杜の里から

日々のつれづれあれやこれ

開門反対のためのEM活動???

前回の「自然水系に微生物資材を投入するというのはどういう事か」というエントリーのコメント欄に、環境生態学の専門家である飯島明子さんからコメントをいただき、またmimonさんからも飯島さんのツィッターを紹介していただきました。
この内容ですが、閉鎖系水域における有機汚濁と微生物との関係とか、水辺の生態系に及ぼす干潟の重要性など、水辺の環境問題について非常に参考になる意見が述べられていますので、改めてこちらでも紹介させていただきます。
(togetterより)
  ・飯島明子先生の特別講義:「閉鎖性水系の有機汚濁」
  ・浅い水域が有機汚濁解消のために重要だということ
  ・飯島明子先生の特別講義 第3回:「窒素循環と干潟の役割」
  ・飯島明子先生の特別講義 第4回:「干潟の生物多様性」

飯島明子さんは「日本ベントス学会」の会員であり、同時に諫早湾問題検討委員会の委員もしており、今年2013年1月12日に行われた「『有明海・諫早湾』公開シンポジウム」の模様も飯島さんのtogetterから見る事が出来ます。↓

 「有明海・諫早湾の環境修復を目指して6」

これによりますと、諫早湾の水門締め切り(1977年)以降、それが有明海全体に深刻な影響を及ぼしてしまった事が伺えます。
この水門開放に関しては、漁獲量が激減してしまった漁業者達が起こした裁判が有名ですが、この辺の事情を年次順に見てみると、

・2008年6月27日、佐賀地方裁判所 5年間の開放判決→提訴
・2010年12月6日、福岡高等裁判所 一審判決を支持
・2010年12月15日 国は上告を断念(当時は民主党菅直人総理)、これにより2013年12月までに開門の義務。
・2011年4月19日 諫早市の住人・団体が開門差し止めを求め長崎地方裁判所に提訴
・2011年6月27日 長崎地方裁判所 「開門棄却」の判決(→こちら
・2012年8月21日 農水省 「制限開門」を目指す方針発表、佐賀県などから批判(→こちら
・2012年11月4日 農水省 水門の開門調査を2013年12月から実施する方向で長崎県側と最終調整する方針と発表(→こちら

となり、2013年7月現在、いよいよあと5ヶ月となった12月の開門に向け、周辺の動きが段々と慌しくなってきています。
ただこの一連の騒動の中で、個人的にちょっと気になる事があるのです。


2011年12月3日、「2011EM活用交流会」という催しが三重県総合文化センターで開催されました。
そこでは「NPO地球環境共生ネットワーク」運営委員の高橋比奈子氏(現在は自民党衆議院議員)の発表などが行われましたが、そこのパネルディスカッションで比嘉照夫氏が気になる発言を行っているのです(魚拓はこちら)。
(以下引用:強調は引用者による ↓)
比嘉:県全体としてやっているのは長崎県です。水門をあけさせないために、連合婦人会を通じて、しっかりやっています。水門を閉めてからも漁獲高は上がっています。長崎県漁連はEM活動をしっかりやりました。また小中学校の全校がEM活動をしています。食育もEMでやっています。水門をあけさせないための活動です。
日本橋川の浄化で、東京湾がきれいになったと東京都も認めました。EMはすでに開発から30年たっています。効果がなければ使いません。生態系にもなんら問題はありません。わけのわからない微生物と批判する人はもっと勉強して下さい。
(↑ 引用終わり)
この部分を読みますと、長崎県で行っているEM活動というものは、名目は環境浄化と謳っていますが、実は真の目的は水門をあけさせないための活動であったと比嘉さん自らが告白している訳です。
ではなぜ彼は水門を開けさせたくなかったのでしょうか?
水門閉鎖後の有明海周辺におけるEM活動については、以下の様な環境改善事例が紹介されています。
こちらの事例では、諫早湾の水門が閉じられてから有明海の漁獲高が激減したが、EM活用の地では何も影響が出なかったとし、以後「EMじゃぶじゃぶ作戦」と銘打ったEMを用いた環境運動が周辺地域に広がって行きます。
個人レベルから始まったそれは地元漁協や婦人会活動へと広がり、やがてとうとう行政をも巻き込み、環境浄化という名の一大EM販促活動へと成長していきました。
もし水門が開いてそれによって有明海の環境が改善するような事になったら、今までEMによって環境が改善されたという売り文句は根底から覆され、長い間頼りにされていたEMの役目はここで終わってしまうのです。
だから比嘉さんとしては、何としても開門させる訳にはいかなかった、そんな思いがついあの様な本音を誘導してしまったのかと、思わず深読みしてしまいます。
それに「漁獲高は上がっています」の発言についてもいつもの様にEMユーザー向けの宣伝文句に過ぎず、実際は地元長崎県などはどんどん減っていくばかりの状況となっているのです(→参照)。
今までEM活動を行ってきた長崎県の人達は、果たして比嘉さんの言う様に皆「開門反対」の考えに傾いているのでしょうか。
小中学校の生徒達は皆、「開門反対」と教えられてきたのでしょうか。
その事が今、非常に気になっているのです。

諫早湾水門開放については、最近になってまた新たな動きが出てきています。
諫早湾干拓事業:開門を実現へ “宝の海”再生、市民集会 /長崎
毎日新聞 2013年04月14日) 〔長崎版〕
 諫早湾干拓事業の開門を実現して環境再生と地域の未来をつくろうという市民集会が13日、諫早市であり、約60人が干潟の再生などについて話し合った。
 14日で潮受け堤防閉め切りから16年を迎え、福岡高裁判決で命じた開門調査開始の期限が今年12月に 迫る中での集会。「よみがえれ!有明訴訟」弁護団の堀良一事務局長が「漁業被害はどんどんひどくなっている。開発による最大の環境破壊だ。宝の海再生に向 けて大きな一歩を踏み出そう」と訴えた。
 また、佐藤正典・鹿児島大教授は、干潟を活用した韓国・順天(スンチョン)市の地域活性例を示しながら 「諫早湾は日本最大の泥干潟で、多くの絶滅危惧種が残っている。排水門を開放して大規模な環境復元を実行すれば、地域再生にもなる」。片寄俊秀・元長崎総 科大教授も「大規模干潟を復元し、有明海が再生すると九州全体が活気づく」として「環境博覧会都市」構想を提言した。
 14日は午前10時から同市白浜町で、湾内の死滅した生物を弔う「干潟慰霊祭」がある。【武内靖広】


諫早湾干拓事業 知事・国会議員らも「開門阻止する」 諫早湾調査で集会
朝日新聞 2013年6月17日)
佐々木亮、江崎憲一】国営諫早湾干拓事業長崎県)の開門調査に反対する地元住民らが16日、長崎県諫早市役所前で集会を開いた。
福岡高裁判決が命じた12月20日の開門期限まであと半年と迫る中、中村法道知事のほか、漁業者や干拓農地の営農者ら約2200人(主催者発表)が参加した。

諫早湾防災干拓事業推進連絡本部(本部長=栗林英雄・前諫早商工会議所会頭)などの主催。前知事の金子原二郎参院議員(自民)、大久保潔重参院議員(民主)ら長崎県を地盤とする与野党の国会議員らも顔をそろえ、「開門を断固阻止する」と訴えた。

長崎県と二人三脚で干拓事業を推進してきた自民党は昨年末に政権に復帰したが、政府は開門の方針を変えていない。開門すると仕切りの内側の調整池の水は農業用水として使えなくなるため、農林水産省は近く、海水淡水化設備などの事前対策工事を始める予定だ。


諫早早期開門求め、首相との協議要求 漁業者ら 長崎
産経新聞 7月27日)
 国営諫早湾干拓事業長崎県)の潮受け堤防排水門の開門請求訴訟に勝訴した漁業者や弁護団は26日、長崎市農林水産省幹部と会談し、早期開門に向け、安倍晋三首相か内閣官房との協議の場を設けるよう求めた。

 農水省側は、事前に受けていた要請を内閣官房に伝えたが「回答が来ない」と説明。国と漁業者側弁護団、開門に反対する長崎県が一堂に会して議論する場の設置についても「国としては分かりましたと申し上げることは難しい」と述べ、事実上拒否した。


有明訴訟原告団 国に早期開門要求
長崎県の妨害を批判 仁比氏が同席

しんぶん赤旗 2013年7月27日)
国営諫早湾干拓事業長崎県諫早市)の潮受け堤防排水門の早期開門を求めている「よみがえれ!有明訴訟」原告漁民らは26日、開門実務を担う農林水産省の幹部らと長崎市内で交渉し、国が開門反対派による妨害に対応するよう求めました。
 12月20日の開門期限まで5カ月を切りました。開門による漁業や農業への悪影響を防止するための事前工事が必要ですが、国はいまだに着手していません。その理由を農水省側は「地元(長崎県)の理解が得られていない」と説明しています。
 弁護団側は、長崎県が「国は十分な対応をせずに開門しようとしている」「開門すれば被害が起こる」などと誤った情報を流し開門を妨げていることを 挙げ「国は反論したのか」と質問。農水省側は、県の言い分が「国の認識とは異なる」と答えたものの、訂正や反論を行う考えは明示しませんでした。
 島原漁協(島原市)の中田猶喜さん(63)は「借金を苦にした自殺者が増えるかもしれない。開門して有明海を再生させたい」と早期開門を訴えました。
 交渉後、弁護団に参加する日本共産党の仁比聡平参院議員は「有明海再生を絶対に実現するため、国会で力を尽くしてきたい」と漁民らを激励しました。
この水門開放反対の影に何らかの形でEMが関わっているのか、それともあの発言は、比嘉さんお得意の単なるリップサービスだったのかは本人しか知り得ない事ではありますが、環境問題としての諫早湾問題については、今後とも注目していかなければならないでしょう。
そして同時に、比嘉さんがまた何を言い出すのか、こちらも注目していきたいと思います。

最後に、この講演での比嘉さんのコメントの一部をもう一度紹介しておきましょう。
彼がいつも訴えているこの印象的な発言を、未だご存知でない方もまだいらっしゃるみたいですので。
「常識では万能なものは存在しないが、EMは万能です。コンクリートにいれれば300年はもちます。石灰岩みたいに硬くなります。EM技術の万能性は様々です。

「EMのシントロピー現象は抗酸化作用、非イオン化作用、3次元のエネルギー転換機能です。」