杜の里から

日々のつれづれあれやこれ

続・看板が消えた(Part3)

ここで話をまた住宅展示場に戻しましょう。
ここはかねてから気になっていた事もあり、とうとう実際にこの中を見学してみました。
この展示住宅はすべての部屋が「ICAS」環境になっているわけではなく、このシステムを取り入れているのは寝室だけでした。
そこの壁には前に紹介した「ICAS」の原理図とか業者の施工例、そしてあの「血液サラサラ」のパネルも展示されていました。
この事について営業の方に色々お話を伺ってみました。
ところが…。

営業さんは、この「ICAS」についてはほとんど答える事が出来なかったのです。
彼はこの「ICAS」についてはちゃんと業者の講習会を受けたそうですが、彼に言わせるとちんぷんかんぷんであったとの事でした。
ここで気がついたのですが、つまり住宅メーカーというのはあくまで家を建てるプロであって、こちら方面の知識については素人同然、つまり我々同様【市井の人】だったのです。
血液サラサラ」についても、NHK「ためしてガッテン」500回記念の回「徹底検証・血液サラサラの真実」を例に挙げて本当に大丈夫なのかを尋ねてみましたが、営業さんもこの放送の事はご存知で、わざわざメーカーに確認してお墨付きをもらっているとの返答で、それ以上の内容については詳しくは知らないようでした。
ここの住宅メーカーはTVのCMで見るような大手ではなく、地方によくある中小の「○○工務店」などと呼ばれるメーカーなのです。

全国的に名の知られた大手のメーカーの場合、そのネームバリューだけで一般の人達からは信頼を得られます。
しかし名も知られていない様な小さなメーカーの場合、一般向けに製品を売り出すためには、大手に負けないようなセールスポイントがなければ中々難しいという現実があります。
そのため、大手ではあまり注目されないような新技術やら、一般受けする文言などで注目を集めようとします(これは何も住宅メーカーだけに限った事ではありません)。
勿論大手メーカーの場合だと専門的な研究部署もあるでしょうし、また全国的な信用という問題もあり、他社の目新しい技術にすぐに飛びつくというような事にはなりません。
しかしこれが中小企業の場合、逆に大手には真似が出来ないような画期的な技術を開発したり取り入れたりするという柔軟な動きが可能です。
実際中小メーカーで世界的シェアを誇る会社はたくさんあり、それが日本の技術力の高さを示す事になっているのも事実です。

でもその中には「怪しい理論」とか「怪しい技術」というのもあり、まだ理論的に確立されていないにも関わらず、その効果ばかりを謳う企業、またその宣伝文句につい飛びついてしまう企業が少なからず存在するのです。
そして忘れてならない事は、日本の企業の90%は中小企業なのです。
つまり、「怪しい理論(技術)」は私達が知らぬうちにいつの間にか広まっているという事も考えられ、また逆に、そのような事が生み出される土壌は常にあるという事です。
中小の住宅メーカーにとっては、「マイナスイオン」がまさにそれにあたる訳です。
「ICAS」に関しても、多くのメーカーを引き付けたのは、そこで宣伝された「マイナスイオン効果」という言葉であった事は想像に難くありません(注:「ICAS」自体が「怪しい技術」であると言っている訳ではありません。まあ、そうも見えますが。)。

では、共同研究していた積水ハウスはその後どうしたのでしょう?
積水ハウスが選んだのは、高気密から「換気」への切り替えでした。
それまで様々な問題が取りざたされていた「高気密・高断熱」の住まいから、空気が循環・排気される様な昔ながらの住環境を目指したのです。

   (サイトはこちら

菅原明子氏の理論による「マイナスイオン環境」というものを考えた時、メーカーには2種類の選択技があります。
一つは【強制的に】「マイナスイオン」そのものを増やすという考え方、もう一つは、【結果的に】「マイナスイオン環境」になるという考え方です。
「ICAS」は前者の考え方に基づいたもので、他のマイナスイオン発生資材や機器もこちらに属します。
積水ハウスは結局、前者ではなく後者の道を選んだのです。
勿論ここで積水ハウスが「マイナスイオン」を信用していたというつもりはありません。これはただ純粋に、自然の換気状態というのを目指した結果なのだと思います。
しかし彼女の理論によると、これこそが「マイナスイオン環境」であるとなり、彼女の説は業者からますます信頼を得られていくのではないかとも思われます。

「ICAS」の方を見てみますと、当の本家では「マイナスイオン」の単語はすでに使用されなくなりましたが、提携業者の中では今も尚、当時のままの「マイナスイオン」がそのまま生き続けている所がたくさんあります(こちらを参照)。
別の新しいシステムを開発した会社でも、「マイナスイオン」は【健康効果の証】として使われています。
マイナスイオン」がブームとなって家電業界がこれに飛び付き、そして次々と撤退していった事はすでに周知の事実です。
しかし、表に見える部分としては確かに「マイナスイオン商品」は一部を除いてめっきり少なくなりましたが、【健康効果の証という「概念」】としての単語として、それは今でも人々の間で生き続けています。
そして菅原明子さんはますますお元気でいらっしゃいます。

この単語は、住宅関連業者の間では消費者に訴えかける有効なツールとして、今も尚使われ続けているのです。



この住宅展示場から、つい最近看板が取り払われました。

 

この家はその後、住宅展示場としての役目を終えて建売住宅となり、現在は一般の人が居住する家となっています。
あの目障りな看板もようやく姿を消しました。
名誉のために言っておきますが、このメーカーのホームサイトには元々「マイナスイオン」の記述はありません。また「ICAS」を積極的に薦めているという訳でもなく、ここの展示場に関しては取引業者間の関係もあって取り付けたものであり、あくまで参考までにという意味合いが強かったようです。
それよりもここのメーカーは、「マイナスイオン効果」などに頼らず、純粋に良質な材料を使用して真摯な家作りを行っている企業であるという印象を受けました。
最近この辺りの中小の住宅メーカーでは、一種の流通グループを作ってその中で材料などを共同購入したり、窓枠などのサイズも規格統一して汎用性を持たせたりして、消費者に良質なものを安く供給しようという動きが出てきています。
そこでは極端な情報に踊らされる事なく、本来の家作りに回帰するという姿勢が窺われます。
だからこそあの看板は、実は余計なものとして思われていたのではないのかという印象を、営業さんとの会話で感じた次第です(よって具体的にこのメーカーをここで紹介する事は敢えていたしません)。

もしかしたら、あの看板が消えた事を一番喜んでいるのは、当のメーカー自身であったのかもしれません。
(Part3 終わり)









(エピローグ)


私の身近にこういう製品があります。

それは、近所のスーパーで売っている、「ICAS」システムを取り入れた炭窯で作られた【納豆】です。↓

   

この納豆は、この市場に新たに参入した地元企業の製品で、登場した時は地元の新聞でも取り上げられました。
ここで気になっていたのがパッケージにある「マイナスイオン」の表記でした。
この納豆はその後パッケージデザインが何度か変りましたが、それでもつい最近までは「マイナスイオン」の表記はそのままでした。

   →  

誤解のないように言っておきますが、私はこの納豆は好きです。何より豆の味が他のメーカーのものに比べると格段に美味しく、しかも価格も安いです(よく3パック78円などという値段で売られています)。
これが果たして「ICAS」による負イオンによるものなのか、それとも炭窯による調湿作用のおかげなのかは分かりかねますが、それでも確かに美味しい納豆であるという事は言えます。
この味ならば、本来ならそれだけで堂々と勝負できそうなものだと思われるのですが、やはり初めはこのようなシステムというものを〔売り〕にしなければ消費者からは見向きもされないという判断なのか、このパッケージからは新参者の不安のようなものを感じたものです。

しかしこれも、今月になってまたリニューアルされ、あの「マイナスイオン」が表からようやく消えました。

 

それでも側面を見ると、「ICAS」の説明では「マイナスイオン(抗酸化粒子)」という表記のままです。

 

当の本家ではすでに「マイナスイオン」の表記は無くなったのですから、この文面も早い事無くしてしまって純粋に味だけの勝負に徹してもらいたいというのが、地元企業を応援する一ファンとしての心からの願いなのです。
(終わり)





(追記)

やっぱりこれも紹介しておきましょうか。
マイナスイオンの秘密」(菅原明子著 PHP文庫)中にこんな記述が。

(p.74~75)
   ところで、社会問題にもなっている松枯れですが、決定的な対策が何もないかといえば、そうではありません。
  このプラスイオンとマイナスイオンの科学を応用すれば、意外な解決策が見えてきます。
   それは、松枯れをおこしている松と松の間の土中に木炭を埋めてマイナスイオンを発生させる、空中からEM菌
  を一〇万倍ほどに薄めて空中散布する、などです。この薄めた液でも葉の表面や土の表面を十分に還元状態
  導く力があります。
(強調は引用者)         




    ……見事なコラボです! (^^;)