杜の里から

日々のつれづれあれやこれ

EM報道は正確に

EM菌を用いた活動を新聞記事として紹介するのは妥当な事か?
以前毎日新聞の斗ヶ沢秀俊記者が、Twitter内で本社宛の提言をアップして話題になり、ネット上ではこの様なまとめが作られています。

「蔓延するEM支援報道の終焉に向けて、斗ヶ沢秀俊氏の提言」

この中で斗ヶ沢さんは、なぜEM菌報道を行うべきでないかについて、以下の2点の理由を挙げています。
(斗ヶ沢さんのツイートより引用)
・ EM菌が河川やプールの浄化に効果があるという科学的証明がないこと、比嘉照夫氏が「科学的検証はまったく必要ない」と第三者による科学的検証を拒否していること
・ EM菌が企業の商品にほかならないこと


このツイートは2012年8月20日のものでした。
しかしこのまとめから10ヵ月後の今年(2013年)の5月、ネット内で気になる記事が私の目を引く事になります(強調は引用者によります)。
EM菌:宮崎で講演会 /宮崎
毎日新聞 2013年05月13日 地方版
 水質浄化などに効果があるEM菌有用微生物群)を活用した農業や環境改善に取り組む市民団体「EM ネット宮崎」(北川義男理事長)の講演会が12日、宮崎市佐土原町であった。公益財団法人「自然農法国際研究開発センター」指導員、永峰典隆さん(59) が九州各地の取り組みなどを紹介した。
 EM菌は、悪臭の原因物質を分解する光合成細菌、発酵作用のある酵母菌など自然界の有用微生物の総称。病害虫発生の抑止や、生ごみの堆肥(たいひ)化などにも利用されている。
 永峰さんは、熊本市などで進められる川や湖にEM菌を投入して水質を改善する取り組みを紹介。また、 EM菌を活用した有機農業の対極として遺伝子組み換え種子の問題を挙げ「TPP(環太平洋パートナーシップ協定)で組み換え農産物が無制限に入る仕組みを 政府は作ろうとしている。地域環境で育ててきた種の多様性が無くなる」と危機感を訴えた。【門田陽介】
斗ヶ沢さんの2012年8月20日17:15:20でのツイートでは、
「通常、新聞記事では不必要に特定企業の宣伝をしたり、商品宣伝をしないようにしています(企業名、商品名が不可欠である場合は名称を入れる)。ところが、EM菌は商品だという認識が不足している。 」
とあります。
今回の記事では冒頭に、
水質浄化などに効果があるEM菌
という記述があり、この部分は特定商品名のみならず、科学的検証もない未確認の、言わば口コミレベルの情報をあたかも確認された事実であるかのように紹介しているという点で、二重に問題ある表現だと言えます。
例えば先の記事を以下の様に変えてみたらどういう事になるでしょうか?(以下の記事はあくまでフィクションです)
○月△日、放射能対策などに効果がある「EMX・GOLD」を使用して除染活動に取り組む市民団体「子供ネット」代表の○○さんの講演会が某所であり、各地での取り組みなどが紹介された。
放射能対策〕と一口に言っても具体的に何を指すか分からない漠然としたイメージに、何の根拠も示さず〔効果がある〕と銘記し、そして〔EMX・GOLD〕という商品名を記載する、こんなメーカーの宣伝文の様な文面をそのまま載せる新聞社はまずないでしょう。
先の記事も実はこれと同じだという事をこの記者(或いは編集者)は気付いていないのです。

 〔水質浄化など〕←漠然としたイメージ
 〔効果がある〕←検証なしの断定
 〔EM菌〕←商品名


もちろん記者としては、EMを知らない人に対しての簡単な紹介としてこの様な「枕」を付けたのでしょうが、実はこの様な紹介の仕方が人々に〔環境浄化にはEM〕というイメージを植え付けてしまった、つまりEMに「浄化」という『冠』を被せてしまったと思うのです。

そしてよりによってこの翌日、またまた毎日新聞で以下の様な記事が掲載されているのを見つける事となります。
わがまち・マイタウン:EM菌でプールをきれいに--苅田 /福岡
毎日新聞 2013年05月14日 地方版
 微生物の力でプールをきれいにしようと、苅田町苅田小でプール掃除に使うEM菌(有用微生物群)の培養液作りが行われた。環境に優しい暮らしを実践する市民グループ「かんだ環境会議」が指導協力した。
 参加した美化委員会の5、6年生に会議の松岡麻利子さん(61)が「EM菌は汚れを分解するよい菌の集まり。掃除する人の体に安全で、流すと川もきれいになります」と説明。独特の発酵臭に児童は「くさーい」と言いながらも、菌を増やす働きをする糖蜜とEM 活性液を水タンクに注ぎ込んだ。

 約1週間でできる培養液をプールに流し込んでこすると、洗剤なしできれいになるという。西琉史斗(るみと)さん(12)は「楽しかった」と話した。【山本紀子】

マスコミが「口コミ化」しているのではないかという疑念は以前こちらで述べましたが、今回、当時抱いた懸念が現実のものとなり、また斗ヶ沢さんの提言も通じていなかった事を見るにつけ、この問題の深刻さを改めて認識する事となりました。

近年のマスコミ対応を取り上げた呼吸発電さんのブログ記事では、作られたEMのイメージを「EMの言霊」という表現をしていますが、この「言霊」を広く浸透させてしまった責任の多くはマスコミにあると私は考えます。
新聞報道の使命は言うまでもなく、【事実】を正確に伝える事です。そこに真偽不明な伝聞情報や、未確認のソースによる不確かな情報を載せる事は許されないはずです。
しかしながら、大勢の市民が参加する行事などは、やはりそれは事実として伝えなければならないという事もあります。
斗ヶ沢さんはTwitter上で、
「私は「EMたたき」をするつもりはありません。効果が検証されていない商品を、新聞社が無批判に宣伝する(宣伝につながる記事を掲載する)ことはおかしいとの考えであり、使用している方を批判するつもりはありません。 」
と述べていますが私もそれには同感で、別に「EMたたき」という事ではなく、報道はただ事実を事実として、ありのままに伝えればそれで良いと思うのです。
そしてありのままに伝えるとするならば、本来ならば〔EM菌〕の頭には、この様な「冠」が付くはずなのです。
○月×日、○○小学校では生徒達がプール掃除に備え、波動効果を謳いニセ科学として批判されるEM菌の培養液を全員でプールに投入した。

□月△日、○○地域を流れる××川に集まった「河川浄化の会」メンバーは、川がきれいになる事を願い、波動による効果を唱えニセ科学と批判されるEM菌の活性液10トンを投入した。

7月15日、この日「海の日フェステバル」に集まった参加者達は、浜辺のゴミ拾い作業の終了後、その効果が波動によるとしてニセ科学と批判されるEM菌を混ぜた泥だんご3000個と、その活性液100トンを一斉に海に投入した。
この様にすれば、今現在のEM活動の現状とその問題点を、広く読者に知らしめる事になるのではないでしょうか。
それにもし、熱心なEMユーザー(或いは発明者本人)からのクレームがあったとしても、社としては別段動じる事もない訳です。
何せ記事では、純然たる事実しか報じていないのですから。



関連エントリー
「EMというもの(追記あり)」
「EMへの疑問(3)~EMは「ニセ科学」か?~」
「考察:環境運動にはなぜEMがまかり通るのか(2)」
「EMに罪はない」