杜の里から

日々のつれづれあれやこれ

比嘉さんの「EMによる口蹄疫対策」に苦言を呈する

宮崎県で口蹄疫の広がりが凄まじい事になっており、そのニュースに触れる度、被害に遭われた畜産農家の方の気持ちを思うといたたまれなくなります。
そんな中、比嘉さんの「甦れ! 食と健康と地球環境」の第27回で、「EMによる口蹄疫対策」というエントリーがアップされました。
この前回と前々回(25回、26回)では、
EMの本質的な効果は抗酸化作用と非イオン化作用と触媒的にエネルギーを賦与する三次元の波動の作用によるものである。
と、とうとうこちら側でお得意の波動理論を披露したりしまして、私などはここでは「相変わらずだなぁ」などと生暖かく見守っていたのですが、さすがに今回ばかりは黙って見過ごす事は出来ない程ちょっとひどいと感じましたので、ここではこのエントリーそのものに言及したいと思います。
中を見てみますと相変わらずのEM絶対視、EMさえ撒けばすべて解決と言うかのようなEM賛美を謳っておりますが、果たして本当にそうなのでしょうか?
中にはこう書かれています(強調は引用者)。
-EMの具体的な活用法-
1、飲水にEM1号または良質の1号活性液(PH3.5以下)を初日50倍
  2日目から100倍になるように添加する。
2、エサには、5~10倍にうすめたものを軽く噴霧する。
3、畜舎に10~20倍にうすめたものを消毒的に毎日散布する。(EMはPH3.5以下ですので散布された空間はPHが4.5以下になります。殆んどのウイルスはPH4.5以下では失活しますので、一般的な消毒よりも、はるかに効果的です。)
4、畜舎内にEMスーパーセラCを、1000²当り20kgを散布(月1回)
5、畜舎の外壁や内部、天井等にも十分に散布する(10~20倍、週1回)
「一般的な消毒よりも、はるかに効果的です。」とは、何を持ってしてそう言い切れるのでしょうか。それにそもそも、ここで言う「一般的な消毒」とは一体何を指しているのでしょう?
口蹄疫のウィルスは強酸性(pH6.5以下)及び強アルカリ性(pH11以上)環境下で失活すると言われています(→参考)ので、その意味では確かにEMも有効かもしれませんが、同様の効果は酢やクエン酸にもあり、現に小林市口蹄疫進入防止対策本部からお酢による消毒方法が紹介されています。
また、口蹄疫に対する消毒薬の有効性についてもちゃんと実験が行われていますが、EMに関してはこのような正規の実験は行われておらず、その評価と言えば単なる内輪の経験談の域を出ていません。
それにそもそも、

  EMには消毒・殺菌という作用はありません。

よくEMを日常的に使用している人達が誤解する事なのですが、EMを散布すると汚れが落ちやすくなったり臭いが消えたりするのでつい消毒されたと思いがちですが、実際は菌達はそこに生きたままなのです。
つまり、このph環境にするという意味での消毒方法については、かなりひいき目で言い換えたとしてもせいぜい、

  「たぶんEM有効かもしれない。」

という程度でしか言えない事なのですね。
またこの次の行ではさらにこんな事を言っています。
※牛の場合、EMXゴールドの注射は10日に1回30CCで効果的ですが、この場合は、すべて自己責任で行なってください。豚や子牛は、その3分の1~2 分の1が目安です。
EMXゴールドって、単なる清涼飲料水ですよね。それを直接注射してしまうなんて、EM農家の人達は普段こんな事をしているのでしょうか? 思わずこんな疑問が湧いてくるほどです。
それにこのような時に「自己責任」などと、まさに無責任極まりない事を平気で述べているのです。

その後の内容もまたかなり問題があります。比嘉さんはこう仰っています。
 不幸中の幸い、と言えば、身勝手に聞こえますが、今のところ、非常事態発令後も宮崎県内でEMを活用している牛や豚に、口蹄疫が発生したという報告は受けていません。(5月20日現在)
またお得意のフレーズです。
このように、さもEMを使用しているから口蹄疫が発生しないというような印象を与えていますが、別にEMを使用していなくても口蹄疫が出ていない所はある訳で、これを読むと一見、EM使用以外の所はすべて口蹄疫になっているかのような印象さえ与えるものです。

それにそもそも、比嘉さんは今回の口蹄疫問題について誤った認識をお持ちのようです。比嘉さんはこう言っています。
 また、口蹄疫のように、体内に入ったウイルスを薬で殺すのは、殆んど不可能で、感染拡大防止にワクチンが使われています。この手法も、あくまで非常手段であり、ワクチンを打たれた家畜は市販することは禁止され、すべて殺生処分となってしまいます。

 EMをベースに作られたEMXゴールドは、C型やB型肝炎のウイルスを完全に消滅し得るという事例が多数、確認され、エイズはもとより、ヘルペス、インフルエンザ等々のウイルスに対しても万能的な力を発揮しています。
つまり、「ワクチン打っても無駄だよ~。EMはウィルスやっつけちゃうんだよ~。」
と言ってる訳で、この後EMを宣伝する時のお決まりの文句が並ぶ訳です。
 EMXゴールドに限らず、EMは、すべての動物の免疫力を高めることが知られており、タイやベトナム等では農家レベルで、口蹄疫にかかった牛や豚がEMで治ったという話は今や常識となり始めています。
免疫力を高める事は大いに結構ですが、問題はその牛や豚、或いは接触した人がキャリヤー(保菌者)になってしまった場合、見かけ上は発症していないためそれに気付かず市場に出されて、そこで新たな感染という事態が起こりうる訳で、これはワクチンでも同様の危険があり、故に現在、ワクチン使用は殺処分が間に合わない場合の時間稼ぎとしての意味合いで使われている訳です。
つまり口蹄疫の問題はその【伝染性の早さ】にある訳で、どこかで感染が起こった場合は速やかに蔓延防止措置を行うという事が第一であり、もう予防や治療といったレベルの話ではないのですね。
それに、
口蹄疫にかかった牛や豚がEMで治ったという話」
とありますが、別に口蹄疫は元々致命的なものではなく、こちらの解説によりますと、
口蹄疫による致死率は,幼畜では高率で時に50%を越えることがあるが,成畜では一般に低く数%程度である。」
とあり、元々は治るものでもあるのです。
ただ問題は、その後の発育障害や運動障害などで「家畜は産業動物としての価値を失う」事になる訳で、また発生すれば家畜の移動制限なども行われ、それに伴う社会的損害も多大なものになるため、口蹄疫は家畜の法定伝染病に指定され、殺処分という防疫体制がとられている訳です。
どうも比嘉さんは、EMさえ使用すればもう口蹄疫にかかっても平気であるとの認識を持っている印象を受けるのですが、そもそも口蹄疫が発生したら最後であるという危機意識をまるでお持ちになっていないようです。

口蹄疫の問題を考えますとこれはもう災難としか言えないもので、実際地震や自然災害に遭ったのと同じ事ではないのかと思えます。ここで人間が出来る事と言えばただこれ以上の蔓延を防ぐという事、これしか打つ手はありません。
それを知ってか知らずか、比嘉さんは最後にこう仰って閉めくくるのです。
 10年程前に、台湾で起こった口蹄疫パンデミックの際も、EMを活用していた養豚場は、一頭も被害が発生していなかったにもかかわらず、地域全体が処分の対象となって、くやしい思いをしたことがあります。宮崎県でも、EM飼育の畜産農家に対し、このような無差別なことが起こらないように願っていますが、これを機会に、EMを活用している畜産農家を徹底的に検証し、今後の対策に活用されんことを念じています。
別にEMを使用していた【から】口蹄疫にかからなかったという訳でもありませんし、EMを使用していても口蹄疫にかかる可能性はある訳です(キャリヤーになった場合はもっと悪い)。
それに別にEMを使用していなかった所でも口蹄疫にかかっていない所はある訳で、それを「EM飼育の畜産農家」にしか頭が回らないというのは、他の畜産農家の方に対して大変失礼ではないかと思うのですね。

このような非常時に問題の本質からそれた無神経な発言、比嘉さんの頭の中には被害に遭われた方々への思いなどは何もなく、もう完全にEMしか存在していないのでしょうね。
そしてずらりと並んだEMの宣伝文句、これはもう周りから「便乗商法」と言われても仕方がないのではないでしょうか。


(参考)
口蹄疫における農家の消毒方法」→こちらYouTube)