杜の里から

日々のつれづれあれやこれ

EM・X というもの

河北新報3月22日の朝刊紙面に、ちょっと気になる広告が掲載されました。
その広告のタイトルはこんなものでした。

お叱りのお電話をいただきました。

これはかつて、「EM・X」と呼ばれていたものが「萬寿のしずく」と改名された事を告知する広告でした(クリックで拡大)。↓



「EM・X」という清涼飲料水は1994年に沖縄の「熱帯資源植物研究所」が開発し、それをイーエム総合ネットが販売するという形式をとっていました。
この「EM・X」というのはあくまで商標(登録番号:4617268、4677414、こちらから確認できます)であり、これが2008年3月をもってその商標使用契約が切れた事によりその名が使えなくなったため、新たに「萬寿のしずく」という名で改めて「熱帯資源植物研究所」から販売されていたのですが、どうやらその事はそれまでの愛飲者にはあまり知られていなかったようです。

と、ここまではこの広告で分かるのですが、注目すべきはこの2日後の事。
3月24日の朝刊で何とこの「萬寿のしずく」の全面広告が載ったのです。これには大いに驚かされました。↓



この記事内容をよく読んでみますと中々興味深い事が書かれていましたので、今回はちょっとこの「萬寿のしずく(旧名EM・X)」について考えてみる事にしました。

この「萬寿のしずく」ですが、HPでその製造過程(動画)が詳しく紹介されていますが、要は青パパイヤを主原料に、玄米・米ぬか・こんぶ・もずくなどを発酵させた健康飲料水である事が分かります。
ただこれが「EM・X」と呼ばれていた頃、私が気になっていたのはその「宣伝の仕方」でした。
「EM・X」の名は比嘉さんの著書「地球を救う大変革」(1993年)にも登場し、その中ではそれがどういうものであるかなどは紹介されず、ただこのような文言が並んでいただけでした(強調は引用者)。
(p.158)
ガンや糖尿病、肝臓病、膠原病アトピー、花粉症、パーキンソン病などの難治療の病気に対しては、抗酸化レベルのきわめて高いEM(別名EMX、またはSEM)を健康飲料的に使用し、大きな成果をあげています。~(中略)~
 このような経過を観察しますと、中期から三期のレベルであれば、特別なケースをのぞけばほとんどのガンに有効といえます。なんの手術もせず、ただたんに飲むだけです。
とか、
(p.165)
後天性の免疫不全症候群、すなわちエイズも従来行われている免疫強化などの方法と併用して体内の抗酸化力を高める治療をすれば、かなり効果が高まるのではないかと期待されています。この点もいずれ明らかとなるときがくると思いますが、EMXがこれまでみせた奇病・難病に対する驚異的な効果は、それを十分に裏付けるものといえます。
と、さもEMXというものが凄いものであるという印象を読者に植え付け、その後1994年に「EM・X」という名でこの商品が発売される訳です。
でもよくよく考えてみますと、「地球を救う大変革」が出版されたのは1993年、「EM・X」が一般に発売されたのは翌年ですから、本の中で比嘉さんが「大きな成果をあげています」と言っている「EMX」と、この「EM・X」は果たして同じものなのかという疑問が湧いてきます(発売まで臨床試験が行われたという記録も見つかりません)。
この後この「EM・X」はEMの医学への応用という事で盛んに宣伝され、1998年、EM-X予防医学研究所所長の田中茂氏が「EM-Xが生命を救う」(サンマーク出版)という本を出版し、その後2000年に比嘉照夫総監修による「EM医学革命」という本まで出版されるに至ります。
しかし「EM-Xが生命を救う」の内容を見てみますと、
 ・現代医療の常識ではガン消失はありえないが、EMーXはそれをしばしば起こす。
とか、
 ・前ガン状態で手術をする必要はない。EM-Xの飲用で改善する可能性が高くなったからである。
などとかなりオーバーな表現を用い、いかにも胡散臭い印象を与えます。
また、2001年(平成13年)に放送されたラジオ番組でも、比嘉さんはこのように語っています。
(抜粋)
EMの不思議な力というのはEMが作り出す様々な抗酸化物質は微生物が沢山作ってくれるわけです。この抗酸化物質を濃縮して微生物を取り除いたものをEM-Xといっています。~(中略)~
 コーヒーの苦み等の刺激物質は全て化学反応をしますので、イオンを持っています。EM-Xはこのイオンを消す力を持っています
さらに、2003年(平成15年)ではこんな事まで言っています。
(抜粋)
EM-Xは万能的な性格なんですが、これは保険がきかないので高いという意見があるんです。それよりも、EMの力を塩に転写させたもの、自然塩をEMやEM-Xで発酵させて酸化物を取り除いて、800度以上の高温で焼いたEM蘇生海塩という塩があるんですね。この塩の波動はEM-Xよりも高いんです。それを同時に飲むとEM-Xがさらに波動をあげるという不思議な現象があって、この塩を1日2、3グラム、体の具合の悪い人は10グラムくらいとって、EM-Xを30cc、今まで60cc飲んでいた人は半分くらい減らしてもいいです。
「万能」、「波動」、「不思議」、こんな単語が次々と登場してきます。
ちなみに、「EM・X」を「萬寿のしずく」と置き換えてみましょう。するとこんな具合になります。
〔「萬寿のしずく」が生命を救う〕
〔・現代医療の常識ではガン消失はありえないが、「萬寿のしずく」はそれをしばしば起こす。〕
〔「萬寿のしずく」は万能的な性格〕
〔「萬寿のしずく」がさらに波動をあげるという不思議な現象〕
実際「EM・X」=「萬寿のしずく」なのですからこれで合っている訳なのですが、こうやってみると、「萬寿のしずく」がいかにも怪しげなものという印象に変ってしまいます。
つまりこの「EM・X」という名称には「万能であるEM」というイメージが見事に投影されており、それ故EM信奉者にとっては何の怪しさも感じる事なく、むしろEMの万能性をますます実感させる具体例として認識される訳です。
以前のエントリー(「EMというもの」)で、EMはネーミングである事を述べたのですが、ここでもそのネーミングの妙というものが伺えます。

しかし、だからと言ってこの製品が何の効果もないと言うつもりはありません。
発酵の過程で様々な酵素が生み出される事や発酵食品の有効性などは一般的にもよく言われている事であり、「EM・X」も同じ発酵飲料なのですから何らかの有効成分があるであろう事は否定出来ないものです。
問題はそれがどのようなものなのかという事なのですが、比嘉さんはこれについて何も言及する事なく、ただ「波動」とか「万能」とか「不思議な力」などと言って、【EMそのもの】がいかにも凄いのだという印象を与えるばかりです。
例えば日本酒の美味しさなどを考える時、普通は米だとか水、気候風土、そして仕込みの仕方(製造工程)などが考慮されるべきものですが、それを比嘉さんはすべてすっ飛ばして、
「この日本酒が美味しいのは、すべて○○麹菌のおかげです。」
と言っているようなものなのです。

2008年、「EM・X」の商標契約が切れた年、今度はEM研究機構から新しい発酵飲料が「EM・X GOLD」という名で発売されました(サイトはこちら)。
そのため、「熱帯資源植物研究所」製造の「EM・X」はその商標を使えなくなり、改めて「萬寿のしずく」という名で発売せざるを得なかった訳です。
この「EM・X GOLD」のサイトを見てみますとそこには別段おかしな事は書かれていないのですが、実はEM愛用者向けの雑誌の中ではこんな宣伝が行われていたのです(魚拓はこちら)。
問題箇所を見てみましょう(赤線部分)。 ↓

「非イオン化作用と触媒的な機能を持ったヘリカル(マグネットコイル状)構造による三次元波動を強化したものになりました。この三次元波動はすべてのエネルギーの授受に励起的に作用する事が【確認された】からです。」
訳分かりません!

書かれている事も意味不明なら、【確認された】というのもどうやったのか、この説明ではさっぱり分かりません。
この新しい「EM・X GOLD」について、比嘉さんはこんな説明をしています。
これまでの研究で、この重力波」と思われる「波動」を強化すると、EMの総合的な効果が飛躍的に高まることが確認されたため、EM・Xをよりレベルの高いものへと改善し、今日のEM・Xゴールドにたどり着いたのです。改めて述べるまでもなく、EM・Xゴールドは従来のEM・Xの5~6倍以上10倍弱の「波動レベル」にあり、O(オー)リングテストでも簡単に確かめられるようになっています。
「波動レベル」という事は、つまり【波動測定器で測った結果】という事ですね。そして「O-リングテスト」でも確認されると。(こちらのサイト内の一覧表でも述べられています)。
先程の【確認された】というのは実はこういう事だった訳で、正直クラクラしてしまいます(ちなみに「O-リングテストとはこんなのです)。
そしてこんな宣伝が内向けには平気で行われているという訳です(紹介した比嘉さんの発言も皆EMサイト内でのものです)。
外向けではEMはこんな極端な宣伝はあまり行われていませんが、内向けにはこのような理解不能な説明を行い、何か分からないが凄いものだという印象を愛用者達に与え、そして彼らはEMというものは不思議な力を持っていると思い込んでしまい、それが口コミで外部に広まる。
EMの「万能性」を「盲信」してしまい、評判だけが先行して周囲に広まるという構図がこんな所から垣間見れるのです。

今まで盛んに「EM・X(萬寿のしずく)」を宣伝してきたEM-X予防医学研究所も、今はすべてこの「EM・X GOLD」オンリーになっています。
でもよくよく考えてみますと、田中茂氏が今まで盛んに効果があると言ってきたりまで出したりしていたのは、すべて「EM・X(萬寿のしずく)」だった訳です。
この田中氏が、原材料も違うし作用機序も明らかではなく、まだ臨床例も少ないこの「EM・X GOLD」を、ただ比嘉さんがそう言ったからといって簡単に認めてしまい、「EM・X」をまるで過去のものとしてしまっている様な姿勢には疑問を感じざるを得ません。
実際「EM・X」は「萬寿のしずく」として現在も存在しているのですから、通常ならば今まで通りにそれを紹介してもよさそうなものですが、販売元が変っただけでこうなってしまうというのは、やはりただEMの宣伝がしたいだけなのか、或いはEM業者側から何らかのコンタクトでもあったのかと、ついそんな穿った見方をしてしまいます。

この「萬寿のしずく」ですが、EMの冠を外した途端、その有効成分についての報道発表がなされました。 ↓(サイトはこちら)。


それを見てみますと、これは青パパイヤ他の原材料が発酵する過程で生まれた【色素成分】(こちらでは「PAC」と呼んでいます)に有効性が認められたようです(あくまで"示唆された"という事ですが)。
しかし「EM・X」は1994年からずっと販売されていたのですから、本来ならばこのような臨床試験などは以前から行われていても不思議ではなかったのですが、この結果はつまり、EMそのものではなく、あくまで原材料に由来する成分に効果の可能性があるという事で、EMの万能性を提唱する側にとっては実に都合の悪い事実と言えます。
それ故、知っていながら敢えて今まで公表してこなかったのか、或いはEMの万能性を信じるあまり、その作用機序など本当に解析していなかったのか、今となってはもう知る由もありません。
ただ、「熱帯資源植物研究所」が独自にこのような臨床試験を行いこんな発表をしたというのは、もうEM研究機構とは完全に決別し、自らの道を歩む事を宣言したとも言えます。
それは同時に、「EM・X GOLD」とは完全に商売敵になった事を意味します。

全面広告のインタビューで、社長の名護健氏はこのように語っています(読みやすいよう改行処理を行っています)。
これまでの実績と経験の積み重ねにより製品の機能性や効用について大きな自信を持っていましたが、それだけではお客さまにとって『特別なもの』になることはできません。お客さまと当社の間に『共感』が生まれなければならないのです。
そのために最も大切な要素が、先人たちが築いてきた『沖縄』という土地が持つ歴史と生き方、そこに生きるわたしたち自身の現在進行形のストーリーだと気付きました
「EM・X」の時代は、その評判の多くはEM側から与えられたもので、その効果はすべてEMの(「波動」の)おかげとされてきました。
しかしそのEMの冠をはずした時、名護さんは「EM・X(萬寿のしずく)」本来の価値に気付いたのではないでしょうか。
先人たちが苦労して作り上げた青パパイヤをはじめとする沖縄原産品の数々、試行錯誤の末完成させた独自の発酵技術、これこそが本当の「萬寿のしずく」の価値であり、決してEMそのものだけではないのだと訴えているようにも思えます。
今回の一連の新聞広告は、まさに「EM・X GOLD」(つまりEM研究機構)に対する挑戦状ではないのか、そんな思いを私はつい抱いてしまうのです。




(補記)
EM側のこのようなやり方に意義を唱えた批判サイトがあります。
ここの管理人さんは「EM・X(萬寿のしずく)」の愛飲者であったようですが、EM研究機構のこのやり方に疑問(というより怒り)を感じ、このような批判サイトを立ち上げました。
ここは初めは「EMXはすばらしい」という名で当初はかなり辛らつなEM研究機構非難を繰り返し、その都度削除要請を受けて何度も削除を繰り返し、現在はこのようにたっぷりと皮肉を込めてのサイト名となっています。
内容は完全に敵意むき出しとなっておりますが、それでも資料としては結構充実していまして私も時々参考にさせてもらっております(余談ですが、こうしてみると怒りのパワーというものは大したものであると改めて思い知らされます)。