杜の里から

日々のつれづれあれやこれ

SSFSさんのコメントへの返事(1/2)

前回記事のコメント欄にいらっしゃったSSFSさんが、「Yahoo掲示板/マイナスイオン監視室」の中で、レジュメに対してダメ出しをなされておりました。
しかしその内容を読んでみると、かなり偏向的な視点から批判なされているように感じます。
コメントへの返事の前に、ここではまずSSFSさんのその指摘について考えてみたいと思います(「マイナスイオン監視室」へのリンクはこちら)。

SSFSさんはまず、
(~前略)マイナスイオンについて長嶋(注:「長島」の記述ミス)氏の2008年度版を読んだときに、粗雑なプロパガンダだなぁ、とげんなりした記憶があります。2009年度版も大して変わりはありません。こんなお粗末な代物を学校教育の現場で取り上げるとはとんでもないことです。このレジュメを褒める人は、ニセ科学に対する見識を持っていないといえます。
と批判を始めます。そしてここでは、
>粗雑なプロパガンダ
>お粗末な代物
>このレジュメを褒める人は、ニセ科学に対する見識を持っていない
と結論付けているのですが、私がこのレジュメは良く出来ていると感じたのは、「血液型性格判断」「マイナスイオン」「水からの伝言」「波動」など、「ニセ科学」の代表選手とされる題材をすべて網羅し、尚且つ「ニセ科学」と呼ばれる所以やその問題点と対策などの要点が、初めての人にもよく分かるように易しく解説されているからです。
しかしSSFSさんは、発言のはじめに「マイナスイオンについて」と述べています。
この批判が果たして「マイナスイオン」のレジュメだけに向けられているのか、それとも【このレジュメだけを見てすべてがダメと言っているのか】この文だけでは何とも判断が付きません。
そして私はこの疑問を抱きつつ、どこがお粗末なのかを検討していく事になるのです。

SSFSさんはこのレジュメのお粗末さを以下のように、
大まかにいえば、このレジュメがダメな点は以下の3つです。
①具体的な文献に触れていない
②具体的な商品に触れていない
③kikulogの流れを汲んでいる
と、この3項目を挙げ、それぞれについて解説を行います。
まず①です。「マイナスイオン」とは?という自問自答で以下のように書いています。
● よくわからん。
● (きっと)誰にもわかってない。
● 定義が曖昧すぎる。
● 科学用語ではない。
● 推進勢力側には胡散臭い「学会」が多い
と、レジュメのp.12を紹介し、そして以下のように述べます(強調は引用者)。
マイナスイオンは大気中に浮遊する電荷を帯びた超微粒子水であり、酸素、硝酸、炭酸などの負イオンを包含する、と定義できます。それらについて、素人がネット検索で簡単に突き止められることを、プロの大学人が「よくわからん」の一言でさじを投げているようでは、お話になりません。最初から予断を持ち、調べるつもりはさらさらないというお寒い状況です。
初めからかなり辛らつな口調でこのページの内容を批判しています。ところがこの後のp.14とp.15を見てみますと、マイナスイオン推進側の言う「マイナスイオンの定義」というものが出てきます。
(p.14)
マイナスイオンってどんなもの?
空気中に含まれる僅かな電気を帯びた物質のこと
マイナスイオンとは、空気中に含まれる僅かな電気を帯びた物質
(原子、分子、又は分子集団)のことを指します。電気といっても本当に
小さなもので感電するわけではありません。
(p.15)
日本マイナスイオン応用学界では
イオンとは?
1.宇宙や地球に存在する電荷をもった原子、原子団、または分子をいう。
2.空気や水などに浮遊、溶解する双極の電荷をもった微粒子である。
3.機能性を有する第4の状態である-固体・液体・気体・イオン
4.プラス(正・陽・ポジティブ・カチオン)とマイナス(負・陰・ネガティブ・
  アニオン)などの呼び方がある。
5.空気イオンには、大イオンと中イオン、小イオン、また重イオンと
  軽イオンがある。
6.大気中のプラスイオンとは、水素イオン(H+)が水和した
  オキソニウムイオン(H3O+)(H2O)nである。
7.マイナスイオンとは酸素イオン、酸素核ラジカルイオン、
  ヒドロキシルイオンである。

8.マイナスイオンとは、このほかに炭酸核、硝酸核、硫酸核などの
  イオンがある。

9.マイナスイオンとは、電子e-である。
別に匙を投げている訳でもなく、ちゃんと調べてこうして紹介していますね。しかもSSFSさんよりも詳しいのを。
それにそもそもこれはレジュメですから、「よくわからん」という言葉も、これがどのような授業の流れで用いられたのかも考慮しなければなりません。
例えば授業の中で学生達に、
「じゃあ、君達はマイナスイオンって一体何だと思う?」
などという具合に聞いた時に挙げられる答えの一例としてレジュメを紹介する、という状況も考えられる訳です。
勿論これは私の想像でしかありませんが、とにかくこの「よくわからん」という言葉だけを取り上げ、
>お話になりません
とか
>最初から予断を持ち
>調べるつもりはさらさらない
>お寒い状況
などと決め付けるというのは、事実確認もせず自分の「思い込み」に捕われているという姿をあからさまに見せ付ける事になります。
事実関係を確認することなく勝手な推測から結論を述べる事は誤った認識を招く事にもなり、特に批判などを行う場合ここの所は一番注意しなければならない点ですが、SSFSさんはその作業工程を完全に忘れています。
と言いながら、ここで敢えて私の印象を申しますと、次ページの「化学におけるイオン」やp.22以降の「マイナスイオンの存在量」の説明を見てみますと、長島さんはこの分野にはかなりお詳しいのがよく分かります(と言いますか、そもそも長島さんのHPを見れば分かる事です)。
そしてSSFSさんは、
また、このトピで私とwinterry001 さんが紹介しているように、マイナスイオンに関する学術文献は国内外にたくさんあります。それらを一切顧みることなく、一方的な説明を羅列しているのは、長嶋氏の思考停止ぶりを端的に示しています。
などと仰る訳ですが、p.19で、
研究は色々あるようだが、どれくらいマトモな研究があるか
は疑問
とも述べており、またその前のp.17~p.18ではちゃんと具体的な文献にも触れてます。
そもそもこのレジュメのテーマは、

マイナスイオンが健康に良いと言われてブームになり、それがどのような事態を招いたか。そしてそこから学ぶべき事は何か。」

という事であり、過去に起こったマイナスイオンブームの検証とそこから導かれる問題点(それは現在にも通用する)を考える授業なのです(レジュメの題目もマイナスイオンと健康」となってます。)。
そしてこの授業での一番のポイントは、p.35以降の「マイナスイオンの教訓」であると私は読み取ったのですが、SSFSさんは果たしてここまで読まれたのでしょうか?
ちなみに「マイナスイオン監視室」も覗いてみましたが、そこでは確かに winterry001 さんがたくさんの論文を紹介されておりますが、多くは「negative air ion」と呼ばれるもの、内容もその組成に関するものが多く、つまり所謂「大気負イオン」に関する研究自体は確かに多く存在している事は分かります。
しかしここのテーマである「マイナスイオンと健康」に関する(具体的に言えば、「マイナスイオンを浴びると健康になる」という説の根拠となるような)論文に至ってはあまり見当たらず、あったとしてもその内容ははなはだ心許ないもののように見受けられます(この辺からですかね)。
ざっと見ただけではありますが、一言で言ってしまえばまさに長島さんの言う通りという感じです。このようなものをいちいち紹介していたらいくら時間があっても足りません(でも、これもひょっとしたら授業の中では説明がなされているかもしれません。あくまで私の想像ですが。)。
まあ今年度からの講義では期間は長いですから、今年のレジュメの中には2~3は紹介しても良いかとは思いますがね。
ついでに紹介しておきますと、「マイナスイオン」という言葉自体に対して winterry001 さんは、
(No.286)
私は、『大学教員が「マイナスイオン」研究をしているから、マイナスイオン生体影響は正しいのだ』、とここで主張するつもりは一切無く、「マイナスイオン生体影響は未科学である」および「マイナスイオンは科学用語ではなく、使うべきではない」という考えの持ち主です。
と述べてますね(これは余談です)。

次にSSFSさんは②の「具体的な商品に触れていない」に関して以下のように、
次に②の商品について。
長嶋氏がこのレジュメで引用しているのはイオントレーディングという通販サイトだけです。ここで扱っている商品には、いわゆる大手家電メーカーのものはなく、マイナーな商品にとどまっています。マイナーな商品を扱うサイトをわざわざ授業であげつらう意義は何でしょうか?
と、疑問を呈しているのですが、このサイトはわざわざ「マイナスイオンの専門サイト」と銘打っており、ここを見ればいかに数多くの「マイナスイオン」の冠を付けた商品が存在するのかが一目で分かります。
ここで見るべきは、いかに多岐に渡ってマイナスイオン商品が存在するかという事、そしてそれが尚、現在もこうして宣伝がなされている事を具体的に見る事が出来る、まさに学生達に紹介するには絶好のサイトであると私は思います(サイトはこちら)。
それにそもそも、このような疑問があるならば本人に直接聞けばそれで済む事です。私は今回このレジュメを紹介するにあたり、長島さんに直接連絡をとって了解を得ております。
そのような確認の一手間もかけずに、SSFSさんは自分の疑問を他人に預けてしまっています。

この後SSFSさんはマイナスイオンドライヤーが紹介されてない事に文句を付けるのですが、そもそも講義のテーマを理解していないのですから、その批判がいかに的外れであるかが良く分かります。
その一方で、マイナスイオン商品として最も売れているヘアドライヤーを、このレジュメは取り上げていません。家電量販店に出向けば、必ずそこにある商品アイテムを抜きにするのは的外れです。ナノイー、プラズマクラスターイオンといった派生技術・商品に目配りするでもなく、以下のような記述は時代遅れ、つまり手抜きです。
● 90年代末からスタート、2002年ごろをピークにブームが起こった
● 多くの家電製品に付加価値としてマイナスイオン発生装置がつけられた
マイナスイオンを放出するという観葉植物までが人気商品に
● 2004年ごろからブーム衰退、大手企業は撤退しだす。が、名前の異なる「~イオン」機能を各社が独自に開発
● 根拠の無いブームを煽った責任は誰も取らず
そしてこの一文をもってして、SSFSさんは本当にこのレジュメしか見ていない事がよく分かります。
>ナノイー、プラズマクラスターイオンといった派生技術・商品に目配りするでもなく、
と仰っておりますが、次の週に行った「水からの伝言」のレジュメの初めの部分、「前回講義に対するコメントから」の中では松下電工技報がちゃんと紹介されてます。しかも詳しく。(再び紹介、「水からの伝言」)。
SSFSさんはここでもまた、基本的な「確認」という作業を忘れています。しかも「マイナスイオンと健康」のレジュメにも「前回講義に関するコメントから」という項目があり、そこを見れば前回の授業で触れられなかった点や追加資料が紹介されているのが分かるのですから、当然次のレジュメにも何か書かれてある事は容易に想像出来るものです。が、SSFSさんはその事さえ思い付かなかったという事になります。
いやもしかしたらSSFSさんは、そこに書かれてあった事など何も見ることなく飛ばしてしまい、ただ「マイナスイオン」と名が付いた所からしか見ていなかったのかもしれません。
SSFSさんは前回エントリーの 2010-02-10 23:57:18 の私宛コメントで、
> osatoさんがお粗末なレジュメの中身を吟味することなく、
などと仰られておりますが、中身を吟味していなかったのは一体どちらでしょうか。「手抜き」などと失礼な言い方をしていますが、何の確認もしていないという「手抜き」をしているのはSSFSさんの方ではないでしょうか。

そして3番目は、私にはちょっと意味不明に思える理由が登場します。
そして③のkikulogの悪しき流れについて。
マイナスイオン3人衆やAP通信の記事をやり玉に挙げたところで、現在のマイナスイオン関連商品の隆盛とは無関係です。菊池氏らがメーカーとコンタクトを取らずに、子引き孫引きの情報でマイナスイオン商品を批判しようとしたセンスの悪さを、不幸にして受け継いでいます。
>現在のマイナスイオン関連商品の隆盛
このマイナスイオン関連商品というのがここでは何を指すのか今一つはっきりしませんが、仮にこれがドライヤーやだとしたら、元々「健康に良い」という説とは無関係なのですから「そうですね。」と言うしかありませんが、「健康に良い」というイメージから売れているものがあるとすれば「それは違うでしょう。」という事になります。
一体何をどう言いたいのか、この説明だけでは何も判断が付かず「意味不明」としか言えません。
それに、
>菊池氏らがメーカーとコンタクトを取らずに、子引き孫引きの情報でマイナスイオン商品を批判しようとしたセンスの悪さ
とありますが、kikulogの「マイナスイオン・ドライヤー」のエントリーを覗いてみると、そのNo.34へのコメントで菊池さんは、
ある大手メーカーの広報を通じて開発担当者に話を聞こうとしたところ、僕のウェブサイトに敵対的なことが書いてあるという理由で断られました。
と仰っており、菊池さんはちゃんとコンタクトを取ろうとしていましたが断ったのはメーカー側である事が分かります。この状況では子引き孫引きの情報で判断するしかないのですが、それを「センスの悪さ」と評する意味が私には理解出来ません。
そもそも「センス」というのは主観です。何を持って良いとするか悪いとするかは個人の主観によって皆違う訳です。
従って公平な判断をする場合はその評価基準が示されなければならず、それもなくただ悪いと評されても、その批判は「無意味である」としか言いようがありません。
一方SSFSさんは「マイナスイオン監視室」の中で、
(No.778)
ニセ科学の追及で何よりも大切なのは、ファクトファインディングです。ほかのことでもそうですが、とくにニセ科学関連では、人の商売に口を出すことがどうしても多いので、最新の状況を的確に把握しないと、批判が空回りに終わるどころか、思わぬトラブルを招きかねません。

ですから、いつも言っていることですが、固定観念や先入観を極力廃することがまず大切。なるべく多分野にわたって遠くからも近くからもウォッチすることが、公正なニセ科学批判につながると思うんですよ。一番それをすべき大学人が、方向性を見失っているのが情けないです。
などと大学人を非難しておりますが、それは自分自身だけが免罪符を与えられている訳では決してありません。
自分が批判する側となった場合、大学人であろうが素人であろうが程度の差こそあれその発言には「責任」が生じます。SSFSさんはまるで他人事の様に仰っておりますが、それはそのまま自分自身にも当てはまる事なのです。

SSFSさんのこれまでの批判を見てみますと、とても「ファクトファンディング」など行っている様子は見られません。
それどころか、
固定観念や先入観を極力廃することがまず大切
と仰っておりますが、固定観念や先入観にしっかり捕われているのはどなたでしょうか。
>なるべく多分野にわたって遠くからも近くからもウォッチすること
マイナスイオンしか見ていないのはどなたでしょうか。

これらの事を鑑み、尚且つSSFSさん自ら仰った事由にもより、あなたの批判は「公正な」ものとは到底言えず、私は、「お粗末である」というあなたの評価は不当なものであるという結論に至りました。

さて、最後の一文が残りました。しかし正直私は疲れました。
今回このエントリーを書くにあたり、「マイナスイオン監視室」や「kikulog」、その他SSFSさんが登場した多くのblogを改めて拝見させていただきましたが、かつてこれほど徒労感を覚えた事はありません(「ABOFANへの手紙」を除く)。
ですから最後の部分については、このままの形で紹介しておきます。これをどう評するかはご覧になっている方の判断におまかせします。

尚、長くなりましたのでSSFSさんの個別のコメントへの返事は(2/2)の方でまとめて書きたいと思います。
それと、まだエントリーの途中ですので、それまでコメント欄はしばらく閉鎖致します事をご了承下さい。
(2/2へ続く) 


繰り返しますが、このようレベルが低いレジュメをもとにした頭でっかちの大学の授業は、百害あって一利なしです。誤った知識と思考の作法を植え付けられる学生は不幸です。また、この授業の問題点に気づく人がいないことは、現代日本の知的貧困の表れと言えるでしょう。