杜の里から

日々のつれづれあれやこれ

EMはいっそ「炎上案件」となればいい

2016年6月3日、武雄市のとある幼稚園のブログにプール開きの日にEMを投入するという記事が載り、8月3日にその記事がツイッターで拡散され、一気に炎上状態となりました。

それについては以下にまとめられ、内容と共に拡散具合も分かる様になっています。
 (togetterより)
 〔武雄市の市立幼稚園「綺麗にしたプールにEM液を投入」に対する様々な意見。〕

ただその批判内容を見てみますと、これを行ったのがあの武雄市だったからという事で、ただ揶揄するだけのものも多かったのはいささか残念ですが、この件はやがてBuzzFeed Japanも取材するほどに注目される案件となり、
 (BuzzFeed Japanより)
 〔武雄市の幼稚園がプールにEM菌投入 専門家は「まったくの迷信」〕
こうした状況を見て、やまもといちろう氏もコラムで取り上げる事となりました。
 (Dailey News Onlineより)
 〔武雄市の幼稚園がニセ科学”EM菌”をプールに投入の是非|やまもといちろうコラム〕

ネット炎上というのはここ最近頻繁に見られ、これにより町のイベントが中止に追い込まれるなどの騒動も起こったりして、一部ではネットクレーマーによる迷惑行為などとする悪評も立ったりしていますが、こと「ニセ科学」や「ニセ医学」などに関する事案などは、正直今回の様な騒ぎになって、広く世間に周知される状況になった方が良いのではとも感じています。
今回のEMの事案についても、今まで何の疑問も感じていなかった事がどうしてこんなに炎上するはめになったのか当の本人(達)に考えてもらい、これまでの行動を思い直すきっかけになってくれるならば、世間ではあまり評判が良くないこの「炎上」というのもまた、一つの有効な手段なのかとも思えます。

EMについては以前よりニセ科学の観点から批判が行われていて、今回の事案でちょっぴり垣間見えた気もしますが、実際EM問題で深刻なのはそのニセ科学性というよりも、EMに内在する「盲信」というものです。
EMならば何も心配もなくすべて良い方へ向かう、こんな「根拠なき信頼」をユーザーは「盲信」してしまい、この「盲信」を植え付けるために謎の科学用語で装飾され、普通の微生物資材であるEMが結果的にニセ科学となってしまったというのがEMの現状だと私は思っています。
 (自ブログより)
 〔EMへの疑問(3)~EMは「ニセ科学」か?~〕

今回の事案では、BuzzFeed Japanの記事によりますと、婦人会の方がプール開きの日に持ってきたEMを、
「そのまま使わないのも申し訳ないので、少し投入した。」
と、その行為には何の疑問も感じていなかった事が伺えますが、では園の先生はなぜ何も疑問に思わなかったのでしょうか。
この幼稚園では例年、プール掃除の時にEMが使われているそうですが、もしも婦人会の人が、自分が持ってきたものを「自作洗剤」などと言っていたとしたら、果たしてそれをプール開きの時に投入したでしょうか。

別の例を挙げれば、例えば婦人会の人が子供達に食べせようとお餅を持ってきて、そのお餅にたくさんの青カビが生えてたのが見つかったとします。
でも婦人会の人は、
「青カビはペニシリンの材料にもなるから安全なものです。」
と言ったとしましょう。
この時園の先生は、果たしてこの言葉をそのまま信じて子供達にそのお餅を食べさせるでしょうか。

「EM中の微生物は自然界にいる普通の菌だから安全」などとと言われますが、EMの中身がどんな成分かは未だに明らかにされてはおらず、実際はただ『そう言われているだけ』の事です。
たとえ実際EMが安全なものであったとしても、本来は「細菌」を扱う事柄なのですから、児童達が取り扱う場合にはまずは「安全性」という事に気を使うのが、教育者としては当たり前の事ではないかと思うのです。
ではなぜEMに限ってはそれがなおざりにされ、ただそう言われているだけでそれがそのまま信じられてしまうのでしょうか?

この「盲信の怖さ」というものこそが、EM問題の本質なのです。

ここで具体的な事例を紹介します。
今から6年前の2010年、とある保育園でEMだんご作りが行われていました。
この当時この地区では河川の「クリーンアップ」活動というものが行われていて、EMだんごが河川浄化に効果があるとして、河川浄化活動の際にはEMだんご投入も行われていました。
 (港南区役所 記者発表資料 平成22年5月27日 )より

(赤線強調は引用者による。資料はこちらより)
EMだんご作りには通常、市販の微生物資材であるEM1を培養した「EM活性液」というものを添加しますが、あろう事かこの保育園ではこの活性液の代わりに、EM生ごみ堆肥化処理をすると容器の底に溜まっていく「浸出液」というものを使用していました。
この中には実際どんな菌が存在してるかは神のみぞ知るであり、中には大腸菌や有害雑菌が混じってる事だってあり得ます。
それをここでは、「加えているのはEMだから」という理由だけでその危険性には思いも寄せず、園児達には素手でEMだんごを作らせ、しかもより深刻なのは、その様子を報じたマスコミすらも、そこに何の疑問も抱かなかったという事でした。

当時自分はこの件をブログ記事で紹介しましたが、2010年当時はまだツイッターも登場したばかりでさほど拡散する事もありませんでしたが、現在ならばこれは間違いなく「炎上案件」ではなかったかと思います。
 (自ブログより)
 〔EMへの疑問(13)~EMだんごって「安全」なの?〕

ちなみにこの時は幸いにも何事もなく終った様で、ここではその後、どうやらEMだんご投入は行われている様には見えないので少し安心しています(あくまで私の捜索範囲内での話しですが)。
でもたとえこの時は何もなかったからと言って、これからも大丈夫という保証にはなりません。
「盲信」が続く限り、この様な事案はこれからもどこかで発生していく事でしょう。

EMに対し、多くのEMユーザーが寄せている信頼性の根拠というのは科学的検証によるものではなく、実際は巷でよく見られる「体験談」、つまり「口コミ」ばかりで、ただそれを「信じるか否か」という極めて心情的なものでしかありません。
そして最初に信じるのはEMそのものではなく、そう語った「その人」を信じるか否かであって、そこにEMが人と人を結び付けるコミュニケーションツールとして機能していき、やがて「善意の輪」という形で広がっていく訳です。
しかしこうして広がった「善意の輪」というのは実は「盲信の輪」であって、こうしてここまで広まってしまったものを止めるにはもう、EMというものが「炎上案件」であるという事を広く世間に告知する他ないのかなと自分は感じています。
先のEMだんごの件についても、もしこの時に炎上して全国的な話題となっていたら、だんご投入活動自体についても少しは見直す動きがあったかも知れません。

世の中には「ニセ科学」とか「ニセ医療」・「ニセ史学」といった怪しい情報が溢れていて、身近な所でも子供達を巻き込んだ活動の中にそれが潜んでいる事もあります。
それによってやがて大人ばかりではなく、子供達自身も「盲信の虜」になりはしないかと、ただただ不安になるのです。

 (togetterより)
 〔署名活動「小中学校におけるEMの利用を止めてほしい」のご紹介〕(こちらをクリック