杜の里から

日々のつれづれあれやこれ

メディアが伝えぬ福島の話題

ウクライナ戦争に始まってオミクロン株の大流行、安倍元総理銃撃事件から派生した怒涛の統一教会追及報道が行われている中、8月3日、河北新報WEBにこんな注目する記事が載りました。

突然変異の増加みられず 福島のイノシシ被ばく研究

 

 東京電力福島第1原発事故により放射性物質が飛散した地域で捕獲されたイノシシの遺伝解析をした結果、事故前後の世代で塩基配列の突然変異率に違いがなかったとする研究成果を、弘前大(青森県)や福島大などのチームが3日までに、科学誌エンバイロメンタル・ポリューションで発表した。

 発表によると、チームは2015〜18年に福島県の避難区域などで捕獲された174頭の遺伝子の塩基配列を調査。事故前に宮城、山形県で捕獲された17頭のものと比較すると、突然変異に応じて増える配列パターンの数に違いはなかった。

https://kahoku.news/articles/knp2022080301001501.html

他社の報道を見てみると中身はどれも同じで、どうやら共同通信からの配信記事をそのまま掲載しただけの様です(例えばyahooニュース)。

 

ただ翌8月4日の河北新報の紙面に載った記事は見出し文言が変わって字も大きくなり、記事のボリュームの割には目立つ存在となっていて、記事後半にはWEB版には無かった【続き】も載っていました。

(以下続き部分引用、強調は引用者による ↓)

一方でチェルノブイリ原発事故(1986年)後のツバメを対象にした同様の研究では、突然変異率の上昇が確認されている。チームは、福島に比べてチェルノブイリでは、体内に蓄積しやすいストロンチウム90 が多く飛散し、内部被ばく量が高かったことが要因と分析している。

今回の研究に携わり、福島大で3日記者会見した兼子伸吾・同大准教授(分子生態学)は「原発事故の生物学的影響が(より危険だと)誇張されることもある中科学的なデータを示すことができた」と話した。

 

同日の福島民友新聞のWEB版には、配信ではなくおそらく独自の取材記事が掲載されていました。

(以下引用、強調は引用者による ↓)

福島民友新聞民友ネットより 2022年8月4日)

イノシシ突然変異「なし」 帰還困難区域生息、福島大准教授発表

 

 福島大共生システム理工学類の兼子伸吾准教授は3日、東京電力福島第1原発事故に伴う帰還困難区域に生息するイノシシの遺伝的な影響を調査した結果、事故後数世代が経過しても、DNAの塩基配列に事故の影響による突然変異は確認されなかったとする研究内容を発表した。

 大学の定例記者会見で発表した兼子氏は、「突然変異で緑になったイノシシ」など、原発事故の影響を巡り根拠に基づかない海外報道があるとし、「汚染の程度が理解されておらず、現状を伝えることが重要だ」と指摘した。

 事故の影響による突然変異が確認されなかった理由については「(事故に起因する放射線量が)低線量だったためと考えられる」と述べた。

 兼子氏は、福島大大学院に所属していたドノバン・アンダーソン氏(弘前大被ばく医療総合研究所特任助教)らとともに2016~19年、帰還困難区域に生息する307頭のイノシシを調査した。このうち191頭の遺伝子について、チェルノブイリ原発事故で突然変異が報告されたツバメの遺伝子部分と同じ部分を解析した結果、変化は確認されなかった。兼子氏は「さらに詳細な調査が必要だが、集団レベルでの遺伝的影響はないと考えられる」と述べた。

 また、イノシシの生涯被ばく線量は0.1~700ミリシーベルトと推定され、内部被ばくよりも外部被ばくの影響が大きかった。このイノシシの肉(総セシウム量の平均値が1キロ当たり5400ベクレル)を日本人の年間の豚肉摂取量(12.9キロ)に置き換えて食べても1ミリシーベルトを超えないとし、「数値上では、消費可能な範囲に入りつつある」と指摘した。

https://www.minyu-net.com/news/news/FM20220804-720553.php

 

原発事故から11年、「被ばくの森」と呼ばれた地で科学者達は真摯な研究を積み重ねてきました。

それは何の偏見も持たずにただ低線量被爆影響の事実のみを捕らえ、人々に現状を正しく認識させようと行ってきた地道な努力でした。

NHKの悪評高い「被ばくの森」シリーズも、2021年に放送された「被曝(ばく)の森2021 変わりゆく大地」では、震災10年目にしてようやくBS1スペシャル並みの冷静な報道姿勢となった所です(→こちら)。

 

福島における風評被害の元となったのは、一部の声の大きい人達やマスコミ・メディアの過剰な不安煽り報道であるのは間違いありません。

今揉めている福島第一原発の処理水放出問題でも、また新たな風評が生まれてしまう事が一番の懸念材料となっています。

政府は風評防止に積極的に取り組む姿勢を打ち出しましたが、見るとただ機械的サイトの更新を行ってるばかりで今回の新聞記事の話題に対しては何の反応も見せておらず、また今回の記事を大きく報じたメディアの姿もありません。

 

今話題の統一教会の問題にしても、そもそも30年以上もメディアで取り上げられる事無く放置されてきたのが大きな原因とも言われています。

 

福島の風評についてもまたしかり。

 

風評被害の大元となったこの話題を積極的に報じないメディアの姿勢に、果たして処理水放出時の正しい情報発信を任せる事が出来るのか暗澹たる気持ちにさせられます。

 

正確な情報を人々に伝えないままでいるという事こそが、メディアの一番の罪であると僕は思うのです。