杜の里から

日々のつれづれあれやこれ

生物多様性の見地からEM浄化活動を考えてみる

以前、外来生物問題を扱っているブログ「ならなしとり」でホタル放流の話題が登り、そこで管理人の梨さんとちょっとやり取りを致しました(→こちら)。
その後色々考えていた所、4月13日の河北新報に気になる記事が掲載されました。

 里にホタル再び
 角田・高蔵寺周辺
 住民ら推進母体旗揚げ  幼虫放流、環境整備へ

記事の取り扱い方としては写真のように結構大きめでしたので、この事からもこの事業がかなり注目されているのがよく分かります(クリックで拡大)。

   

詳しい記事内容はこのようなものです(強調は引用者)。
宮城県角田市高倉の高蔵寺周辺をホタルが舞う名所にしようと、「高蔵寺ホタルの里づくり事業推進委員会」が発足し、設立総会が6日、同市の西根自治センターで開かれた。
 ホタルの里づくりは、県内最古の木造建築で国重要文化財阿弥陀(あみだ)堂がある高蔵寺周辺で実施する。近くに高倉川が流れ、上流ではかつてホタルが乱舞する姿を楽しめたという。
 同所で数年前、ホタルの観察会を企画した経験がある推進委の堀米荘一副委員長(50)は「最近では生息数が少なくなり、発生場所も毎年異なる。餌になるカワニナが減っているのかもしれない」と話す。
 推進委は住民や市職員約50人で構成する。設立総会では、今月24日にホタルの幼虫とカワニナを放流するのをはじめ、河川清掃、EM菌(有用微生物群)発酵液の投入など、ホタルが生息しやすい環境づくりに向けた活動計画を決めた。
 ほかにも、幼虫を地元の小学校や幼稚園の水槽で飼育してもらう取り組みや、ホタルの生態と観察方法を紹介する看板の設置、ホタルまつり開催なども検討している。
丁度前回のやりとりの後でしたのでこの活動内容が気になってここに確認してみた所、今回の幼虫放流に際してはNPO「日本ホタルの会」の指導の元に行っているとの解答を得、ちゃんと環境には配慮して行われる様です。
ただ、記事にはその事が載せられていなかったのでそれも告知しておいた方が良いかもと意見しました所、サイトの方では新たにその文言も載せられました(→こちら)。
ただし、幼虫放流に関しては一応安心はしたのですが、記事によるとその後の活動として、「EM発酵液の投入」なども行われるとの事で、私はここに疑問を感じてしまうのです。

EMは「光合成細菌」、「乳酸菌」、「酵母菌」など、5群80種の菌から出来ていると言われています。
しかし、一口に光合成細菌と言ってもその種類は何十種にも及び、乳酸菌に至ってはそれこそどのぐらいの種類があるのか分かっていないのが現状です(食品に限っってもこれぐらいの種類があります)。勿論これは他の菌についても同様です。
しかしながら、EMに含まれる菌の種類は何も公表されていないため、具体的にどのような菌が含まれているのかは実は何も分からないのです。
これら光合成細菌とか乳酸菌などの菌達は当然自然界にも存在しており、その土地土地の環境に適応した形で生きていて、それらは土着菌とか常在菌などと呼ばれています。
そこにEMを投入するという事は何も問題はないのでしょうか?
EMは沖縄で開発されました。つまりEMに含まれるのは沖縄生まれの菌達であり、今までそこの環境に適した形で存在してきた菌達です。当然本土との菌層とは異なっていると考えるのが自然です。
そうすると常在菌から見れば、EMは外来種と同じなのではないでしょうか。

最近はホタルの幼虫やそのエサとなるカワニナの放流などで、生態系保全の視点から色々と提言がなされてきています(こちらとかこちらなど)。しかしこの視点を、もっとミクロの世界にまで広げる事はあまり行われてはいないようです。
同じ種類のホタルであっても、遺伝的形質を見ると土地毎に差異があるのと同様、微生物達もその土地土地によってそこの環境に適応した形で存在しています。
事実、ある地域で新種の菌が見つかったという報告もあり、発見者の人は新たに会社まで立ち上げてしまったほどで、この例のようにその土地固有の菌というのは確かに存在しているのです。

この記事が載った同じ日、河北新報では第2朝刊として「NIE(Newspaper In Education)特集」というものが付いてきました。これは毎月第2・第4火曜日に発行される小中学生向きの新聞で、宮城県内の小学校紹介と学習のための特集が組まれているものです。
そしてこの日の特集がちょうど、環境省が行っている調査プロジェクト「いきものみっけ」でした。↓

   

そこにあった「生物多様性」の項目にはこんな説明がなされていました。↓

   
(引用)
生物多様性とは?
 地球上にさまざまな生態系や生物が存在し、そ
れぞれがつながり合っているのが「生物多様性
が保たれた状態です。共生関係や食物連鎖など
の「つながり」は分かっていないことは多く、つな
がりの一つが欠けたらどのような影響が出るか
分からないため、多様性の保全は重要です。

言うまでもなく、自然は「食物連鎖」で成り立っています。そしてこの食物連鎖の最小単位が微生物達です。
微生物が分解したものや微生物そのものを微小生物が捕食し(微生物食物連鎖)、その微小生物をさらに大きな生物が食べ、と言う具合にしてやがて自然界の大きな食物連鎖が成り立っていき、河川ではそれが自然の浄化作用として働いていきます。
そしてその浄化能力の限度を超えた汚れが流入した時、つまり自然体系のバランスが崩れた時、川はどんどん汚れていってしまいます。
だからまず、汚れを川に流さないという事、つまり『元から断つ』という事が重要であり、汚れたから新たな微生物を投入するというのは本末転倒ではないかと思うのです。

私も使用している「えひめAI(MAIENZA)」の開発者である曽我部義明さんは、「えひめAI」の河川への直接投入は固く禁止しており、あくまで家庭内や浄化槽での使用に限定しています。
また「えひめAI」の講習会では生態系の観点からの環境授業も行われており、そこでも
 「微生物の世界でも、地域性保護の観点から外来生物を持ち込まない方がよい」
と教えられています。
無節操に「ジャブジャブ使う」などと煽っているEMとはえらい違いです。

EMも河川への直接投入ではなく、家庭内や学校内の清掃とか、せいぜいプール掃除位までの閉鎖系での使用に留めるべきだと思います。
微生物の営みはそこの生育環境に大きな影響を受けており、彼らが活発に働ける環境をいかにして整えるかという事、つまりそこに住む生物の身になって考えるという事が重要ではないのかと私は思うのです。
生物多様性」の視点からEMの河川への直接投入という行為を見た時、そこには実は大きなリスクが潜んでいるのではないのかと、私はつい不安に駆られてしまうのです。