杜の里から

日々のつれづれあれやこれ

続・看板が消えた(Part2)

マイナスイオン」という言葉が世間に広まったのは1999年~2000年頃であり、その後各メーカーが次々とマイナスイオンを冠した商品を送り出し、世はまさにマイナスイオンブームとなりました。
その中にあって、巷に溢れる商品群とは別に、これに大きく注目した業界がありました。
それが「住宅メーカー」です。
ここで改めて、当時の菅原明子氏のマイナスイオン研究を振り返って見てみましょう。
 (*ここでは敢えて、当時巷で言われていた所の「マイナスイオン」という単語を使用します)

元々マイナスイオンというのは住環境と密接な関係にあり、彼女の研究はその住環境という視点から行われていたため、多くの住宅メーカーから注目される事ともなりました。
当時も今も住環境の健康に及ぼす影響といえば、新建材から放出される「ホルムアルデヒド」と「ハウスダスト」、この2点が主なものと言ってよいかと思われます。
シックハウス症候群」とか「アレルギー」など、住環境における健康問題に人々も関心を寄せるにつけ、メーカー側もその対策に乗り出さなければならない時期に来ていました。
しかし、芳醇な資金を投入し、専門的な研究を出来る大手のメーカーと違い、中小の企業の力はあまりに非力でした。
そこで他者との差別化を計る手段として、「マイナスイオン」に関心の目が注がれたのです。現に当時は、ハウス関連の情報サイトでもこんな事が堂々と打ち出されていました。

とは言うものの、肝心の菅原明子氏の研究内容を見てみると、どうも首をかしげたくなるようなものが目立ちます。
例えばこれ(PDF)
実生活上でマイナスイオン発生機器を使用した部屋とそうでない部屋との比較ですが、そもそも比較する部屋の生活様式が違いすぎます。↓



おまけにマイナスイオン機器というのは、東芝製エアコン「Prazma ion 大清快」であり、そもそも当の製品はマイナスイオンではなく〔Prazma ion〕と謳っています。
当時の機器が果たしてどのようなCMを流していたかは今となっては知る由もありませんが、メーカーサイトにある一番古い型(2005年製)のカタログを見てみますと、これはどうやら「マイナスイオン」を発生させるものではなく、【プラズマ空気清浄ユニット】というものが仕組まれているもののようです。
つまり、放電による集塵機能ですね(メーカーカタログ、クリックで拡大↓)。

    

確かに、このエアコンの集塵機能が優秀であり、そのためダニやホコリなどが減少したという事は大いに考えられますが、その事を「マイナスイオン」のおかげと言ってもいいのかという疑問が生じます。
ただ彼女は、この研究の中で気になる言葉を使っています。それが「マイナスイオン環境」というもので、今後この言葉がキーワードとなっていきます。

彼女の説によりますと、塵や化学物質が充満している環境では空気中のイオンはプラスイオン化してしまうといいます(菅原明子著 PHP文庫「マイナスイオンの秘密」p.109より)。
そこでそれらの有害物質を除去してやれば、【結果として】室内の空気はマイナスイオンが優位となる事になります。
そう考えてみますと、確かに塵やホコリだらけの環境にいるよりは綺麗な空気の元にいる方がより健康的な生活を送れる訳ですから、「プラスイオン」の環境でいるよりは「マイナスイオン環境」の方が健康に良いとも言える訳です。
しかし、これはあくまで【結果として】そうなった「マイナスイオン環境」の話であって、「マイナスイオン」そのものが健康に寄与するという事とはまったく別な話である事は明らかです。
しかし彼女は、この「マイナスイオン」そのものが有効であると主張します。
その効果を最もよく表したものが下記の図です(「マイナスイオンの秘密」p.199より)。
  
これは、室内に「マイナスイオン」を満たせば空気中の有害物質は取り除かれ、それが喘息の発作を鎮めたりして、結果人々が健康になるという理論につながります。
しかし同時に彼女は、日常生活を「マイナスイオン」で満たすには、
 ・窓を開け外気を取り入れる
 ・食生活の基本を抗酸化食品に
 ・部屋の掃除をこまめにする
 ・部屋に緑の植物や花を置く
と提案してもいます(「マイナスイオンの秘密」p.222~228)。
しかしこの、「外気を取り入れる」とか「掃除をこまめにする」などというのは考えてみれば当たり前の事で、実はわざわざ「マイナスイオン環境」を作ろうと思わなくても自然とそうなってしまう事でもあり、実も蓋もない言い方をすれば、それさえきちんとやっていたならば本来ならマイナスイオン機器などは必要ないと言っているのと同じ事なのです。

それでも彼女の「マイナスイオン理論」は、このように住環境というものに根ざしたものであったため、多くの住宅メーカーが注目する事となり、また彼女自身も住環境に関したを出しています。
そして彼女自身現在も尚「マイナスイオン」の伝道師として講演活動をしておられるようです(ここで注目してもらいたいのは、紹介したサイトは2002~3年当時のものではなく、今年のものです)。
探してみると、菅原明子氏のカリスマぶりも窺える記事さえありました。
そして彼女の「マイナスイオン」理論は、今も尚多くの住宅関連業者に少なからぬ影響を及ぼしています。
例えば「マイナスイオン塗料」(これとかこれ)、「マイナスイオン襖」(これとかこれ)、そして「マイナスイオン壁紙」(これとかこれ)など、建材メーカーでも「マイナスイオン」製品を用意していますし、それを利用したホテルなどもその効果を宣伝材料にしているほどです。
中には「マイナスイオン畳」まで。

そしてそれらを活用しているのが、皆地方の中小メーカーばかりという現実がここに存在するのです。
Part3に続く)