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埋もれていたEM実験報告-岡山県環境保健センター年報より-

環境浄化にEMは効果があるのか?
EMを河川に投入するという環境浄化活動では、常々このような疑問が言われていますが、それを公的機関が検証して発表する事は極めて稀な事で、資料を探してみてもこれぐらいしか見つからないのが現状でした。
この度EM問題を追っている呼吸発電さんが、岡山県環境保健センターで行われた検証実験の報告を見つけてくれました。ありがとうございます。
そしてその内容が極めて重要であると思われましたので、改めてここで紹介したいと思います。

見つかった資料はこちらの2点、岡山県環境保健センター年報の第19号(平成6年)と第20号(平成7年)で、EMの検証実験結果はそれぞれp.33とp.54に掲載されています。

第19号では「フラスコ実験による汚濁湖沼の浄化に及ぼすEM菌の効果の検討」と銘打ち、児島湖の水を季節毎に94年9月(夏)、11月(秋)、95年1月(冬)、3月(春)の4回、場所も4箇所から採取し、使用したEMは「救世EM1」(自然農法研究所:現EM研究所)、それを1/100、1/1000希釈したものと無添加のとを比較しています。
   

実験結果は「まとめ」の部分にあるように、
いずれの系においても対照系(非添加系)と比べて著しい水質改善は認められなかった
と否定的な結論となったのですが、このまとめでは更に、
今後、本研究を進める上では大型水槽による物質循環を考慮した室内実験、あるいは用水路や池沼における野外実験で検討を加え、総合的な解析を行う必要があると考えられた。
としてこの実験結果だけでは不十分として、この言葉通り翌年には、今度は更に大掛かりな実験が行われています。
その模様が第20号のp.54に「汚濁湖沼浄化に及ぼすEM菌の効果に関する研究」として掲載されています。
内容は前年度のフラスコ規模の実験に加え、
 ・障害性プランクトン増殖への影響
 ・水槽規模
 ・用水路規模
 ・小規模閉鎖性湖沼
 ・中規模閉鎖性湖沼
という、実験規模の大きさを変えた環境で実験が行われました。
その結果は、
 ・障害性プランクトン増殖抑制効果→認められず
 ・水槽規模の水質改善効果→認められず
 ・用水路における水質改善効果→一時的水質向上ただしT-P(リン化合物)には効果なし
 ・小規模池の水質改善効果→窒素、リンの除去には効果なし
 ・中規模池の水質改善効果→浚渫後にEMボカシ袋投入→悪臭低減→浚渫による効果と推察
となり、結局、いずれの場合もEMによる著しい効果はなかったとする報告となっています。

ただこの報告書で注目すべきは「4.考察」の項目で、そこには極めて示唆に富んだ重要な提言が述べられています(以下改行・強調処理は引用者によります)。
例えば以下の部分でも、単にEMに効果がなかったと示すだけではなく、
本調査研究においては、水圏生態系の物質循環において重要な役割を担う底泥を含めた系全体としては窒素およびリンの効率的な除去は期待できない結果となった。
したがって、EM菌を用いて水質浄化を図る場合、
(1)SSの除去(透明度の向上)、(2)有機物の除去、(3)悪臭の除去
を主目的とし、窒素およびリンの除去は、例えば水生植物による吸着や底泥の浚渫をはじめとする何らかの別な手法と組み合わせることにより系外へ持ち出す必要があると考えられた。
また、浚渫した底泥の処理や回収した水生植物の堆肥化にEMボカシの技術を応用する事も考えられる。
と、EMの別の利用法を模索していて、ただ全面的にEMを否定するだけではない所が注目されます。
しかしメーカー側が言うEMの水質改善効果については、
微生物による汚濁水域の浄化、すなわち自浄作用は、細菌や微小動物などの微生物の代謝を利用して水中の有機物を分解するものである。~(中略)~
EM菌は好気性細菌群と嫌気性細菌群が共存していることに特徴があるとされており、両者の代謝がうまく噛み合って働いたときに効果的な水質浄化が成立する。
したがって、汚濁湖沼の浄化を図る上では、EM菌や微生物製剤を闇雲に投入するのではなく、微生物間相互作用をはじめとする各種要因を調査・検討し、特に物質循環を考慮した効果的な投入法を検討する必要があるものと考えられる。
として慎重な運用を求め、尚且つ普段見落とされがちなある視点が述べられます。
ここが一番重要な部分です。
環境改善を前提とした環境保全の立場からは、「微生物相改善製剤」の「微生物のバランスからの評価」が最重要事項となる。
EM菌を汚濁水域に投入するということは、すなわち、外来生物による既存の生態系への侵略という、生態学の分野では古くから論じられてきた問題にほかならない。
有用微生物群とはいえ、気候も風土も異なり、土壌には当然異なる微生物相が形成されている沖縄県の土壌から分離したEM菌をそのまま大量培養(複製)して岡山県の土壌に導入する場合に、微生物生態学的には、EM菌の導入は生態系を構成しているエネルギーフロー、物質循環、捕食被食、突然変異、競争、逃避、寄生をはじめとする微生物間相互作用に対して少なからず影響を及ぼすことが懸念される。
したがって、EM菌をはじめとする微生物製剤を有効活用するためには、生態系および環境に及ぼす影響に関してよく理解した上で適正な使用方法を確立する事が必要であると考えられる。
これらの実験は17年もの昔に行われたものではありますが、その提言内容は今現在でも少しも変わる事なくそのまま通用するものです。
いやむしろ、子供達を巻き込む形で全国的に環境活動が行われる様になった今こそ、この提言はもっと広く知られるべきだと私は思います。
「EMを入れれば浄化される」
そんな単純な思いだけでEMを投下している人達は、今一度この提言を心して聞いてもらいたいと願うものです。


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