杜の里から

日々のつれづれあれやこれ

EMへの疑問(7) ~ちゃんと検証しているの?(1)~

三重県四日市市に、市街地の近くを流れるある水路があります。
それは全長6kmほど、幅約3~10mの雨水幹線水路で、正式名称は「阿瀬知雨水2号幹線」と言います。
四日市市の市民はこの水路を「阿瀬知川」と呼んでいます。

阿瀬知川は、昭和29年から始まった四日市市の下水道事業に伴い昭和40年に供用が開始されましたが、当時阿瀬知川には生活排水、工場排水が流れ込み、水質は段々悪化していきました。
昭和50年頃がピークとなり、その後の下水道整備事業の拡大に伴い徐々に水質は改善されていきましたが、それでも尚、ヘドロの堆積による悪臭の苦情などが行政の窓口に上がってきていました。

平成11年(1999年)、四日市市ではボランティアグループによるEMを使った河川浄化活動(以降「EM浄化活動」と略します)が始まりましたが、その活動を受けて、平成12年からは市内で最も汚染がひどかった「阿瀬知川」の浄化活動に乗り出し、その模様が徐々に知られるに連れ周りの市でもEMの使用が始まりました(→参考)。
やがてこの「阿瀬知川」はEM浄化活動のシンボル的な存在となり、EM関連サイトでは成功事例としてこの「阿瀬知川」の名が必ず登場するようになり(これとかこれなど)、ここの成功を受け、EM浄化活動は急速に全国に広がっていったのです。
今回はこの「阿瀬知川」の事例について考えてみようと思います。

大抵の場合EM浄化活動というものはEMを使用している市民の側から自主的に始まっていくのですが、ここ四日市市では行政との架け橋となった議員さんの存在がありました。
四日市市議会の藤原まゆみ議員(公明党)は、阿瀬知川の浄化活動を積極的に行政に働きかけ、また自身のHPでもその事を紹介しています(→こちら)。
内容を見てみますと、【川の浄化を全国に先駆けEM菌を投入】とあり、写真には【見事に浄化されました。】との説明があります。

ここでいつも疑問に思うのは、本当にEMを投下した【から】綺麗になったのか? という事です。
それにこの間、行政は何もしていなかったのでしょうか?

その辺の当時の状況が、四日市市議会会議録の中から見えてきます。それをこれから紹介しましょう。
ただし会議録は膨大な量であるため当然すべてを掲載する事は不可能ですので、ここではそのダイジェスト判とし、前後は私の解説という方式をとらせていただき、数回に分けてお送りしたいと思います。
しかしこういうものは、ともすれば恣意的な引用とも言われかねませんので、出来るならば実際に見てもらえるのが一番良いと思います(会議録検索に「EM 阿瀬知川」と入力してみて下さい)。
そのため分かりやすいように、発言者の冒頭には会議録の記録番号を付与しています。また、見やすいように新たに改行処理も施しております。尚、強調は引用者によります。

会議録の中で最初に阿瀬知川問題に触れたのが平成12年(2000年)9月定例会で、藤原あゆみ議員が質問を行っています。
(2000・9・13 平成12年9月定例会第4日)
118 (藤原あゆみ)
 まず、阿瀬知川のヘドロの撤去についてですが、いつもどす黒く漂っているヘドロに対し、地元住民はそのにおいに大変悩んでおります。特に夏場には、鼻が曲がり、息ができません。平成9年3月には30cmぐらいのヘドロを取り除きました。その後はヘドロの処分費用がかかり過ぎるということで、置き去りにされてきました。
~(中略)~
ヘドロ対策のためにEM菌が使われますが、この阿瀬知川のヘドロ対策は予断を許しません。早急な対策が必要です。どのように対処されるのか、お聞かせください。

122 (下水道部長)
 阿瀬知川のヘドロ対策につきましてお答えをさせていただきます。
 ~(上流からのヘドロ流入に苦慮している現況の報告)~
 このような状況の中で、ボランティア団体の方から発酵系微生物、つまりEM菌と呼ばれております土壌改良微生物でございますが、これを直接阿瀬知川に投入して、河川の浄化を図りたいとの申し出がございました。このEM菌は汚泥を分解しまして、悪臭あるいはヘドロの堆積を少なくする働きがございまして、全国の各地でその成果が上がっていると聞き及んでおります。
 したがいまして、このEM菌を阿瀬知川の下流部に定期的に投入していただきまして、阿瀬知川の河川浄化につなげたいと考えております。このEM菌の投入はあくまでも試験的なものでございますが、その成果を十分に見きわめた上で、阿瀬知川のヘドロ対策を検討してまいりたいと考えております。
これを見てみますと、EMの投入は始めはあくまで試験的なものであった事が分かります。そしてこれは以前取り上げた「日本橋川」でも同様で、そちらは2年間の時限付きでの使用となっていました。
124 (藤原まゆみ)
 非常に前向きなご答弁で、9月5日から阿瀬知川のヘドロ対策がスタートし、また、17日からEM菌による悪臭対策が始まるということで期待しております。
~(以下、沖縄など各地の事例紹介)~
 市長、EM菌は取り扱いも簡単で、安全、財政負担も少なく、幅広く利用できるのですが、いつまでもボランティアに頼らずに、本市もぜひ全庁体制でEM菌のプロジェクトチームをつくっていただき、魅力的なまちづくりをしていただきたいと思います。
ここの発言により、阿瀬知川でのEM浄化活動は平成12年(2000年)9月17日から開始され、当初はヘドロ対策の中の「悪臭対策」としての取り扱いであった事が分かります。
それではなぜこれが「EMによってヘドロが減少」という事になったのでしょうか?
翌年3月に開かれた定例議会で、このような質疑があります。これは、小林博次議員(無所属)から行われたもので、彼が訪れた沖縄県具志川市の市立図書館の汚水処理場を視察しての質問です。
(2001・3・6 平成13年3月定例会第3日(代表質問))
13 (小林博次議員)
~(前略)~
 実は、つい先日沖縄県具志川市に行ってまいりました。
~(市立図書館の現況報告)~
 そこで、その市の観光部長が、実は四日市市さんに進んだ例があるからということでお聞きをしました。聞き始めやなあということで、帰って早速調べましたら、私が帰って3日後に四日市へ経済部長が来られました。
 四日市ではEMを使ったボランティア団体と昌栄町の自治会が、阿瀬知川に米のとぎ汁でつくったEM液7,000l、EMだんご600kgを散布して河川の浄化に取り組んでおりまして、阿瀬知川のヘドロは減少、悪臭も減った。チッソ、リンは実に10分の1に減ったと、こういうふうに報告がありました。非常にすばらしい取り組みであります。こんな感じですね。これは河川の浄化のことがずっと書いてあります。
 こんなすばらしいことがありながら、しかし、市の方は一体どうやって取り組んでいるのかなと思いきや、成功したらやりますよという感じで、取り組んでいないようであります。
~(中略)~
 このEM処理液をつくるのに、どっかのメーカーがつくったやつだと思うんですが、100倍力2と書いてあります。「ニ」と読むのか「ツー」と読むのか知りませんが、これが80万円するそうです。これでつくって培養すると、ペットボトル1本100円で市販できると。
 大変効果があるようでございますので、こういう問題についても、80万円民間で買えと言わずに、市の方で買って貸してあげると、こういうふうなことなんかも必要ではないかと、こんなふうに思っているわけであります。市の方の考え方があれば聞かせていただきたい。
彼は何らかの報告書を受け取り、そこにはどうやらEMで阿瀬知川のヘドロが減少したと書かれていたようで、これを元に市に対して培養機の購入を提案しています。
ここでまた疑問が生じます。当の四日市市の議員も知らなかった報告を、具志川市の職員はどこから手に入れたのでしょう?

そして6日目(3月9日)の質疑で、今度は日置敏彦議員(ウェーブ21)がEMについて質問しています。
この質疑の要旨は、彼が「地球を救う大変革」を読んでEMの事を知った事や、岐阜県可児市のEMボカシによるゴミ減量の視察報告、その後阿瀬知川の活動を例にして、市へEM活用を訴えるというものです。
それに対して市側は、
(2001・3・9 平成13年3月定例会第6日)
25 (助役)
~(前略)~
 最後にEM菌でございますが、EM菌の研究をもっとやれと、こういうご指摘を賜りました。
 EM菌につきましては、全国いろいろなところで、あるいは、市内でも幾つかのグループや個人で取り組みがなされておりまして、その活動の成果が報告をされておりますが、非常によい結果が出ていると、こういう報告を私もいろんな文献で拝読をするところでございます。
 ちょうど三重県では、EM菌につきまして平成13年度、来年度でございますが、適用性、有効性の調査を行う、このような予定というふうに聞いております。市といたしましても、それらの調査結果も踏まえまして、市といたしまして、EM菌の利用をどのような切り口に位置づけていくんか、あるいは市民活動とどういうふうにリンクをさせていくんか、こういうことを整理をしつつ、EM菌の利用の輪を、おっしゃるように大きくしていくべく努力をしてまいりますので、ご理解を賜りたいと存じます。
と、市としては積極的にEMを取り入れていく旨の発言をしていますが、その姿勢はあくまで慎重なもののようです。
それに対し、6月定例会では藤原まゆみ議員が市の対応に意見しています。
(2001・6・11 平成13年6月定例会第2日)
 (藤原まゆみ)
~(前略)~
 阿瀬知川のヘドロ対策にEM菌を使い始めて9カ月たちました。その結果、悪臭のたち込めていた阿瀬知川は見事に浄化され、その成功事例としてテレビや新聞にたびたび紹介されております。地元四日市の皆さんはもとより、県内・県外を問わず多くの市町村から視察要望があり、阿瀬知川浄化の波が広がり、ますます関心が高まっております。
 先日、5月13日に津市で開かれたEM技術交流大会では、阿瀬知川浄化の取り組みがパネルディスカッションで紹介され、市民団体、地元の自治会長、四日市市下水道部の次長の3人が取り組みを発表いたしました。その大会で地元昌栄町の自治会長は、長年ヘドロに苦しんできたが、浄化作戦により40年前に撤去された橋脚の跡まで水面に出てくるまでになり、予想以上の効果に、昔のようにホタルが乱舞する所になるのではと感激の涙を流されておりました。
~(以下阿瀬知川の現況報告)~
 最後に、現在の阿瀬知川の河口の様子です。手前に見える柱の跡、これでございますね。これが橋脚の跡ですね。これまではヘドロに埋もれて全く見ることはできませんでしたが、現在ははっきりと確認できます。また、川岸の矢板についた黒い跡はヘドロの跡です。この部分ですね。この跡は川底からはかると約60あります。ここ6から10カ月の間に変化したヘドロの深さをあらわしています。つまり60の深さのヘドロがなくなったということになります。
 以上です。
~(以下、上流にEM投入機を設置した事、その電気代を市が補助している事の説明)~
 官民協働のモデルケースのわりには、官である本市の力の入れ方が少ない。地元住民は市民団体任せではないかと危惧しております。阿瀬知川浄化に対し9カ月に及ぶボランティアの方々の献身的な活動に対し、市長はどのようにこたえようとしておられるのでしょうか。
と、EM浄化活動によってヘドロがなくなったとし、EM技術交流会ではそのように報告がなされた事が分かります。そしてこの交流会での事例発表が後に大きな話題となって、各地に飛び火する事になるのです。
しかしながらここでまた分からない事があります。
このEM技術交流大会での発表は5月13日に行われたとありましたが、前に登場した小林博次議員の質問は3月6日に行われたものでした。そして質問内容から見ても、彼が阿瀬知川の報告を受けたのは2月中であると推測され、具志川市にその報告が上がったのは更にそれよりもっと前という事になります。
つまり5月のEM技術交流大会発表のかなり前に「効果あり」の報告がどこからか具志川市に行われていた事になり、藤原議員発言の9ヶ月や10ヶ月どころか、それよりもかなり早い時点で変化が起こった事が伺われ、その事により住民達がEMの効果を実感した事が想像出来ます。
EM関連サイトで調べてみますとこれが見つかりました。
それによりますと、「3ヶ月後には今まで見えなかった約40年前に撤去された木橋の橋桁や、投棄されていた空缶等が露出するほどヘドロが消えた。」とあります。
しかし、9月の中ごろから投入が始まって2ヶ月とか3ヶ月というのは、微生物が不活化する秋や冬にあたります。
これから寒くなる時期に向かっての投入で、これほどの劇的な変化が起こったのは果たしてEMのおかげなのでしょうか?
また、平成12年9月定例会での発言(124)で、
「9月5日から阿瀬知川のヘドロ対策がスタートし、」
とありますが、これは行政が行ったものであるらしいのですが、不思議な事に以後の発言でそれについて触れている箇所はどこにもありません。

この時期一体行政は何をやったのか? やらなかったのか?
他の要因はあったのか? なかったのか?

謎は深まるばかりですが、そのヒントは思わぬ所から発見する事になったのです。
続く)