杜の里から

日々のつれづれあれやこれ

中村仁信氏は1ミリシーベルトが危険というのは誤解であると言っていた(前編)

前回の武田教授のエントリーでは思いもかけず多くの方がおいで下さり、改めて武田教授の人気の程をうかがい知る事となりました。
さて前回は、「たかじんの超・原発論」DVD中の特別企画、『「超・放射線論」 中村仁信vs武田邦彦』というガチバトル対談での武田教授の発言を中心に紹介した訳ですが、対する中村仁信氏も対談の中で注目すべき発言を行っています。
中村仁信氏は1995年から大阪大学医学部放射線科教授、そして1977年から4年間、国際放射線防護委員会(ICRP)の委員も勤め、放射線防護委員会の委員長も務めている方です(DVDの解説より)。

本来この対談は、「たとえ低量でも放射線は極めて危険」と言う武田邦彦教授と、「低量放射線は人体に影響がない」とする中村氏とのケンカ対談という形で始まったのですが、ご存知の通り武田教授もホルミシス仮説の支持者であったという事で、話は当初の予定とは別な方向へ行ってしまった訳ですが、それでもこれ以外の話題では中々興味深い事が述べられていました。
実は私としては、武田教授の話よりも中村氏の話の方がより広く聞かれるべきであるという思いを抱いています。
そういう意味で、ホルミシス仮説についてはあくまで中村氏個人の考えという事であってそれについては留保しますが、今回はそれ以外の中村氏の発言に注目してみたいと思います。ただ随分長くなってしまい字数の関係もありますので、このエントリーは二部に分けてお送りしようと思います。
また、DVDの再生時間も示しておきますので、ぜひ前回エントリーと併せて読んでいただけたらと思います(強調は引用者によります)。

原発事故の際、政府が示した1ミリとか20ミリ等の放射線の安全基準というものがその時は国民によく理解されていなかったため、政府のみならずICRP自体の信頼性にも疑問符が投げつけられてしまった訳ですが、実はICRPはかなり安全サイドに立った考え方を採用している事が中村氏の口から語られています。
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(7分30秒)
中村 「さっき1958年の勧告と言いましたが、この頃には公衆被ばくの限度というのは5ミリシーベルトでした。」
宮崎 「年間線量ですか?」
中村 「ええ、年間。で、線量率と言いました。線量率の事をちょっと話したいと思いますが、急性被ばくと慢性被ばくの影響の違いです。
 
 急性被ばくですと一回にボーンと当たる、でそれに対して修復というのは必ずあるんですが、一回に対して修復は僅かですが、分割すればするほど修復も大きくなりますので、分けて当てると一回に当てるとでは影響が違う訳ですね。これは放射線治療でもそのために分割してる訳です。
 じゃあどのぐらい分けたらどのぐらいどうなのかというのは中々よく分かってないんですけども、これを線量・線量率効果係数、ちょっとややこしいですが、例えばこれはICRPは「2」と考えてるんですけど、要するに慢性に与えると影響は半分になるという意味です。」

 
~(中略)~
(16分30秒)
中村 「安全側の話ですが、さっき慢性で「2」と言いましたね、慢性ですと半分になる。実は国連科学委員会では2から10という風に資料を出してました。
 
 で、実際多くのその後の研究でも2~6ぐらい、多くのがんは4~5、つまり1/4、1/5程度の影響と考えるのが一番いいんですけども、ICRPはあえて非常に安全側に立って「2」と、影響は半分やと。本当はもっと低いだろうと思う人も実際多いんですが、まあ「2」という風にしてると。非常に大事をとったやり方で今まで勧告を出してきたと。これは間違いないと思うんです。」

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この線量・線量率効果係数(DDREF)についてはこちらの議論が参考になります。
この間に前回問題となったホルミシス武田発言(30分~)が入る訳ですが、討論ではその後、「しきい値」に関しての議論が続きます。
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(36分30秒)
中村 「しきい値もあるがんもあって、それは明らかに放射線によるがんなんですね。ところが多くのがんはいろんな要素が重なってがんになります。さっきちょっと公衆被ばくが5ミリから1ミリになったと言いました。職業被ばくも最初50ミリだったんです、年間。それが今20ミリです(→参考(1)(2))。
 なぜそういう風になったかというと、その後ずっと調べてるとガンがどんどん出てきた、増えてきました。で、これは、歳をとったら当然ガンは増える訳ですよね。だけどまあ一応そのグループの人、放射線を浴びたグループをずっと調べてます、ああガンが出てきたと。それぜんぶ放射線によるガンになってしまうんです。」
宮崎 「ちょっといいですか? 今歳をとる事によってがんが増えてくると。これ加齢の効果と放射線の効果と統計的に分離する事は出来ないんですか?」
中村 「出来ないと思いますね。してないですね。」

(武田教授もがんの原因を特定する事は困難であると同意。)
(38分)
中村 「歳とって当然原爆の人達も戦後何十年にもなってきていて、色んなリスクが増えていってがんが増えてきます。でも一応その人達ががんになった場合は「原爆による」とされてしまうんです。」
~(中略)~
 「言いたいのは、放射線【だけ】を考えた場合しきい値もあるし、とくにそのさっき言いました様な放射線によってなったがんというのはかなりの量なんです。ですからそんな僅かな量ではそれだけではがんになりません。しかしいろんなリスクが重なってがんになる、これを基本に言っておきたい。」 
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この後前回エントリー(41分)の討論が続き、武田発言「だけども専門家が捨てないのに、僕が勝手にこれにバツ付ける事は出来ないです。そこ!」となります。
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(45分)
中村 「中々ね、過去に言った事を、いやこれは取り消しますと中々言わないんですよ。(中略) ICRPも委員がどんどん変わりますしね、次々に。前の人が言った事をいちいちあれは間違いでしたとはそんな事言いません
 それで、ICRPおよび日本医学放射線学会の今の考え方を言います。
 
 これは「防護量」という概念を取り入れてます。要するに線量規制とかをする時に、1ミリシーベルトまでですよと言っておくと便利な事が色々あるんですね。
 例えば病院の放射線を扱ういろんな管理区域とかありますね。一般の人は1ミリシーベルトまでですからこんなとこ入れませんよ、とか、放射性物質を色々商売にしてる人があったとしても、1ミリシーベルト超えたらだめなんだと、法律で決まってるんだと。という事は、ある意味で「防護」のための線量だと。決してそれが、1ミリシーベルトを超えると何かなるという線量ではありません。」
宮崎 「要するに立ち入り規制とか流通規制をするための、(防護のための)猶予規制の高い、数値としての線量と。」
中村 「まあそう考え、ICRPもそう言ってますし、放射線医学協会でもそれを取り入れてコメントを出してるんですけども、それで未だに1ミリシーベルトというのがずぅっとICRPでも残ってます。で、私はどっちかというとそれは変えた方がいい、で、変えようとした委員長もおられました。しかし中々変わりませんでした。」
宮崎 「変えるとしたらどう変えるんですか?」
中村 「たとえば5ミリでもいいですよ。もうちょっと前は5ミリだったんです。で、実際ICRPの委員の人は個人的に話しますと、どのぐらいまでどうなんやろねと話しますと、『サブテンはOKだよ』と。『10ミリシーベルトでなんか問題ないよ』と皆言うんですよ。
 だけど、じゃもっと上げたらいいのにと言うと、いやまあそれはそう簡単にはいかないと。今はもうこれは防護のための線量だという事になってしまっているんですね。だから、影響があるからそこで線を引いてるんじゃないと。」
宮崎 「なるほど。」

~(中略)~
(52分)
中村 「1ミリシーベルトになった理由からまずいきましょうか。
 最初5ミリにしてました。これを1ミリシーベルトにした理由はさっき言ったようにがんが増えてきたと。それは年と共に増えるのは当たり前だけど、それが全部原爆のせいになってる。ですから原爆のせいでがんが増えてるんだから基準を下げようと。
もう一つは線量の問題もありました。中性子がありますね、原爆の場合は。中性子の線量の見積もり方が変わった。当初は多分多く見積もっていたんでしょうね。それがそれほどでもないという事になりますと、線量が少なくてもがんが出ている事になりますので線量を下げたと。
 そういった大きな2つの理由で1ミリにしてるんですけども、さっき武田先生が出されたような、細かく考えて1ミリにしてる訳ではありません。まあざっくりと、このぐらいでしとくという様なのが1ミリなんです。
 で、ICRPは決して1ミリを超えたらガンが増えるというのは多分、昔は少しでも危険だと言ってましたから危険なんですけど、じゃあ1ミリでどのぐらいガンが増えるとはっきり言って警告した事は多分ないと思うんです。
 ですけど、日本ではそれを取り入れて法律にした。で、法律になった以上これを守ろうとする人がある。で、そういった事情は分からないけども法律で1ミリになってしまってるんだから、これは1ミリは超えると怖いんだろうと思ってしまわれている
~(中略)~
 こういう、1ミリでガンが出来ると思われてしまっている誤解を解かないといけないんですけども、まあそこまでの努力を関係者がしていないと言えばしていない。」
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この後武田教授が「低い方が取扱量が増えるから業者が儲かる」との発言をし、前回エントリーの55分目、〔5ミリシーベルト安全発言〕に繋がっていく訳です。
では本当に安全な被ばく量とは果たして一体どれぐらいなのでしょうか?
この後も中村氏の説明は、まだまだ続いていくのです。
続く)