杜の里から

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中川恵一「被ばくと発がんの真実」を読む

福島市在住の友人からの薦めもあり、中川恵一著「放射線医が語る 被ばくと発がんの真実」(ベスト新書、税込800円)を読んでみました。
中川さんについては以前からネット内で「team nakagawa」とかTogetterなどで情報は追っていまして、最近もこのようなエントリーがご本人から発信されていた事もあり、待ちに待ったという思いで手にした次第です。

本の中身は、決して専門用語ばかり羅列する事無く誰でも平易に読める様工夫されており、対象としている読者層もあくまで一般市民、特に子を持つ親御さんを意識して書かれている様で、最後まですらすらと一気に読めてしまいます。
ただ、あまりに平易に書き過ぎていて、これまで様々な放射線情報を収集していた人にとっては少々物足りなく感じるかもしれません。
また、どうしても説明内容が駆け足の様に感じられる所もあり、もう少し原典の案内なども載せた方が良かったのかなとも思います。

気になった所では、【論争の的「100ミリシーベルト以下の被ばく」をどう見る】(p.26~p.30)の項目ですが、ここではもう少し「リスク」という言葉に対する説明をしても良かったのではないかと思います。
「発がんのリスクが上昇する」という説明では、多くの解説でこの本も含め以下のようなグラフがよく用いられます(p.29)。
  

これが必要以上の誤解を与えるものと思われるのですが、前回エントリーで取り上げた「超原発論」DVDの中で紹介されていたグラフがより現実的に思えたので、ここで改めて紹介しておきます。
 

つまり、放射線の影響がまったくないとしても、元々ガンで死ぬ割合のベースは常にこれだけ(30%)存在しているという事です。
ですから、本の帯では「フクシマではがんは増えない」などと赤文字ででかでかと書かれていますが、これも「がん患者が出ない」かのごとく誤解されやすいと思えるので、そこは注意が必要だとも感じます。

p.128~129では欧州放射線リスク委員会(ECRR)の事を「国際機関からはほとんど評価されていません。」と一刀両断に切って捨ててしまってますが、この辺りについてはこちらで詳しく述べられていますので、未読の方はぜひお読みになっていただきたいと思います。
また、『クリストファー・バズビー氏が放射線に効くという「サプリメント」の販売に関与していると報じられている』との記述もありましたが、こちらのサイトを見ますと、只今何やら事が進行中の様です。


震災から10ヶ月経過し、当初混乱していた放射線情報も大分落ち着いてきたかと思いきや、未だに偏った情報が氾濫しています。
その事に対して著者の中川恵一さんは「はじめに」の部分で以下のように述べています。
「(事故後25年の状況を分析した結果)、放射能という要因と比較した場合、精神的ストレス、慣れ親しんだ生活様式の破壊、経済活動の制限、事故に関連した物質的損失といった、チェルノブイリ事故による他の影響のほうが、はるかに大きな損害を人々にもたらしたことが明らかになった」
 私は、さまざまな情報が乱れ飛ぶいま、日本において同様の事態が起こりうることを、非常に心配しています。なぜならば、誤った情報によって植え付けられた恐怖心や不安に基づく行動により、さらに別の深刻な被害が生まれる可能性があるからです。専門家でない人たちまでが堂々と「放射線の脅威」を語っていますが、彼らはいったいこのような可能性について考えたことがあるのでしょうか。私はそれに、怒りに近い感情を覚えています。
(p.5~6)
この一文に中川さんの思いが込められています。そしてその「思い」が、行間のあちこちから滲み出ているかの様にも感じます。

p.145には、福島県の農民をオウム信者にたとえて物議をかもした、あの群馬大教授早川由紀夫氏が作成した放射線拡散地図が敢えて掲載されています。
これなどは、中川さんが早川氏に宛てた無言のメッセージの様に見えてしまったのですが、果たしてこれは、私だけの穿った見方なのでしょうか。