杜の里から

日々のつれづれあれやこれ

中央メディアが伝えない事

7月19日の河北新報に思わず注目した記事がありました。
通常この手の記事は東北エリアの所に掲載されるのが常なのですが、今回は他の三面記事と同様な扱いをされていたので、つい目を引く形となったのです。↓
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この記事はWEB版にもありましたので、以下そこから本文記事を引用します(強調は引用者によります)。
福島県訪れた観光客 旅行会社アンケートで9割が「良かった」
 東日本大震災後に福島県へ観光に訪れた旅行者の91.0%が「訪れて良かった」と感じていることが、クラブツーリズム(東京)の旅行者アンケートで分かった。
 同社は「福島第1原発事故で不安を抱いた旅行者が、実際に訪ねてみて福島県の自然や温泉など観光地としての魅力に引かれ、認識を改めたようだ」とみている。「どちらともいえない」は5.1%、「そう思わない」は0.7%だった。
 福島県を訪れた目的(複数回答)は「復興支援の思いから」が60.4%で最多で、「観光地の訪問やイベント」が51.4%、「温泉」が40.8%と続いた。
 福島県を訪れる際に不安に感じたこと(同)は「原発事故の放射能問題」が81.2%で最も多く、「余震の可能性」も54.1%に上った。
 福島県の印象は「観光客が少ないと感じた」「魚介類が売れずに廃棄している人を見て無念だろうと涙が出た」など、風評被害を実感した回答が目立った。
 アンケートは昨年6月~ことし4月に同社の福島県ツアーに参加した10~90代の旅行者男女1000人を対象に郵送方式で実施し、661人から回答を得た。
2012年07月19日木曜日
原発事故が起きて以来、放射線という目に見えない脅威に襲われた我々は、「恐怖の放射能」というイメージに捕り付かれました。そして各所で『架空のチェルノブイリ』が形作られ、それが福島県のイメージとなって地元の人達は大いに苦しめられる事となります。
しかし当の福島県では、住民達や行政の努力によって放射線に関する体制はかなり充実したものになり、数々の測定結果からも、当初考えられていたほどの危険はない事が明らかになりつつあります。
しかし問題は、その様な情報が福島県内では多くの住民に周知されているのにも関わらず、それが周囲にはあまり知られていないという「情報のガラパゴス化」が起きている事です。
この事が、相変わらず続く風評被害やがれきの広域処理問題にまで発展している「恐怖の放射能」のイメージが、中々解消されない原因となっている訳です。

他県の人でも、ネットやツィッターなどを利用して積極的に情報を得ている人達は福島県内の実情を良く把握出来ているのですが、同じネットユーザーと言ってもショッピングぐらいしか利用しないライトユーザーとか、不安情報ばかりにアクセスしてしまって疑心暗鬼に捕わている人々もまた多いのが実際の所です。
現に福島県内にもそういう人は多く存在し、その不安の受け止め方の違いにより、一人で苦しんでいるという人の姿も見かけます。
そしてまた、ネットやツィッターなどまったく利用しない人が多くいるのも事実で、そういう人達の情報手段として新聞・雑誌などの紙媒体やテレビなどの映像情報がある訳ですが、果たしてこれがどれだけうまく機能していたのか、はなはだ疑問に感じているのです。

テレビ報道などを見ると、被災県のメディアはそれぞれ震災後から地元密着の情報を流し続けている訳ですが、それが中央に送られると当然すべて放送で流される事はなく、全国版ではどうしてもニュース素材として大きなものが取捨選択されてしまいます。
それが結局不安報道ばかりに偏り、他県に対してまた過剰な不安を煽る事にもなってしまう訳です。
福島県の地元ローカルの新聞やテレビでは数多くの安心情報、つまり「朗報」も取り上げられているのですが、これが他の地域に中々伝わらないというジレンマを抱えています。実際隣である我が宮城県でも、福島県の詳しい情報はネットでも探さない限り中々伝わってきていません。
だからこそ、先に挙げた記事には個人的に大いに注目したのです。
この記事のソースは実は、7月11日に「東京ウォーカー」に掲載されたこの記事なのです。
これには福島県を訪れた観光客の感想などが詳しく紹介されており、これは明らかに「朗報」であって、もしこれが新聞記事として紹介されなければ、私自身このネット情報を知らずにいる所でした。今回これを報道記事として紹介した河北新報には感謝です。
しかしこの様な情報が全国版のテレビで報道されたという事は私は知りませんし、また地元ローカル新聞福島民報で紹介されたこんな記事も、果たして他県で報道されたのか知るすべもありません。
転出の小中学生185人戻る 郡山、1月より82人増
 東日本大震災郡山市から市外に転出後に再び戻ってきた小中学生は5月末現在、185人で、1月の調査の103人から82人増えた。12日に開かれた市災害対策本部会議で市教委が示した。昨年9月に60人が戻ってきてから徐々に回復傾向が続いている。
 市教委によると、5月末の調査で小学生136人、中学生49人が戻った。1月の調査の小学生80人、中学生23人から大幅に増えた。
 戻ってきた小中学生を含めた総転入者も876人となり、1月の699人から177人増えた。転出者数は小中学生合わせて1050人で、1月の1123人を73人下回った。
 学校の聞き取り調査では、年度が替わり戻ってきたケースが多いという。「実家に近い場所で暮らしたい」「親の仕事の都合」などが理由という。
 斎藤義益学校教育部長は「依然、転出している子どもが多いので単純に比較できないが、戻る傾向が続いていることはうれしい。多くの子どもが戻れるよう安心できる教育環境整備に努める」と話した。
(2012/07/13 14:57)

福島民報WEBより)
これも明らかに「朗報」ですが、これが全国版のニュースで紹介されたという事実を私は知りません(もしどこかで紹介されていたならすみません)。
なぜこれらの記事を紹介したのかと言うと、福島県から他県に離れていった避難者の人達は、果たしてこのような情報に接しているのかどうなのか気がかりであったからです。
以前河北新報の震災特集にこのような記事が載り、以来ずっとこの事が気になっていました。
故郷の情報と隔絶された心細さと不安、これは決してこの記事だけの事ではなく、これに放射能の不安が重なっている福島県の避難者などは、これ以上の思いをしているのではないのかと思ってしまうのです。
特に東北から離れれば離れるほどその情報過疎度はますます大きくなり、それがあのがれき受け入れ騒動などにも発展してしまったと考えられます。
この様な時、地元ローカル情報を吸い上げてそれを全国に知らせる役割を担うのが本来ならば中央メディアであると思うのですが、果たしてここは現在、その役割を果たしているのでしょうか?
福島原発事故に関しては、ネットや雑誌の報道で様々なデマが流されました。今ではネット内ではこのようなデマ情報を集めて検証するサイトも増えました。
しかしこのデマ問題について、テレビなどの中央メディアで大きく取り上げられた事はあったでしょうか。
そのデマ原因として挙げられるツィッターの危うさ、ネットリテラシーの問題、そして他局の偏向報道など、風評被害に通じる様々な要因を正面から取り上げた番組などあったでしょうか。
自分への跳ね返りを恐れ、他局を決して批判せず慣れあいでいるテレビ局、問題記事をチェックする事なくそのまま載せてしまう新聞、金儲けのために煽り報道に精出す週刊誌。ネット情報に接する事のない人達は、このような所からの情報に翻弄されてしまうのです。
確かに原発そのものの収束作業を報告するのは重要ではありますが、では福島県に住まう「普通の人々」の事が話題に上ることはあるのでしょうか。
避難した住人や農家の方達の苦労を紹介するのも確かに大事ですが、ではその事ばかり報道される事で、福島県では普通に暮らしている人が大勢いるという現実が、果たしてどれだけ全国に伝えられているのでしょうか。

原発事故の報道は日本国内ばかりではなく、海外にも大きな衝撃を与えています。そして外国でも日本国内同様、いやもしかすると国内以上に日本に対して不安視している人も多い事でしょう。だから本来、福島にとっての「朗報」は日本にとっての「朗報」でもあるはずなのです。
そういう意識を持つ事も無く福島県ガラパゴス化しているのは、まさに中央メディアのせいなのではと私は思っているのです。

海外ではこういう人が日本人の良識としてどうどうと紹介されています(→こちら)。
先日参加した「ガイガイカウンターミーティングふくしま」で講演した早野龍五さんは、来月WHOで福島の実際を報告すると仰っていました。
この報告がどのように報道されるのか注目しようと思っていますが、それよりそれまでの間、どこぞのテレビ局が早野さんの完全密着取材でもやればいいものをと、講演を聞き終ってから私はずっと思い続けているのです。