも何か考えているのでしょうか。その具体案を、私は未だ聞いた事がありません。
自分は、風化を防ぐためには被災地の現状を正しく伝える事こそが重要で、それには被災地のローカルニュースこそが、うそ偽りの無い被災地の「今」を伝えるものであると以前から述べてきましたが、今もその考えは変わりません。
1時間の全国ニュース枠の中のほんの5~6分、毎日被災地三県の震災関連ローカルニュースを流すコーナーを作るだけで、被災地の本当の「今」が分かります。
震災を思い出させるための、恣意的に編集された偏向ドキュメンタリーなどはもう要りません。
そんなものを作るぐらいならば、夕方のローカル情報番組などでよく作られている、地元目線の震災ミニ特番を全国放送してくれた方が遥かに有意義です。
震災を風化させるか否かは実はメディア(特にテレビ局)のあり方の問題であり、メディア自身が震災というものをどう捕らえているのかが、今問われているのだと思います。

今回の「福島県民健康調査」の報道については、NHKの「時事公論」で詳しく解説がなされていて、その最後にはこう述べられています(強調は引用者によります)。
だからこそ行政には、何よりも丁寧な説明が求められます。「放射線の影響とは考えにくい」とするだけで、十分な説明をしなければ、多様な情報があふれる今日では、かえって行政への不信や不安を生みかねません。
リスクはどの程度なのか?いま何がわかっていて、何はわかっていないのか?率直な説明を続ける姿勢こそが、結局は多くの人の「納得」と「安心」につながるのではないかと思います。
その『率直な説明』を社会に正しく伝える使命と責任が、マスメディアにはあるのです。
果たして3月11日の震災特集は如何様な内容となるのか、じっくり拝見させてもらいます。

(参考)
・ 「県民健康調査における中間取りまとめ 最終案」(PDF)
・ BLOGOSより「福島県の甲状腺がんは「原発事故の影響とは考えにくい」と専門家が話す理由」
福島民友みんゆうNETより「復興の道標~ふくしまの今を問う」
・ togetterより「2016年2月8日、早野龍五先生と福島高校・小野寺悠さんの日本外国特派員協会記者会見質疑応答和訳まとめ」
NHK解説委員室より「時論公論 「原発事故とがん ~福島 県民健康調査~」」