杜の里から

日々のつれづれあれやこれ

考察:環境運動にはなぜEMがまかり通るのか(2)

近年、テレビなどで環境問題がちょくちょく取り上げられるようになり、人々の間にも徐々に身の周りの環境に注目する人が増えてきました。
それに伴い、EMというものが人々の話題に上がるようになり、それがやがて議員さんへと広がっていく事となるのですが、これには勿論比嘉さん自身の広報活動による所も大きいのですが、それを伝える側にもかなり問題があると言えます。
今回はその伝える側に焦点を当ててみたいと思います。

●マスコミと口コミ
毎年この時期になると各地でこういう記事が紙面を賑わし、いまや初夏の風物詩ともなっています。
徳島新聞
【EMを使ってプール美しく 桑野小児童が環境学習】
  
京都新聞
【有用微生物使いプールぴかぴか】
  
〔デーリー東北〕
【EM活用しプールを清掃】
  
そしてプール掃除の次には決まってこのような記事があちこちの紙面を飾る事となります。
南日本新聞
【「川をきれいに」 川辺高生がEM団子作り】
  
同じく〔南日本新聞
肝属川をきれいに 鹿屋小4年生がEM団子投入】
  
毎日新聞 地方版〕
【EM団子:環境美化 東部中生徒と住民、権吉川浄化へ2000個】
  
紹介したものはあくまでWEB上で読めるものですが、実際はもっと多くの新聞に記事として紹介されているはずです(→参考)。
プールははっきりとした結果が見えているものが多いのでまだいいのですが、問題は「EMだんご」の記事です。
その記事をよくよく読んでみますと、「~という」とか「~とされる」など、まるで伝聞の様な表現がやたら目立つのです。
そしてまた、事実関係がはっきりしないのに、あたかもそれのおかげでそうなったかのような記事もやたら目に付くようになります。
例えばこちら、〔西日本新聞
【清流戻り 蛍の夕べ 平戸市の中津良川】
  

<引用>
 中津良小児童が2002年4月から、生活排水で汚れた中津良川のクリーン作戦に着手。ごみを拾ったり、有用微生物群(EM)の培養液を混ぜた泥団子を川に投げ込んだりした結果、ホタルが増えだした。
<引用終わり>

一見、清流が戻ったのはEMだんごを投げたからだと言っている様に見えてしまう訳ですが、よく読めばここは実際は河川清掃も行っている訳です。
そしてここを詳しく調べてみた所、ここは他にも色々な活動を行っているのですが、記事では「EMだんご」ばかりが印象に残るような書き方となっています。
ここの活動は地元のローカルテレビでも紹介されましたが、その内容も新聞同様「EMだんご投入」がメインとなるものでした(→これ)(ここの詳細は(3)にて報告)。
このEMだんごの投入については過去にはNHKでも放送された事があり、このような放送毎に大きな反響を呼ぶ結果となっています。

これらの記事や放送を見るにつけ、私にはいつも気になる事があります。
それは、マスコミはEMの効果についてちゃんと裏をとっているのか? という事です。
EMで浄化活動をしている人達は、当然ながら何か効果があったらそれはEMのおかげと考えてしまいます。つまり彼らの見方にはバイアス(「思い込み」と称しても良いかと思います)がかかっている訳です。
そしてその「思い込み」を、メディアが何の疑いも無くそのまま伝えてしまいます。記事中の写真や映像で「EM発酵液」や「EMだんご」の投入風景が紹介される訳ですが、それはつまり、マスコミ的にはそれが「絵」になるからです。
しかしそれが読者・視聴者には、そういう姿が「善い事」の様に映り、浄化の効果が上がっているのだという印象を与えてしまうのです。
ところがよくよく見てみると、伝えているのはそういう「行動している姿」ばかりであり、肝心な「結果」が伝えられる事はめったになく、たまに報告されるものと言えば「思い込み」に捕われた情報ばかりとなるのです。
つまり、ことEMに関しては、マスコミ報道が口コミレベルにまで堕ちているという記事がやたら目立つのです。
これは多分、取材する記者さんの無知不勉強から来るものと思われますが、たまにEMについて詳しく書かれているかと思えば、ただ比嘉さんの言説をそのまま流用しているだけというものも見かけます。

そもそも肝心の比嘉さん自身がEMの効果を過大に評価している訳ですから、比嘉さんの言う事もすべてそのまま受け入れる訳にはいきません。
比嘉さんはEMの科学的検証作業を放棄し、ひたすら実践での結果ばかりを重視しています。しかしその結果というものは、EMを信奉する人達から送られて来る訳ですから、皆バイアスのかかった「EMのおかげ」とするものばかりとなります。
EMに惚れ込んでいる比嘉さんは、自分の元に上がってくるその報告を何も疑う事無くそのまま信じてしまい、それをまた講演で堂々と発表し、それを聞いた人達がまた信用して周りに広めるという具合に、EMはまるで都市伝説の如く「口コミの連鎖」から成り立っているのです。
そしてEMによるとされる効果の根拠を確かめていくと、とどのつまり比嘉さんの「聞きかじり」と「思い込み」に突き当たり、我ながら愕然としてしまうのです。だから残念ながら、比嘉さんの言説をそのまま信じる事は出来ない訳です。それはあの日本橋川の事例を見ても明らかでしょう。

最近の環境浄化運動の記事ではやたらと【EMだんご】が紹介されるのですが、そもそも【EMだんご】には効果はあるのでしょうか?
EMだんごというものは、初めは「EMぼかしネットワーク」に所属するある農家の方が河川へのEM発酵液の投入を見て、それでは底面にEMがいかないからという事で、EMぼかし作りを応用してEMを泥の中に混ぜ込み、それを「EM泥団子」としてEMぼかしネットワークの会報で紹介した事が初めでした。
もちろん実際に浄化作用があるかないかは何も分からず、ただあちこちの河川で行われていたEM発酵液の投入が、浄化作用があると言われるからというだけで他に何ら根拠もなく、だからEMだんごというものは、
「こうしたらどうだろう?」
という、EM使用者のアイディア以上の何者でもないものでした。
これがEM投入をしている会員達に広まり、その作り方の簡便さから学校の環境学習などでも取り入れられ、生徒達とお年寄りが一緒になって活動する姿が、「環境美化」の名の下に美しい「絵」となってマスコミに紹介され、こうして徐々に日本各地に広がっていった訳です。
しかし肝心なその効果については、驚いた事にその検証結果を報告するものはほとんどないのです。
ほとんど、と言うのは、たまにはこんなものもあるにはあるのです。
ここではEMだんご投入はあまりお薦め出来ないという結果なのですが、↓
  
ところがその実験方法を見てみますと、加える資材そのものの量が多すぎて、その結果はあまり信頼出来ないものとなっているのです。↓

(ちなみに私が風呂場で行った検証では、お風呂のお湯300lに対し加えた量はペットボトルキャップ2杯、約15mlです。)
また、他にあるものと言えばこんなものだったりと、とにかくまともな検証というものが見つからないのです。

そして記事の多くは、
「環境が良くなってほしい」、「浄化しますように」、「浄化される事を信じて」
などという言葉と共にそれを「投げ入れる姿」ばかりが紹介され、そしてその「姿」を見て、
「うちもやってみよう」
と思って取り組み始める、EMだんごの根拠とは、実はこれだけなのです。
それが浄化に有効であるかないかの検証は何もなく、ただ「投げ入れる姿」だけが印象的に取り上げられる事により、いつしか
「環境浄化に効果がある」
という「幻想」が日本中に蔓延してしまったのです。

それにまた、マスコミはこの行為に対し決して批判を唱えたりはしません。そしてその事こそ、実はマスコミそのものの潜在的な問題でもあると言えます。
「マスコミは市民活動には文句を言えない」のです。
それは、マスコミが批判するターゲットは常に権力側であり、マスコミは常に大衆の味方であらねばならないからです。それに住民運動を批判するという事は、それに参加している住民をも批判する事になり、それほどのリスクを犯してまで運動を批判する事は今のマスコミには不可能なのです。
それは皮肉にも、EM浄化運動に関しては、マスコミも議員さん達と同じ立場になってしまうという事を意味しているのです。
EMの広がりの一因にはこの「マスコミの口コミ化」というものがあり、これを防ぐ手段は結局の所、良識ある専門家の意見を真摯に聞く事から始まると思うのですが、果たして今の記者さんにそれが出来るのか、これからも注意深く見守っていきたいと思います。


こちらでは、マレーシアでのEMだんご投入の事が紹介されています。
中日新聞
【EM団子1万個で浜名川の浄化作戦 19日に投入、市民参加を呼びかけ】
  

<引用>
 世界各国でもEMを使った浄化活動は盛んで、東南アジアのマレーシアペナン州では、昨年8月8日に120万個のEM団子を州内のケリアン川に投入、大量の汚泥が消失し大きな効果を挙げた。
<引用終わり>

記事中では、〔大量の汚泥が消失し大きな効果を挙げた。〕となっていますが、果たしてこれはちゃんと裏をとったものなのでしょうか。
どうもこの記事の元ネタは、比嘉さんのこれではないかと思えてなりません。
具体的なイベントの様子はこちらで垣間見る事が出来ますが、私には単なるパフォーマンスにしか見てとれず、日本の都市伝説がこんな所まで飛び火したのかと、思わず薄ら寒いものを感じてしまうのです。
しかし他に見つけた映像を見ると、「ああ、何だソーカ」と妙に納得したりもしてしまいます(→これ)。
EMサイトではその効果を写真入りで宣伝しています(→こちら)。
それを見ると、確かにヘドロの量は減少しているようにも見えます。↓
  
しかし私は、このような「使用前」「使用後」の写真の信憑性には大いに疑問を感じているのです。でもここでは敢えて憶測を避け、事実だけを提示しようと思います。
EM投入前の8月はペナンでは丁度雨季にあたり、投入後の3月は乾季の終わった頃にあたります(→参考)。

(3)に続く