杜の里から

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EMへの疑問(13) ~EMだんごって「安全」なの?~

EMによる河川環境浄化活動において、切っても切れない関係となっているのが「EMだんご」というものです。
これは、EMを混ぜ込んだ土をだんご状にして乾燥したものを川に投げ込むという活動で、各自治体や施設・学校、町内会やNPO活動など、現在では広くあちこちで行われています。
このだんごの作り方ですが、こちらの説明を見てみますと加えるEMの量などは随分アバウトの様です。つまり、この簡単さという事がミソで、これのおかげでこのだんご作りの活動は小学校や幼稚園、保育所などで、それこそ泥いじり感覚で行われている訳です。
そしてその作業風景などを見てみますと、皆【素手】でだんごを握っています。
勿論EM資材そのものは安全を謳っていてちゃんと検査にも合格しており、だんごをこねるのも言わばヌカ床をかき混ぜるようなもので、だから私は、今までEMだんごに対してはその効果の有無ばかりに注目し、「安全」「危険」という見方はしてきませんでした。

次の記事を読むまでは。

 タウンニュース(神奈川県全域・東京町田市の地域情報誌)2010年5月27日号より
(赤文字強調は引用者)
団子で川をきれいに
園児がEM菌で作成


 大久保保育園(米井美恵子園長)の園児が5月12日、EM菌を練りこんだ泥団子の作成を行った。

 EM菌とは自然界から抽出される有用微生物群で、土壌改良や水質浄化に効果があるとされるもの。同園では給食の調理で発生する生ゴミの減量を目的に、野菜の切れ端などにEM菌を混ぜ合わせた堆肥づくりに全園で取り組んでいる。今回はその過程で抽出される液体を混ぜた土が使用され、完成した泥団子は6月5 日(土)に実施される大岡川クリーンアップの際、水質保全活動の一環として園児が川へ投げ込む。

 園児は「ちょっと酸っぱい臭いがする」と言いながらも、夢中で泥団子を作っていた。また、米井園長は「自分の暮らす街のために活動できるのは園児にとって意義あること」とし、「自ら体験して学んだことは大人になっても意識として残るのでは」と話していた。
アーカイブこちら
どうやらこの園ではEMによる生ゴミの堆肥化をしていて、その過程で出てくる発酵液を利用してEMだんごを作っているようです。
しかしこの発酵液、果たして安全なものなのでしょうか?
EM生ゴミ堆肥化の処理は、なるべく空気に触れさせないようにする「嫌気性発酵」による処理です。そして大腸菌や腐敗菌なども嫌気性菌であり、生ゴミ処理で出てくる発酵液にはそれらが含まれている可能性もあるのです。
現に前述のサイトでは発酵液に対し、
「空気に触れると腐りやすいので、溜めないでその日の内に使うこと。」
と説明されており、またある自治体の生ゴミ処理上の注意点(PDF39頁6Q)でも、
「1次処理した生ごみにはまだ病原菌・大腸菌などがいますので、より安全な堆肥にするには2次処理で高温発酵させることが大切です。」
と述べられています。
そもそもこの発酵液、ちゃんと細菌検査などはされていたのでしょうか?
記事では園児が「ちょっと酸っぱい臭いがする」と言っている記述がありますが、「発酵」と「腐敗」は微生物的には同じ事で、それを見分けるには臭いを嗅いで判断する事になる訳ですが、この見極めは大人でも結構難しいものです。
この「発酵」しているのか腐っているのか分からないものを【素手】で触らせるという事に何の疑問も感じなかったのでしょうか? 
しかも相手は児童です。もし誤ってその手を口に入れたりしたら…。

EMに含まれている菌は別に特別なものではなく、ごくごく普通の菌達ばかりです。だから当然、周囲の環境条件によっては「発酵」ではなく「腐敗」となる事もあり、事実EM生ゴミ堆肥化には失敗例も数多く存在します。
今回の記事のだんご作りがちゃんと専門家の指導によって行われたのかどうかはこの内容からは判断出来ませんが、何事もなく済んだのだとしたら、それはたまたま幸運だったと思うべきでしょう。
もしこの記事を読んだ読者の誰かがここと同様に取り組もうとするならば、それは大いに危険な事であると言えます。

今回の事例を見るにつけ、このような事は実は全国あちこちで行われているのではと思ってしまいます。
「EMは環境を浄化する」とか、「EMは悪い菌をやっつける」などという業者の宣伝文句を真に受け、注意すべき肝心な事がおろそかにされてはいないでしょうか。
微生物は生きものです。それはきちんと管理しないと、決して人間の思い通りに働いてはくれないのです。

今回このような見方をした時、そもそも出来上がったEMだんごそのものは果たしてどうなのかが気になってきました。
完成したEMだんごの外側は白い菌糸状の好気性微生物(放線菌)に覆われ、それは丁度私が行っている平石式ゴミ処理器でも見られるもので、これは別に人体には害はありません(と言われています)。
でもはたして内側は一体どうなっているのでしょうか?
内側は酸素の供給は断たれますから、元々の土に含まれる微生物達の中で嫌気性のものが優勢となり、それがEM発酵液に含まれる栄養分などを食べて増殖していくと想像されます。
しかしその微生物達の活動が果たして「発酵」となるか「腐敗」となるかは、まさに「神のみぞ知る」です。
出来上がったEMだんごはそのまま河川に投入される事となるのですが、その中身を検証した人などは果たしているのでしょうか?
あちこち探してみましたが、だんごの中の微生物相を調査した報告はとうとう見つかりませんでした。


EMだんごは、環境活動の一環として用いられるため普通は役所の環境課などがその担当となっています。
しかしEMだんご作りは微生物を、個人が自己責任で行うものとは違い不特定多数の人間、特に大勢の児童や子供達が素手で取り扱ったりするものです。
こう考えてみますと、本来これを担当し指導するのは、環境課ではなく保健所ではないのか、と私は思ってしまうのです。