杜の里から

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「震災を思い出して」は要らない

今日の新聞に、NHK津波警報の表示が変更されるという記事がありました。
ネットでも以下の様に記事が紹介されています。
47NEWSより
NHK、津波警報の表示変更へ 分かりやすさ重視
 NHKは20日、気象庁が3月7日から津波警報を改善するのに合わせ、テレビ画面でも危険性や避難の必要性を分かりやすい表示で呼び掛けていくと発表した。
 NHKによると、津波が3~10分以内に到達すると予想される場合、視聴者が直観的に危険性を感じてもらうため、画面表示は「すぐ来る」といった短い言葉にする。
 子どもや、日本語をあまり理解できない外国人にも分かるように、画面右上には「すぐ にげて!」と平仮名で大きく表示する。
 気象庁は、M8超の巨大地震津波警報では第1報を津波の高さではなく「巨大」「高い」と改める方針で、画面でもそのまま表示する。

2013/02/20 20:31 (共同通信
 
 http://www.47news.jp/CN/201302/CN2013022001002110.html
津波警報に関しては、昨年の12月7日に宮城県を襲った地震の際に、NHKでは今までよりも強い口調で避難を訴えるという放送がなされましたが、今回は気象庁津波高さ表記の変更も伴い、改めて津波警報画面の表記も変更されたという事です。
この表記の変更についてはNHKのHPに専用サイトがオープンし、そこに分かりやすく解説がなされています。(→こちら
注目すべきは、今回10メートルを越える様な巨大津波が予想される場合、NHKでは「東日本大震災級」という表記を用いる事です。

      
そしてNHKは前回(12月7日)と同様に、強い口調で避難を訴える様です。
ただ、問題はその文言です。
前回は避難を訴える警告中に、
東日本大震災を思い出して下さい。」
という文言があり、これが被災者の間から
「当時を思い出してつらい」
という意見があったという事を前回エントリーの追記部分で紹介しましたが、その件について朝日新聞で取り上げられていました。
朝日新聞デジタル  2013年2月20日21時21分
東日本大震災を思い出して」継続 NHK津波警報
 【河村能宏】NHKが津波警報時に「東日本大震災を思い出してください」などと強い口調で避難を呼びかけることに対し、被災地などから見直しを求める声が一部出ていた問題で、NHKは「人命救助につながる説得力ある表現」として引き続き使うことを決めた。石田研一放送総局長が20日の定例会見で明らかにした。
 NHKは東日本大震災を教訓に一昨年11月、呼びかけ方を変更し、昨年12月の宮城県沖地震による津波警報時に初適用した。視聴者らから評価する声が出る一方で、被災地を中心に「当時のことを思い出してつらい」といった声も上がったため、災害情報の専門家に意見を求めるなどして局内で再検討していた。
 石田放送総局長は「東日本大震災の時にもっと強く避難を呼びかけていたらより多くの命を救えたとの思いがあり、当面今の表現を続ける」などと述べた。

 http://www.asahi.com/national/update/0220/TKY201302200382.html
この記事の通り、NHKでは現在の表現を今後も続ける方針の様ですが、今日の表記変更のニュースを受けた今、私は果たしてあの
東日本大震災を思い出して下さい。」
という文言は本当に必要なのだろうかという思いを強くしています。
記事中では
石田放送総局長は「東日本大震災の時にもっと強く避難を呼びかけていたらより多くの命を救えたとの思いがあり、
とありますが、あの時は誰もまさかあんな規模の津波が襲ってくるとは思ってはいませんでした。
でも今はもう違うのです。
また大きな地震が襲ってきて津波警報が出た時は、わざわざ改めて言われなくても、日本人なら誰でも皆、『あの時』を思い出すはずです。
それにそもそも、今回は津波予想の中でも東日本大震災級」との表記がなされるのです。
ならば尚更、「思い出して下さい。」などという文言は不要です。

津波警報が出て避難する時は、なるべく落ち着いて冷静に避難行動に移らなければなりません。
しかし自分では冷静でいるつもりでも、他の人から改めて繰り返し繰り返し煽られたりした場合、『あの時』の辛い記憶が思い起こされ、やがて逆に冷静さが失われてしまうという事が起きないとも限りません。
事実、津波被害を直接被った訳でもない私でも、前回の放送をずっと聞いている内に段々息苦しくなり、しまいには放送局を変えてしまったぐらいです。
丁度震災直後、周りから浴びせられ続けた「頑張って」の言葉でで苦しんだ人達の事を思い出します。
自分でもとっくに分かっている事を、また敢えて他人から、何度も何度も繰り返し浴びせられる事こそ苦痛なものはありません。

もう一度はっきり言います。
東日本大震災を思い出して下さい。」の文言は要りません。

放送局の人達の思いは分かります。あの時もっと強く訴えていたらという後悔の念も理解出来ます。
でもこの文言は、果たして本当に、避難する人に向けられたものなのでしょうか。
避難する人に必要なのは、『あの時』を思い出す事ではなく、今現在の「リアルタイムの情報」なのです。
津波がどこまで迫っているのか、他の地域はどうなっているのか、そして我々は、一体どうなってしまうのか。
この情報の飢えこそが、やがて不安とパニックを呼ぶのです。

あの震災時、NHK津波報道にはこれが決定的にありませんでした。いや正確には、停電になってしまった現地にいる人に直接訴える手段もなく、便りのラジオもリアルの情報に対しては無力であったと言う事です。
このリアル情報の欠如こそ、大きな津波被害を生んだ一因でもある事を忘れてはなりません。
あの日あの津波を乗り切った巡視船の映像を後にネットで見ましたが、もしあの時に、あの状況がすぐさま放送されていたらと今でも思います。
たとえ映像は無理としても、あの時、あの船から本部に送られた無線情報がすぐに放送局に渡され、津波の規模・位置・到達時間などがそれこそリアルタイムで放送されていたら、沿岸の人達はもっと早く危機的状況に気がついたのではないかと思えてならないのです。
今後放送局が流す津波情報は、津波が沿岸に到達してからではなく、沖合いにいる船からの無線情報や津波観測ブイの情報など、これらのデータがその本部だけではなく放送局にもリアルタイムで送られ(共有され)、津波到達前にその正確な情報をいち早く視聴者に伝えるというシステムの構築こそ、放送局に与えられた使命ではないかと私は思います。
そして最も大事な事は、津波の時だけ思い出すのではなく、未来永劫今回の震災を絶対に風化させない事です。

東日本大震災を思い出して下さい。」

これは避難する人に呼びかけるものではなく、実は報道する人が自身に呼びかけるものなのかもしれません。

(参考サイト)
NHK NEWS WEB 「津波警報が変わります!」
気象庁 「津波警報の改善について」


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