古舘 「さて今日のテーマですけれども、〔18歳以下、小さなお子さん、あるいは若い方の甲状腺がんは、原発の事故及び放射線との因果関係はあるのかないのか〕、このテーマで今日は進めてまいりたいと思います。そして県が行った検査で、2014年に終った1巡目では、甲状腺がんまたはがんの疑いの人は115人、2014年からの2巡目(途中段階)でのがんまたはがんの疑いは51人、合わせて166人という数字となった事を報告し、古舘アナはこう続けます(セットのパネルの数字はこの数を表しています)。
もちろんですね、福島の方々の中にはいろんな意見がある事は承知しています。
しかし我々取材をしていく中で、実際に甲状腺がんになってしまった若い方にお話を聞く事ができました。
それから、それとはまた別に、自分のお子さんががんになった甲状腺がんになったと、その苦悩を抱えている親御さんにお話を聞く事もできた、そういう取材を通じて、やはり問題提起をさせていただこうという結論に至った訳であります。」
古舘 「一般的に18歳以下の甲状腺がんの方の発症率というものを見てますと、100万人に1~2人と言われております。2人で多い方をとってみても5年経過してますから、100万分の10人という事になります。そして深刻な効果音とナレーション、その後ろには甲状腺がん摘出手術を受けた女性の姿という、いつもの調子で本編が始まります(以下、ナレーション部は[ ]囲みで表示します。)
それと比べましても、166人とは異常に多い数字という事が言えます。
いくつかの角度から、我々は取材を進めました。」
女性 「「何で私なんだろう」と思ったことあるんですけど…。」~CM~
[福島の検査で分かった甲状腺がん、手術を受けた女性が語った苦悩。原発事故との関係はあるのか。
あれから5年、子供の甲状腺がんが増え続けている。]
福島・検討委 座長 「放射線の影響とは考えにくい」
[それは本当なのか? 答えを求めて取材班は、事故から30年目のチェルノブイリへ。]
CM後に始まった特集の冒頭は、当時高校生の時に甲状腺がんの手術を受けた直美さん(仮名)のインタビューから始まり、検査から一週間後にがんと告げられた時の状況が彼女の口から語られます。
直美 「(字幕)「腫瘍があります」と 「手術した方がいいですよ」とか原発事故後から続けられている福島県の甲状腺検査で、一番多く見つかっている甲状腺乳頭がん(細胞の形が乳頭に似ている)について、〔日本医科大学付属病院 内分泌外科 杉谷巌教授〕は
おおきくなっていたので「手術しましょう」みたいな感じで言われました。」
「手術によって九分九厘治るというものが大半です。」
と説明します。
そしてナレーションはこう続けます。
[一方子供の場合は、首(頸部)のリンパ節への転移がはげしいという特徴。ここで、手術した子どもの内74%がリンパ節へ転移していた事が語られ、直美さんもリンパ節に転移していた事を明らかにし、「声が出なかったのが一番つらい。」と語ります。
治療後の再発も多く、肺に転移する頻度も高いという。
比較的珍しい疾患で、まだ分かってない事が多い。]
更に特集では10代の子どもの手術を行った別の3組の家族へのインタビューも行われ、報告書(中間とりまとめ)の『生命予後の良い』との文面も紹介しつつ、それでもなお不安が拭えない親達の苦悩が描かれます。
ここで枝野幸雄官房長官(当時)の映像とセリフ。
親 「自分はがんになってしまったんだからっていう、そういう負い目はあると思うんですね。
それを考えた時に親としてつらい面はあります。」
[親は皆、「死なないならたいしたことはない」と思ってほしくないのだ。]
直美 「治療のため夢を諦めてしまった事が一番つらい」
[人生を大きく変えてしまった甲状腺がん、原発事故との因果関係はあるのか?]
枝野 「直ちに人体に影響を及ぼすような数値ではない。」
そして、2011年4月1日時点での放射性ヨウ素拡散地図(SPEEDIによるシミュレーション)映像。
[直美さんは日常生活で外にいる事が多かった。]
直美 「みんなと一緒にマスクはあまりつけずにずっと生活はしていました。
今も全然自分がどのくらい被ばくしてるんだろうというのは分かってないです。」
[今もがんの再発や転移に怯える日々が続いている。]
父親 「今回の原発事故との関連性は高いんですかと聞いたら、
「原発とは関係ございません」何回聞いてもそうですね。」
記者 「あるかどうか分からない」ではなく、「ない」と言うのですか。」
父親 「(被ばくの影響は)ないですね。」
[今回の3人を含めて多くの家族を取材する中で、様々な悩みを聞いた。
「医師とコミュニケーションがうまくいかない」
「いわれなき差別を受けた」
「(他の病院での)セカンドオピニオンの受け方が分からない」
しかし、その悩みを相談する相手がいない。]
そして特集では同じ甲状腺がんと診断された家族の悩みを受け止めようと、地元の方が新たに立ち上げた「311甲状腺がん家族の会」が紹介されます。
立ち上がったばかりで参加している家族数はまだ少ないですが、そこに参加した家族の方がこう語ります。
ここまでの部分は甲状腺がんと診断された当人と、それとはまた別の苦悩する家族の紹介でしたが、確かに「がん」と診断された時のショックや家族の動揺は理解出来ますし、いつまでも将来への不安が拭えないものが「がん」というもので、それを背負って生きていく事の辛さは痛いほど分かります。
家族Cさん 「自分と思っていたことが同じで、涙を流して話されたお母さんもいたりして、ためていたものを人に言えたという事が一番大きいのかなと思います」
[親は皆、「死なないならたいしたことはない」と思ってほしくないのだ。]
というナレーションは、今回の特集の中で唯一頷けるものでした。
県民健康調査が始まった当初は、医師と検査を受けた家族とのコミュニケーションが中々うまくとれずに、各所で混乱が起きたと聞きます。
家族へのきめ細かい心のケアはこれからも必要であり、医療現場と行政には、より一層の説明とサポート体制の充実が求められると素直に感じます。
でもこのインタビューを見ている間、自分にはどうしてもこんな疑問が湧き上がってきます。
特集内ではSPEEDIの映像が紹介されましたが、
直美さんを初めとするインタビューを受けた家族の方々は、震災当時はどこにいたのでしょうか?
この特集のテーマはあくまで「甲状腺がんと原発事故による放射線との因果関係」ですから、がんと診断された方々が当時受けていたであろう放射性ヨウ素の量や場所が問題であるはずです。
それがここでは明らかにされてませんが、やはりプライバシー保護の観点から、公開は出来ないとの判断がなされたのでしょうか。
それに直美さんはインタビューの中で、
「今も全然自分がどのくらい被ばくしてるんだろうというのは分かってないです。」
と答えていました。
福島県ではWBC(ホールボディカウンター)による放射線検査も行われていたはずですが、彼女の不安はあくまで震災当時の放射性ヨウ素の事を指しているのか、あるいは今現在の状態を指しているのか、あの言葉だけでははっきりしません。
インタビューを見ている間、この疑問は最後まで続いていました。
これまでは家族の苦悩に焦点を当てていましたが、これからの特集はいよいよ本題に取り組むものとなり、本編が始まる前に、古館アナはこう語ります。
古舘 「ここから先のVTRについてちょっとご説明したいんですが、原発事故と甲状腺がんの因果関係はないであろうという、この考え方に関して、いくつかの疑問にぶつかっていっております。チェルノブイリでの0~5歳の子どもの甲状腺がんの原因の一つは、放射性ヨウ素に汚染されたミルクを飲み続けていた事によるといいます。(→参考)
一つは、例えば単純な話、チェルノブイリの放射線量に比べて福島ぐぅ~っと低いからと、だから因果関係はないであろうというのにははなはだ疑問があるという事。
そしてもう一つなんですけども、チェルノブイリの場合にですね、あの原発事故当時チェルノブイリ周辺で0~5歳までの小さなお子さんに甲状腺がんが多発したんだと。
福島の場合は原発事故時、0~5歳の小さなお子さんには今の所発症が一例も見られていない、従って、因果関係はないであろうというこの考え方に対しても、やはりはなはだ疑問です。
と言いますのは、調べてみればすぐ分かる事ですが、チェルノブイリの場合は0歳から5歳の時事故当時、そのお子さんが発症せずに思春期に入り、例えば15歳になった、このあたりで甲状腺がんが多発しているという事実がはっきりと分かっているからです。」
チェルノブイリと比較する場合は当然これは押さえておくべき事実でありますが、これについて古舘アナの口からは何も語られる事はありませんでした。
こんな事は調べてみればすぐ分かる事ですが、製作スタッフはこの事実をご存知なかったのでしょうか?
その後特集は、福島県いわき市で先月9日行われた、「原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)」の住民説明会で、ある男性が質問をする所から始まります。
〔苅野小(浪江町)元校長 荒川秀則氏〕ここで場面は説明会会場の廊下に変わり、質問を行った荒川氏が記者のインタビューに答える形になります。
「苅野小の子供達は、公表されていなかった「SPEEDI」の中の、真っ赤な放射性物質が降り注ぐところを避難してきたんだなぁと全員が心配し、「SPEEDI」の真っ赤なところを逃げた私たち子どもたちは、本当に大丈夫なんでしょうか」
[震災当時、浪江町の小学校の校長だった男性、事故当時児童達と共に津島地区から川俣町へと避難した。
後にそのルートが、放射性物質が大量に流れた方向と、一致する事を知った。]
〔国連科学委員会事務局長 マルコム・クリック〕
「(字幕)確かにそれは最も線量の高いルートです」
[今の所、当時の子供たちからは甲状腺がんは見つかっていないという。
だが、放射性物質の中を逃げたという不安は消えない。]
荒川 「今後、もっともっと(甲状腺がんが)出てきそうな雰囲気はあるなと思うんですね。荒川さんが不安になる気持ちは充分良く分かりますが、この部分でまた新たな疑問が湧いてきます。
どうしても説明会に出たりすると、「さほど心配することないですよ」っていう事の方が多くひろまっていて、果たしてそうなんだろうかという疑問は持ってますね。」
荒川さんは説明会で「大丈夫なんでしょうか」と質問しました。
しかし、紹介されているマルコム氏の発言は
「確かにそれは最も線量の高いルートです。」
とだけしかありません。
まるで会話が成り立っていないのですが、果たして実際にはマルコム氏は何と答えたのでしょうか?
マルコム氏は何と言っても国連科学委員会事務局長です。
その彼がわざわざ福島の地に赴いて住民と向き合い、彼らに直接説明をしているのですから、荒川さんの質問に何と答えたのか、しっかりと報道するのが当然だと自分は思うのですが。
荒川さんは、
「「さほど心配することないですよ」っていう事の方が多くひろまっていて、」
と仰ってますが、なぜマルコム氏のコメントがカットされたのか、どうにも気になって仕方ありません。
そして特集では、 国連科学委員会事務局長の発言はカットする代わりに、この人の発言を紹介します。
[福島県の甲状腺検査では、1巡目で115人、2巡目で51人ががんまたはがんの疑いとされた。原発事故の影響なのか?]後に津田教授の論文が否定されたりまたその後論争になっている事はこちらでもすでに述べられていますが、その事についても特集内では何も語られる事はありませんでした。
[岡山大学の津田敏秀教授は、原発前の日本全体と比べ、事故後の福島県内の子どもの甲状腺がん発生率は、20~50倍になっているとする論文を発表、こう主張した。]
他局ではこの様に紹介されているのに、ここでも果たしてスタッフは、津田論文のその後を何もご存じないのだろうかと疑問を持ってしまいます。
そしてスタッフは郡山市内で、甲状腺がんの増加について街頭インタビューを行い、2人の市民の意見をこう紹介します。
[福島の住民も、疑問と不安を抱いている。]ここで検討委員会の星座長が、こう述べる姿が何度も繰り返し挿入されます。
記者 「県の発表では「放射線の影響は考えにくい」という見解なんですけど…。」
住民A 「素直にそうとは受け取れないですね。何かあるかもしれないという不安は常に持っているので。」
星 「「放射線の影響とは考えにくい」という表現を改める必要はないだろう…」ここでも汚染されたミルクを飲んでいた事実にはまるで触れられず、ただ被ばく線量の多い低いだけの話が続いていきます。
星 「原発の影響とは考えにくい」
住民B 「じゃあ何が原因なんだと。お医者さん調べてくださいよと。」
[有識者による検討委員会は、事故から5年を機に、中間報告をまとめようとしている。
その最終案では、1巡目で発見された甲状腺がんについて、放射線の影響が完全には否定できない、としながらも、4つの項目を理由に挙げて、こう結論付けた。]
【「放射線の影響とは考えにくいと評価する」】(男性ナレーション)
[4つの理由の内、事故当時の年齢について、検討委員会のメンバーで、チェルノブイリを何度も訪れた事がある、〔長崎大学(原爆後障害医療研究所)〕の高村昇教授が解説する。]
高村 「福島でこれまで、事故当時0歳から5歳の人で、甲状腺がんを発症した人はいらっしゃいません。
特にチェルノブイリでは、事故当時0~3歳、或いは0~5歳といった非常に若い世代で甲状腺がんが多発した…」
[チェルノブイリで多発した年齢で発生していない、被ばく線量が低い、そうかもしれない。
だから「放射線の影響は考えにくい」。
そうなのか?
我々には納得出来ない思いが残る。
かつて、100万人に1人か2人と言われた子どもの甲状腺がんが、なぜこれほど見つかるのか?]
ここも疑問なのですが、何度もチェルノブイリを訪れた事があると紹介された高村昇教授は、番組スタッフにその事を何も説明しなかったのでしょうか?
VTRでは彼の会話が途中でカットされた様に見えるのですが、実際の会話は果たしてどうだったのでしょうか。
そして特集は、〔国立がん研究センター 津金昌一郎氏〕の、「過剰診断」説を紹介し、甲状腺がん独特の特徴を紹介します。
津金 「いわゆる普通のがんの様にどんどん大きくなって、リンパ節転移を起こして人を死に至らしめるという、普通のがんの想定のシナリオで考えると、やはりこの状況を考えるのはちょっと難しいと思います。」しかしスタッフはこれで納得はせず、更なる疑問の回答を追い求めます。
[津金氏は、甲状腺がんの多くが、極端に成長速度が遅く、長期間症状として出ないものがあると考える。それらを子どもの頃の検査で発見しているというのが、「過剰な診断」。見つける必要のないものを見つけていると言うのだ。そしてスタッフは、甲状腺検査のキーマン、鈴木眞一教授の元を訪れます。
だがそうだとすると、大きな疑問が生じる。
これまで甲状腺がんで手術を受けたのは、すでに116人。この中に、必要ないものが含まれていたというのか。]
(その2に続く)