杜の里から

日々のつれづれあれやこれ

「水」を読む(7)~言霊~

ここまで読んできた私には、どうしてこれが良い話として受け止められるのか、未だに分からないままでいました。
しかし、この後の彼の話を読んでみると、なるほどとも思わせられます。

さきほどの「愛と感謝」の続きになるのですが、彼は「愛」だけではなく、「愛と感謝」が重要であり、特に「感謝」の心が必要であると言います。
そして、
(p.121)
これから必要なのは、感謝の心です。まず私たちは、「足るを知る」ということから始めなければなりません。豊かな自然があふれる地球に生まれてきたことに感謝し、私たちを育んでくれた水に感謝しましょう。胸いっぱいにおいしい空気が吸えるということは、どれほどすばらしいことでしょうか。

と、訴えるのです。
この部分だけを見れば、確かに彼の言う通りです。誰もが共感を覚える事でしょう。
しかしその前までは、どうみても首をひねるような事ばかり書かれています。それがなぜ、これだけの言葉で深く共感してしまうのかが合点がいきませんでした。
その謎を解く鍵が、
p.123〔第4章 一瞬で世界は変わるか〕に登場する【言霊】です。

彼はまず、おいしい水を手に入れるためには自分自身の心が大切であるとし、
(p.124)
同じ水を飲むにしても、ありがとうと声をかけて感謝の心で飲むのと、何か理由があってもやもやした気分で飲むのとは、水そのものがまったく違うものになってしまいます。

と、説きます。
そして、自分たちの思念が世界に影響を与えるとし、「雲消しゲーム」を薦めたり(笑わない!)、ボームの宇宙論など普通の人にはよく分からない理論を解説したり、祈り(言霊)によりダムの水がきれいになったりした事を紹介します。
それからまた、似ている事柄が続けざまに起こるという、シェルドレイク博士なる人物が唱える「形態共鳴」理論を解説していきます。
これらの事から、
(p.141)
その力をフルに活用するならば、世界を一瞬にして変えることができます。

として、水に愛と感謝の言葉を投げかける事によりその水は世界の水と共鳴し、
(p.142)
それが広がっていったとき、世界中の人の心がいっせいに愛で満たされることでしょう。

と、呼びかけます。
つまり、長々と解説が続きますが、要は「そう思えば世界が変わる」という単純なもので、その理論的根拠を物理的実験やら意味不明の理論を持ち出し、読者をだんだんその気にさせていってます。
それを実感させるのが上に挙げた「水そのものがまったく違うものになってしまいます。」の一文です。
この「水が違うものになる」というのは、実際は「そう感じる」という個人の「感覚」(または「気分」)であり、またそれは実際誰もが経験する事でもあります。
しかし彼は、その「個人的感覚」でしかないものを、水が「物理的に変化する」という意味に置き換え、その物理的根拠を述べる事により、読者をだんだんその気にさせていきます。
うまいです。実にうまい。
この視点のすり替えは見事と言う他ありません。
そして、p.142〔第5章 微笑はさざなみとなって〕 でも、自分の講演ツァーの話から、
(p.180)
水に汚い言葉をかけると水も傷つくのだから、他人にも傷つくような言葉はいってはいけないのだ、また「しなさい」という言葉はお母さんにはいってほしくない……。
という、思わずぐっと来る一文の後、
(p.186)
口から発せられた言葉は、パワーをもった言霊として万物に作用します。
(p.189)
言霊のパワーは瞬時に万物に影響を与え、世界を変えます。

と、読者に〔言霊〕という単語をキーワードとして植え付けます。
実際、投げかける言葉によって気分が良くなったり、悪くなったりする事は事実であり、言葉の暴力によるいじめ問題も後を絶ちません。そのような言葉の影響というものは、我々の日常の中に確かに存在します。
だから彼の言う「言霊」のパワーというものも、読者には素直に実感出来てしまうのですが、これも良く考えると、それはあくまで個人の感情や意識での事であって、これが「万物に影響を与える」とまではとても言えない事が分かります(彼が言っているのは、あくまで物理的な事象です)。
しかしそのような事も、彼の提唱する意味不明物理理論(E=MC~2(二乗)、Mは人の数、Cは意識)とか、祈祷でダムの水がきれいになった事例などを登場させ、読者をその気にさせていくのです。

一見荒唐無稽に見える事でも、それに読者の実体験に合致するような事例を挙げ、そこを意味不明の理論付けと体験談でその気にさせてしまう。まさに典型的な〔ある商法〕と同じ手段でありながら、それをそうと感じさせないのは、やはりあの結晶写真の存在なのです。

そしてさらにうまいのが、先の例でも挙げた「呼びかけ」です。

これはよく学校内で先生が使ったり、行事やイベントなどへの参加を募る時など、要は皆をその方向へ導くために使用されますが、これを彼は本の中の要所要所で積極的に活用しています。
私は一つの本の中でこれほどの「呼びかけ」を行っているものを、〔ある種の本〕以外知りません。
(p.82)
恋は周波数を上げ、人間を磨く起爆剤です。みなさん、生きている限り恋をしましょう。
(p.116)
あなたの体すべてを、美しい水の結晶でうずめてみませんか。
(p.122)
あなたが感謝そのものになったとき、あなたの体を満たしている水は、どれだけきれいになることでしょう。そのときあなたは、光り輝く結晶そのものになるのです。
(p.142)
あふれんばかりの愛と感謝で世界を包みましょう。
(p.199)
どうか、水が教えてくれたことをあなたの体いっぱいに受け止めてください。そして、多くの人に語り継いでいきましょう。
(p.206)(最終ページ)
最高に美しい水の結晶で、世界を埋め尽くそうではありませんか。

そして結晶に心奪われた者は、考える事を止めるのです。
彼は本当に、「言霊」のパワーというものを熟知しているのかもしれません。