杜の里から

日々のつれづれあれやこれ

BS1は福島の甲状腺検査をどう報じたか ~BSニュース~

2時間枠のBS1スペシャルが放送される時、普通は前編と後編の2部構成となり、その合い間に10分間のBSニュースが流れるというのがフォーマットとなっています。
見ている側はこの時間はちょっとブレイクタイム、自分としてはトイレ休憩の時間という位置付けとなっています。
ところが今回のBSニュースは、そうは行きませんでした。

 
冒頭のニュース紹介画面には、以下の4つの項目が並んでいたのです。

 〔中国 浙江省 空き地で爆発2人死亡〕
 原発事故後に甲状腺がん 約8割“不安”〕
 〔ネパール新憲法のもと初の議会選挙〕
 〔44年ぶり運行「D51」が重連運転

そのニュース内容はこの様なものでした。
放送時間は午後10:51から3分30秒の、ニュースとしては長めの内容でした。

原発事故後に甲状腺がん約8割“不安”】

東京電力福島第一原発事故の後、甲状腺がんと診断され手術を受けた子どもやその保護者に、支援団体とNHKがアンケートを行ないました。
8割近くの人が、がんの再発や将来の出産や仕事など、様々な不安を抱えている事が浮き彫りになりました。
アンケートは今年8月に、併せて67人に郵送で行い、52人から回答を得ました。



今不安に感じていることはあるか尋ねたところ、あるという回答が77%にのぼりました。
不安の内容としては、がんの再発が23人と最も多く、次いでがんの転移と体調がそれぞれ9人、妊娠や出産と、就職や仕事がそれぞれ5人など、手術の後も健康面や将来などに、様々な不安を抱えていることが分かりました。



東京電力福島第一原発の事故、放出された放射性物質ヨウ素131は、甲状腺に蓄積されやすい性質を持っていて、子どもはその影響を受けやすいとされています。
1986年のチェルノブイリ原発事故では、子供たちに甲状腺がんが多く見つかり、後に被ばくが原因と結論付けられました。
このため福島県では、事故当時福島県内にいた18歳以下の子ども達およそ38万人を対象に甲状腺検査を実施。
その結果これまでに190人余りががんやがんの疑いと診断され、この内150人余りが甲状腺を切除する手術を受けました。
有識者で作る福島県の委員会は、大規模に検査を行なった事で、がんが多く見つかっている可能性が高いという見解を示し、被ばく線量が総じて小さい事などから、“放射線の影響とはかんがえにくい”としています。
しかし今回のアンケートでは、ほぼ半数が「事故の影響はあると思う」と回答、認識の違いが浮き彫りになりました。

そして、支援団体代表の崎山比早子氏のインタビュー映像が流れます。
※崎山比早子氏に関しては、「不安・恐怖煽り」などという言われ方もされている様です(→こちら)。 

(3・11甲状腺がん子ども基金 崎山比早子)
「なぜ自分はがんになったのっていう所、自分の子どもが何で、っていう所はありますよね。
 何が原因であろうと、この事故がなかったらこんな状況にはならなかったっていう事だけは確かですから、ケアするっていう事が必要だろうと思います。」

そしてニュースでは、そのアンケート内容の一部も紹介します。

アンケートの自由記述欄には、切実な声が綴られています。
「娘がひどく不安定になり、夜も眠れず学校に行けず退学した。」
「子どもの将来がとても心配です。差別、結婚、病気の再発など、いつも頭から離れる事はありません。」
アンケートを行なった団体は、患者への精神的なサポートや、診療にかかる費用など、国や県に十分な支援を求める事にしています。

ニュースはこの様な内容でしたが、これを見て自分は思わずこんな疑問を抱いてしまいました。

「これは、ニュースとして伝えるべきものなのか?」

BS1では今まさにこの内容で特集を行なっており、その流れの中ではこれはニュースと言うよりも、番組後編の「前振り」と呼ぶべきものでした。
それにニュースでは、

> しかし今回のアンケートでは、ほぼ半数が「事故の影響はあると思う」と回答、認識の違いが浮き彫りになりました。

と結論付けていますが、そのアンケートの回答者数は52人である事がニュース内で語られています。

> アンケートは今年8月に、併せて67人に郵送で行い、52人から回答を得ました。

しかし、実際に手術を行なった患者数は150人ほど、これもニュースの中で語っています。

> 190人余りががんやがんの疑いと診断され、この内150人余りが甲状腺を切除する手術を受けました。

すると、150人中アンケートの回答者は52人、ここだけで全体の約1/3、そしてその中の約半数(48%)となると、「影響があると思う」と実際に確認されているのは25人だけとなります。
150人中25人の不安意見が、

> ほぼ半数が「事故の影響はあると思う」と回答、認識の違いが浮き彫りになりました。

と結論付けられ、それが「ニュース」として流された訳です。
改めて言わせてもらいますが、

これって、「ニュース」ですか?

そもそもNHKの一番組の中で、一団体が協力しただけのアンケート結果を「ニュース」として流す事に、スタッフは何の疑問も感じなかったのでしょうか?
それにこの映像、↓

   

画面右上には〔原発事故の影響は…/事故後に診断190人余〕というサブタイトルが表示され、わざわざ「190人余」という数字を赤文字で強調しています。
この画面はあたかも、がんと診断された190人の子どもの半数(90人余)が、皆そう思っていると受け取ってしまう様な形となっています。

こういうのって、「印象操作」と呼ぶのではないのですか?

こんな疑問を抱くに至ってしまい、この後に続いた山口線SL重連運転のニュースも、うつろな気分で見る羽目になってしまったのです。

そして後で知りましたがこのニュースは当日、地デジのNHKニュースでも流されたそうです(自分は未見でしたが)。(→こちら
BSの場合はまだスペシャル放送の番宣として見る事も出来ましたが、地デジしか見ていなかった視聴者には、果たしてどんな思いを抱かせたのでしょうか。
BS1スペシャルの番宣とも知らずに、これをまともなニュースとして受け取り、

福島県では今も多くの人が、甲状腺がんは事故の影響だと思っている。」

と捉えてしまった視聴者がいたかもしれないと、思わず不安になってしまうのです。
NHKはこんなニュースは流すのに、こちらのニュースを全国版で流す事はしないのですね。

こうして大きな不信感を抱きつつ、番組後編が始まります。