杜の里から

日々のつれづれあれやこれ

EMへの疑問(11) ~ちゃんと検証しているの?(5)(最終回)~

平成16年(2004年)6月定例会で、藤原議員はこのような発言を行いました。
56 「汚水浄化については、河川が本来持つ自浄作用により浄化が行われています。しかし、自然の浄化能力を超える外的汚染原因により有機物が腐敗発酵、酸化分解し、汚泥の堆積や悪臭の原因になっております。」
まさにその通りです。
そしてその考え方からすれば、本来ならその外的汚染原因をいかに河川に流さなくすべきか、河川に流れる前にいかに綺麗にすべきかという発想を抱くべきだったのです。
元々のEM浄化法というのは浄化槽に限ったものでした。そしてそれは、沖縄県具志川市の市立図書館の事例にもあるように、そこだけに留めておくならば有効なものでもあったのです。
ですから阿瀬知川でも、「浄化槽内の汚水の浄化」という観点から、家庭内での使用に留めるという形での活動を続けていれば、これまでのような対立も起こらなかったのではとも思えるのです。
しかしそうはなりませんでした。
この活動の元々のきっかけは、EM環境教育の延長でした(→こちら)。この時点で果たしてどれほどの検証作業が行われたのかがはなはだ疑問に感じるのです。
ただ現実として、日々目の前の悪臭に悩まされている住民にとっては、とてもそこまで考えが及ばなかった事は理解出来ます。住民達にとっては、もう我慢の限界を超えていたのだと思われます。
だから、学校での実践例から河川浄化への期待を抱き、試験的に投入を始めた事に対しては誰にも文句を言われる筋合いのものではないし、その気持ちも充分理解出来るものです。
ただしかし、そのようなEM河川浄化法は、「自然の浄化能力を超える外的汚染原因」に対し、それすら浄化出来るようになるほど強力な力を引き出す「魔法の薬」という概念を植え付けてしまうものです。
そのため環境が改善の方向に向かったとしても、それをすべて「魔法の薬」のおかげにしてしまうという、一面的な判断しか出来なくなってしまうのです。
EMに過大な期待をかけていないか。EMに捕われていないか。
EM浄化活動をしている人達は、今一度冷静な視点から再検証してみる必要があるのではないでしょうか。

阿瀬知川のEM浄化活動は依然続いていました。
しかし市は、住民達の環境への意識を呼び起こした点は評価すべきという観点から、その活動への支援は続けました。
平成18年度では、住民参加の町づくりの一環として、行政・住民共同で河川清掃作業も行い、その回数はのべ150回にも及んでいます(→こちらのp.34)。
このような河川清掃活動こそ住民達が行うべき河川浄化の本来の姿であり、そして周囲に堂々と誇れる事であると思えるのです。

平成19年(2007年)の定例会で、久しぶりに阿瀬知川が議題に上がりました。
しかしそこでの議員の質問は、今までとは違うものでした。
(2007・6・14 平成19年6月定例会)
 (藤原まゆみ)
~(前略)~
 阿瀬知川の河川浄化を始めてから8年になります。市民の皆さんもよくご存じですが、昔の阿瀬知川のように自然を取り戻しつつあります。先日、阿瀬知川の上流で、ヘイケボタルの生息が発見されました。川の石垣でほのかな光をともす蛍に、懸命に生きている命の大切さを教えられました。上流では蛍がすむほどきれいなのに、下流ではどうしてヘドロが堆積するのでしょうか。
~(以下、ヘドロ堆積は下流ポンプ場が原因とし、その対策をどうするのかという質問)~
 阿瀬知川が汚れる原因のもう一つは、四日市市公共下水道への未接続が原因で、水洗化率が低いことが挙げられます。
 公共下水道の未接続とは、下水道工事が既に完了しているのに接続せずに、一般河川に生活雑排水がそのまま流れている状態をいいます。あるときはそうめん、スパゲッティと、現物そのままの姿で流れております。本市の平均水洗化率は85.6%ですが、阿瀬知川の上流である地域の水洗化率は74.6%と大きくおくれております。
 先日、ある大手の飲食店がやっと下水道に接続して、大きな変化がありました。下流での川の汚れに違いが出てきました。 【たとえ1軒でも公共下水道に接続すると、川の汚れが減るということがわかりました。】阿瀬知川の上流、あるいは本市の公共下水道への未接続に対し、どのような対策をされるのでしょうか。
~(以下、下水道未接続問題に対して行政の取り組みの質問)~ 
 まじめに下水道につないでいる市民だけが高い下水道使用料を負担することのないよう、水洗化率を上げるために、本気になって取り組まなければなりません。
 今、地球温暖化が市民の関心の高さを物語っております。環境負荷の原因となる川の汚れは、どう考えても【もとから絶たなきゃだめ】なんです。
 官民一体の河川浄化とよく言われますが、官の役割である公共下水道への未接続である水洗化率を上げることこそ急務です。課税の公平、費用対効果の観点からも、上下水道局は環境部とタイアップして、水洗化率を高めるため、早急にプロジェクトチームを組んで、この対策に取り組むことが大切です。お考えをお聞かせください。

 (上下水道管理者)
 この阿瀬知川におきましては、ご質問にもございましたように、8年もの長きにわたりまして、地元の自治会によります清掃活動やボランティア団体の阿瀬知川を美しくする会によりますヘドロの除去活動を熱心に行っていただいておりまして、大変感謝をいたしているところでございます。
 さて、ご質問のヘドロ対策についてでございますけれども、阿瀬知川の下流では、昨年度から阿瀬知雨水1号幹線水路の関連工事といたしまして、雨水の吐き出し管布設工事を進めておるところでございますが、この中で、ヘドロが堆積しやすい場所に、護岸設備や、それからビオトープ工事などを行いまして、あわせてヘドロの処理も約350ほど行ったところでございます。
 水路管理者である上下水道局といたしましては、市内中心部を流れ、市民の皆様に親しまれております阿瀬知川を守るため、引き続き水路清掃を実施するなど、適切な対処をしてまいりたいと、このように考えておりますので、ご理解を賜りたいと思います。
~(中略)~
 次に、ご指摘をいただきました水洗化率の問題でございますが、本市の水洗化率は、平成18年度末で、お話にございましたように、85.6%となっております。公共水域の水質保全のためには、この水洗化率の向上は大変重要でございまして、公共下水道の整備が完了している区域での未接続対策にも幅広く取り組んでおるところでございます。
~(中略)~
 また、阿瀬知川上流に当たる区域の水洗化率はご指摘をいただいたとおりでございますけれども、この当該地区の下水道の整備は、近年、下水道整備事業を拡充しておる最中でございまして、今後、下水道の普及を含め、水洗化の促進を図ってまいりたいと、かよう考えておるところでございます。

 (藤原まゆみ)
 管理者、ヘドロ対策というのは、阿瀬知川はヘドロとごみの対策が一番大事なんですね。水路管理者の上下水道局が必要に応じて水路清掃とかヘドロの除去をしていただいているのは確かでございますが、役所は十分にやっていると思っておるんですけど、住民はまだ不十分やという思いがあるんですよね。そこに、役所と住民の気持ちの離れたところ、理解の仕方が違うんですよ。
 やっぱりそこをもう少し詰めたような形での水路清掃なりヘドロ対策をしていただかなあかんと思うんですね。これは本当にお願いしたいなと思っております。
ご覧の通り、平成14年の時とは180°認識が変わっています。やはり実際にその効果を目撃したのが大きかったのでしょうが、このような認識に至るまでにずいぶん長い時間がかかってしまったものです。
とにもかくにも、これで下水道事業に対しては議員(住民達)と目標を一にする事が出来たという事で、行政側としてはさぞかし安堵した事でしょう。
しかしだからと言って、それまで行ってきた住民達の努力をここで否定する事は出来ません。住民達が行ってきた河川清掃作業は実際有効なもので、そのような行動に至るきっかけとなったEMは、その意味では「ツール」としての役割は実際果たした事になるとも言えます。
ただし、依然清掃作業よりもEMの方ばかりに目を向けている事も問題ではあります。
20 (藤原まゆみ)
~(前略)~
 最後に、環境部長にお願いしておきます。
 阿瀬知川の河川浄化運動に環境保全課はあんまり関心を示してくださらないんですけれども、EM菌を使うことによる効果に対して、化学方程式がないとか、阿瀬知川の河川浄化は、きれいになったのはEM菌の効果かどうかわからないと言われます。
私たち、8年間、阿瀬知川の浄化に汗を流している側からすると、非常に不自然さを感じます。他の自治体もその効果を認めて使用するところはふえておりまして、主にやっぱり環境部が主体に動いているところがたくさんあります。
 ですから、今後そういうところをご理解いただきまして、よろしくご協力のほどお願いしたいなと思います。
始めの方で議員は、【たとえ1軒でも公共下水道に接続すると、川の汚れが減るということがわかりました。】と発言しています。そして今まで流域では、徐々に下水道への接続が行われていたのです。
自身で発したこの言葉の意味する事がどういう事かを理解するのは、EMに目を奪われている限り、中々難しいのかもしれません。
現在阿瀬知川では、清掃作業は行政から住民達に引き継がれました。そして浄化活動に対しても補助は行われ続けています。
行政側から見たら、EMの効果云々よりも、住民達が自主的に環境運動に取り組む姿勢こそが重要であり、その観点からEM活動を容認しているという所が多くの自治体であるのが実状です。
ここ四日市市では下水道事業は現在も引き続き行われており、阿瀬知川は着実に綺麗になりつつあります。
これから先、行政としては「多自然の川作り」というものも検討してみる価値があるかもしれません(都市河川ですから中々難しいとも思われますが)。
そしてそのような形で、住民達がより愛着が持てる川となった時、彼らはEM本来の使われ方に気づくのかもしれません。


さてこうして見てみると、阿瀬知川の実態はEMサイトで言われているほど順調ではなかったし、EMによって綺麗になった訳でもないという事が分かります。そして各場面において、「検証」というものがいかに重要であるかという事を思い知らされます。
この「検証」というものは、EM推進者にもそのまま当てはまります。
彼らはこのような紆余曲折があった事など知る事もなく、ただ「EMで浄化された」という一言で済ませてしまったり(→これとかこれなど)、相変わらず平成12年の時の事例を持ち出していたり(→これ)など、一面的な報告しか行いません。
それが結局、人々を単純な思考に陥らせ、結果的に無駄な時間と労力を費やさせてしまうという事になってはいないでしょうか。
このような人達に私はぜひ問うてみたいのです。

  「ちゃんと検証しているのですか?」

と。
(終わり) (追補あり)