杜の里から

日々のつれづれあれやこれ

口蹄疫でのEMとその呆れた宣伝(後編)

宮崎県の口蹄疫の現場で、具体的にEMはどんな役割を果たしたのでしょうか?
それについても比嘉さん自ら、岩手県で放送されている「EMアースコミュニケーション」というラジオ番組の中で説明しています。
その番組はこちらで視聴出来ますが、中ではまた視聴者をEM信者に仕立て上げる様な中々味わい深いお話が語られておりますので、分かりやすい様ここでは番組内容を文字起こしして紹介したいと思います(強調は引用者)。
〔10月9日放送〕
~(前略)~
司会 「先生、宮崎の口蹄疫終結に向かったという報道がありますが、EMで様々な所で活用されたと伺っております。それについてコメントをお願い致します。」

比嘉 「はいあの、私は今まで、この番組でもですね、鳥インフルエンザとか鯉ヘルペスとかそれからウイルス、普通のインフルエンザですね、これに対してもEMを使っていると免疫力が上がる、またEMが直接ウィルスを抑えるという事で、このパンデミックと言いますか大流行を防ぐ事が出来るという事を色々お話してきました。まぁ三回位お話したんじゃないかと思いますね。
まあ我々はこれもう20年以上の経験があって、世界中で確証はしてる訳ですね。ですけど公的機関が認めたものではありません。
それからもう一つ大事な事は、EMは日本の場合は政府に登録されていて、それで畜産農家が自分の判断で自由に使っていいという、そういう製品なんですね。
ですから、訳の分からない微生物を撒いてね、国の方針に反する事をやっているというものではないんです。何の違法性もないんですね。
で私はそういう事を確認して、それからえびのからの大流行になりそうだという報告を受けたんです。
幸いな事にえびのはその頃、20軒の農家が、まあ200軒あまり畜産農家がいるんですが、一割ぐらいの農家がですね、EMを使っていたんです。それからその報告を受けて、4例発症して700頭位処分したんですね。
ですけどEMの場合は、一箇所でEMを使うと大体500mから1000m位の距離をバリアー、要するにウィルスがですね、口蹄疫とかそういうウィルスが広がるのを抑える力があります。
もっと大事な事は、一ヶ所から1000mあるいは2000m位離れている所にもう一ヶ所EMを使っている所があると、これはお互いに磁気共鳴をしてですね、完全に防護帯が出来るんです。
ですから、えびのの場合も状況を聞いてると、すでに発生した4軒の外側にはもう、そういう防御帯が張られた形になってました。
だからあの、使い方はですね、普通の畜産の使い方にもっと徹底してEMをやるという、これはあの、DNDとかですね、善循環通信とかEM関係の「エコピュア」とかそういうのに書いてあります、使い方はですね。
そういう、ごく当たり前の使い方なんですが、それを徹底するようにという提示をしたんですね。
そしたらえびの市はすぐにそれを受け入れて、どんどん使ってない農家にも使わせたんです。
で、私はその事を山田、今の農林大臣、対策本部長をしておりましたので、山田大臣に直接お話しました。
「えびのはこれ以上広がらない、広がらないからよく見ておいてほしい。」、「絶対に」という言葉を使いました。
それから2週間、まったく広がらずに、えびのはその段階でですね、別途扱いと、あの川南とか大流行した所とは別の扱いをしますという事でそのまま沈静化したんですね。
でこれは、私はEMでやったという事を、普通の常識では考えられない現象です。山田大臣も現場まで見に行ったんです。
行って、先生の言ってる今よく分かるけど、これを動物病理の専門の先生方には理解させられないと、難しいと、そういう事を言われたんで、その段階で私は山田大臣にですね、たくさんの殺処分をしてね、埋却処分しなきゃいけない、その時にやり方を誤ると、またそこからいろんなものが噴出して二次、まあ臭いもそうですけど、二次汚染が出るんで、これはEM使った方がいいんじゃないかという話をしました。
そしたら山田大臣もEMの消臭効果とか知っておられましたので、やりたいけれどもですね、農林省自体がそういう予算もないし、すでに方針が決まっておるんで、先生がボランティアで協力してもらえるなら有難いと、こういう事だったんです。
それで私はそれを確認して、EMグループにボランティア出動を要請したんですね。」
(「続きは来週お願いしたいと思います」)
前回紹介したWEBマガジン「新・夢に生きる〔40〕」で、比嘉さんはEMの〔結界〕というものを紹介していましたが、ここで初めてその根拠が述べられました。それが磁気共鳴だという事です。
勿論これは科学的に証明されたものでも何でもなく、単なる比嘉さんの思いつきである事は言うまでもありません。
それよりも問題なのは、「新・夢に生きる〔40〕」ではまだ消毒の徹底などが紹介されていましたが、ここではそういう活動にまったく触れる事無く、堂々と
 私はEMでやった
と断言している事です。
えびの市では口蹄疫発生からすぐに、政府の指示を待たずに殺処分や消毒など迅速な対応を行っていました。それはこちらでも詳しく語られています。
勿論市では他にも、口蹄疫蔓延を食い止めるため考え得るあらゆる対策を実施しました。EMの使用もその中の一つであったと言う訳です。
しかし比嘉さんは、えびの市口蹄疫の沈静化はすべてEMのおかげであるとし、そして山田大臣も見事にその比嘉さんの口車に乗せられてしまったという訳です。
言うまでもなく、EMは普通の微生物資材です。そこには神秘的な力などは存在しないし、ちゃんと科学的に検証されればその有効性或いは無効性も明らかになるものですが、それを比嘉さんはいつも「特別なもの」として大袈裟に宣伝し、結果次々とEM信者を作り出しているのです。

翌週の番組では、具体的にEMが有効であった事例が紹介されます。
〔10月16日放送〕
~(前略)~
司会 「先週は宮崎の方の口蹄疫にボランティアでEMを使ったというお話をしていただきました。
今週は、その使った後どうなったかというお話をしていただきたいと思います。」

比嘉 「まずですね、ボランティア出動したんですが、中心になったのはEM研究機構です。
早速二人の専門家が飛びまして、同時に、着いた翌日には、埋却処分をしてもう死骸をずっと積んだ所にですねEMを散布したんですね。
その現場の状況を後でビデオ見ました。あの、ガスが吹き出てですね、血液も一緒に火山みたいに吹き出ている、悪臭がひどくてですね大変だと言う状況だったんです。
これにEMを染み込ませるようにして撒いて、大体100倍ぐらいで撒いてもいいんですけども、濃い方がいい事はいいんです。でもその頃は量が少なかったんで100倍に薄めて、染み込む様に処理をしたんです。
そして72時間後に私が現場へ入りました。そしてその段階ではもう臭いもなくて、噴火のごとく吹き出ていたガスや血液がですね完全に止まって、それからこの埋却処分をする時に溢れた血とかそういう液体を防ぐために、外の方に側溝、溝を掘るんです。で、それをやっていたオペレーターがですね、マスクを外してたんです。
どうしたんですか?と言ったら、いやもう臭いがないからマスクを外してやってます。で、それから染み出てくる液がほとんどなくなった、だから外に側溝を掘るのは前のように慎重に考えなくても大丈夫だと。
それからすぐ50m位の所に一軒お家がありまして、そこから臭いが大変だと苦情があったそうです。
ですけど私が行った72時間後には、そこの人に会いました。
いや昨日から臭いがまったくありませんと。でもう安心しましたと言われて、一緒に行った役場の職員も2人来ましてとても喜んでですね、それからいろんな場所をチェックして指導して、それをまた対策本部に連絡をしてですね、大量の埋却処分は、従来の農林省のやり方だと能率が悪いんで、EMを使ったやり方、要するに能率が悪いってのは、動物の処理体を入れて上からブルーシートをして石灰を撒いてという、この作業なんですね。
EMのやり方は下の方に藁を敷いて、処理体をですね敷いてすぐ藁載せてぱっぱっと作業をしてEMをかけてゆくだけですから、スピードも早いんですが、結果あの吹き出ないと、臭いも出ないと皆分かりましたし、ウィルスの飛散とかですね、そういう汚染が起こらないという事が確認されたんです。
でこの報告書は近々農水省に提出する事になってまして、でそれで27万頭も殺処分されたのがですね、凄いスピードで処理されていって、それで何か急に火が消えた様に静かになったんですね。
で同時に、また飛び火しました、三箇所に。それはもうえびのの方式を心得ていましたので、今度は宮崎のボランティアを総動員しました。
中心になったのはEM研究機構、EM研究所、EM生活社、この三社が中心に動いたんですが、まあ現場のいろんな協力は、宮崎のEMネットというボランティアグループ、80人ぐらいいるんですね。
で白川さんって方が非常に熱心にやっていただいて、で、えびのと同じ様にですね、飛び火して発生するとその周辺の畜産農家全部にEM使わせて、要するに取り囲むような処理の仕方をしたんです。だからそこでまたピタっと止まった。
白川さん達、EMに関わった人達は、えびののやり方、えびの方式というのは本当だったんだと。3ヶ所も同じ事でした。
でおかげで今宮崎はですね、EMに対する意識がすごく高まって、もうえびの市は市全体がそれをやろう。でもう、これは全部EMだと、私は言います、私は。
ですけど他の人達は信じられません。信じなくっていいんです。
ですけどこれは違法行為でもなんでもなくて、国が認めた畜産用の資材、でそれを農家の責任で、また自分達の自治体の責任で対応できるという、この方法があるという事をですね知って欲しい訳です。
畜産でEMを使うとその廃棄物が農業を良くする、家畜も人間のこの肉とか畜産品が人間の健康のためにも素晴らしい状態になると、これだけでも凄い事です。ぜひ実行して下さい。」
確かに埋却処分では、EMが有効であった事が伺われます。そしてこれは前編でも述べた様に、微生物資材の使い方として今後の可能性を窺わせる良い実践舞台であったと言える事も出来ます。
但し、また問題となる部分が後半部に出てきます。
比嘉さんは、口蹄疫が発生した周辺を取り囲むようにEMを使用、つまり〔結界〕を作って、それが効いたと言うのです。
そしてEMを使った人達は、それを信じてしまったという事がここで語られている訳です。
言うまでもなく、口蹄疫の収束は徹底的な消毒作業と殺処分によります。そのための住民の移動制限など、地元の人達は大いなる辛抱を強いられました。勿論EMでボランティア活動をした人達も同様に苦労している訳です。
しかしこれらの苦労でようやく収まった口蹄疫が、比嘉さんにかかれば「すべてEMの(結界の)おかげ」となってしまうのです。ここについては地元の人達は怒っても良いのではないでしょうか。
何度も繰り返しますが、EMは普通の微生物資材ですから、使いようによっては確かに有効なものともなります。問題はその「過剰な信頼」、つまり「盲信」なのです。
「盲信」に取り付かれると、見た目の効果をすべてEMに結びつけ、挙句の果てに科学からはどんどんかけ離れた思想を持つに至ってしまいます。
そしてその目はもうEMしか見えなくなり、多くの人達の努力もEMの前では無きに等しい扱いになってしまいます。もうこれは「信仰」と言っても良いでしょう。

比嘉さんにこの様に言われてしまうと、有効なのはEMしかないように錯覚してしまいます。
しかし、中で語られていた「国が認めた畜産用の資材」は、別にEMだけではなくたくさんの種類があり、EMはその中の一つ、One of Themにしか過ぎないのです。
唯一EMが勝っているのは「宣伝力」です。
使用者どうしをネットワークで結び、様々なEM情報を共有し、また「善」の名の下でお互いに助け合うというコミュニティを形作り、不測の事態には組織的に対応するというシステムを構築したという所が、他の資材にはまねの出来ない所なのです。
そしてその中では、比嘉さんによるこのような報告が堂々と行われ、EMはますます神格化され、外部には「行政も認めた」として、当の行政を尻目にどんどん宣伝がなされていくのです。

被害に遭った農家の人達がその後EMを使用する事になったのか、そういう農家がどれぐらいいるのかは今日現在ではまだ知る事は出来ません。
しかし出来うるならば、資材の効果の判定には決して怪しい言説に惑わされる事なく、冷静な観察と洞察力を持ってして当たっていただければとただ願うばかりです。