杜の里から

日々のつれづれあれやこれ

考察:環境運動にはなぜEMがまかり通るのか(1)

どこかで聞いた事があるいささか過激なタイトルですが、最近目にする運動を見るにつけ、ついこんな思いを抱いてしまいます。
各地の環境浄化運動を調べていましたら、こんな記事を見つけてしまいました。
COP10支援実行委員会:パートナーシップ事業」
【EMで海・河川の浄化 全国EM団子・EM活性液投入】(詳細はこちら
主催は「地球環境共生ネットワーク」、ここは去年の9月に「第1回伊勢湾・三河湾浄化大作戦」という大規模なEM投入イベントを行い、今年はより全国的にEM投入活動を行おうとしています。
つい先頃、このようなエントリーを上げたばかりなのに、よりによってCOP10のパートナーシップ事業に認定されてしまったという事にちょっとショックを受けてしまいましたが、ここの事務局は具体的な計画の概要を理解していたのか、はなはだ疑問を感じてしまいます。

ここ数年、住民参加の河川浄化運動が盛り上がりを見せていますが、そこによく登場するのが「EM発酵液」と「EMだんご」の投入というものです。
河川に物を投入するという行為はあまり薦められるものではないのですが(と言うより、私は反対ですが)、環境運動に熱心な人達の中には、なぜか何の問題意識も持たずにこの行為に及んでいるという姿がよく見られます。
勿論そこには住民達の【善意】というものがある訳なのですが、ここまで広がるようになったのには決してそれだけではない「何か」があるはずなのです。
今回から数回にかけて、その問題をじっくり考えてみたいと思います。一回目は「議員さんの存在」、問題の根は深いです。


●議員さんの存在
住民達の環境運動の支えとして、行政への働きかけというものが重要な要素を占めます。何せ河川に何かを投入するのですから、それには行政の許可がいる訳です。
そこで住民達は、議員さんの行政への働きかけに期待するという事になります(その実例がここで紹介した事例です)。
実際議員さんというのは、ほとんどの方はその道の専門家という訳ではなく、環境問題に関しても市民と同じ素人さんというのが実情であると思われます。
ですから比嘉さんの言葉を簡単に信じてしまうという事が当然ある訳なのですが、実は議員さんがそうなってしまうのが一番やっかいな問題なのです。
ここでこんな実例を紹介しましょう。

平成15年前後の時期、「阿瀬知川」でお馴染みの四日市市のお隣鈴鹿市では、議員・市長共々EM推進派でした。この時の推進派の主な議員は四日市市と同じ公明党で、EM普及の状況は自身のHPでも紹介されています。

三重県では、H13(2001)8/2~H14(2002)8/29の約1年間、英虞(あご)湾内の神明干潟と片田養殖場で大規模なEM投入試験を行い、そこではEMには効果なしという結果となりました(→参照)。(詳細はこちら→(PDF))。
この結果を受けて、平成15年の鈴鹿市議会の中で以下の様な質疑が行われました。この中で、否定的な結論に対してのEM推進側の意見が大変興味深いものとなっています(引用元はすべて鈴鹿市議会会議録より。尚、改行、強調は引用者によります)。

(平成15年6月定例会)
No.13 大西克美(市政研究会)
 EM菌についてですが,県の英虞湾での実証実験には,毎週毎週10トンを投入し,その期間も平成13年8月2日から平成14年8月29日までの1年間を,平成13年度は138万9,640円,平成14年度が397万6,000円の合計536万5,640円の経費をかけて継続実験されました。その半年後の平成15年3月に報告をされたわけでございます。
結果として,EM菌による効果,変化が認められなかったという報告が出ております。ここで,この県の分析結果を踏まえ,今後の当市の取り組みはどのようにしていくのか,簡潔,明瞭に答えていただきたいと思います。

No.15 市民部長(團野隆治君)
 (~前略)
次に,EMの件で3回目の御質問にお答え申し上げますが,三重県科学技術振興センターの調査結果は,当市といたしましてもよい分析結果がもたらされますことを期待いたしておりましたんですが,こういった報告を受けて残念と言わざるを得ません。今後も引き続きましてEM効果の検証につきましては調査・研究を継続されますことに期待をさせていただきたいというふうに思っております。
しかしながら,こうした投入前後の分析結果に差異が見られなかったという検証報告は,同時に,分析項目の範囲内におきましては,EM自体が,直接,自然環境に及ぼす負荷もなく,一部においては疑問視されておりました大量投入に対する安全性の疑念が,この結果によりまして解消されたと,ある意味では言わざるを得んのかなというふうには考えております。
~(中略)~
 また,あわせまして,専門機関の指導や協力を得ながら,今後とも,まちづくりと一体となった良好な水辺環境の再生を目指し,公共用水域が地域に密着した,これまでの地域の自然環境,生活,文化に深くかかわり,大きな役割を果たしてきた共有財産であるとの観点から環境に関心を持つ地域住民との連携,協調を形成しつつ,水質浄化対策を推進する一手法として普及,支援事業を着実に継続してまいりたいと考えておりますので,何とぞよろしく御理解賜りますようお願い申し上げまして,3回目の答弁とさせていただきます。

思わず我が目を疑ってしまうのですが、市民部長さんはこの否定的な報告に対し、「効果がなかった」という事よりも、「分析結果に差異がなかった」事をもってして、【大量投与しても安全である】という具合に都合よく解釈し、より一層の普及支援を約束する事となったのです。
この頃の鈴鹿市では、市長さんから議員さんまで皆EM推進派でした。だからこういう発言に対して正面切って意義を唱える人はいませんでした。
広めたいと思っている人達が都合の悪い事実からは目をそらし、提出された資料をいかに自分達に都合のいいように解釈していくかという実例がここに存在するのです。

そして、EMを推進する議員さんが行政に積極的に働きかける姿も、ここの議事録からうかがい知る事が出来ます。
公明党の議員さんの発言を見てみる事にしましょう。

(平成17年3月定例会)
No.19 伊藤寿一君
 次に,私が今回の代表質問で最も言いたいことは,かねてから私ども公明党会派が強調して訴えているところの庁内の各部課におけるEMの本格採用であります。このEMは,環境を考える上で欠くことのできないものと考えています。
当市では,既に,私ども公明党の提案で,EM活性液の製造及び配布を実施しておりますが,現実は1週間で200リットルという,ごくわずかな量を製造し,興味ある人や一部の環境ボランティアグループに少々配布しているに過ぎません。EMを広範囲に持続的に使用すれば,本来,EMの持つはかり知れない効果を発揮することは間違いありません。しかし,現在の状況は,そこまでに至っていない実施状況であります。これはEMというものの本質を市行政側も市民も理解できていないからだと私は思っております。

「EMの本質」? はて、この議員さんは果たしてどこまでEMの事を理解してるというのでしょうか?
発言は続きます。

 琉球大学の農学博士で,EMを開発された比嘉照夫教授の「EM環境革命」という本の中で,
「汚染の本質は活性酸素フリーラジカルによる強烈な酸化作用であり,破壊は物質が酸化によってエネルギーを失ってイオン化し,有害な波動を出す現象である,中略。すなわち,この地球上で起こる,あらゆる有害な現象は,すべて過剰な酸化によって引き起こされており,環境の悪化や生産機能の低下及び自然界に存在する病気の大半のものは,すべて酸化劣壊の結果である」
と,ここは大事なところですので,もう一度繰り返します。
「すなわち,この地球上で起こるあらゆる有害な現象は,すべて過剰な酸化によって引き起こされており,環境の悪化や生産機能の低下及び自然界に存在する病気の大半のものは,すべて酸化劣壊の結果である。」
「EMが万能的と言われるのは,このような酸化劣壊を防ぐだけでなく,既に酸化したものを正常に戻し,機能性を高める性質があるからである」
と述べております。なかなか理解しづらいところがあるかもしれませんが,EMを多くの場所で採用することは,そこを破壊方向から蘇生方向に変えることができるということであり,多くの人が多くの場所で,多く使い続けることがベストなのであります。
~(中略)~
 私は,EM教でも何でもありません。いいものはいいのです。環境対策における現代の高コスト体質は,このままいけば,既に危機的状況にある医療費と同じ運命にあると言われ,財政を大きく圧迫する一大要因になっているようでありますが,その点,EMは安全で快適,低コスト,高品質で持続可能な環境問題解決ができることが最大の特徴であります。
「なぜ,そうなるのか」ということをもっと深く追求をしてほしいものです。

ご覧になってお分かりのように、この議員さんは比嘉さんの主張を何の疑いもなくそのまま信じている訳です。
本人は
「私は、EM教でも何でもありません。」
と仰られていますが、比嘉さんの書籍の内容をそのまま受け入れている事自体、「盲信」への道を突き進んでいる事を本人は自覚していないのです。
そしてこのような議員の積極的な働きかけが、市の行政を大きく動かしていく事になるのです。

(平成17年12月定例会)
No.29 伊藤寿一君
 先月,私たち公明党の議員が四日市と津の両市で行われましたEM活用交流会というEM有用微生物分を開発した沖縄の琉球大学の比嘉教授の講演会に出席をいたしました。
四日市市では,井上市長と比嘉教授の対談もありまして,井上市長みずからも,EMによる環境浄化運動に率先して取り組んでいる様子も報告されておりました。
 その中で,四日市阿瀬知川の河口部分のヘドロがほとんど消えまして,多くの魚が戻ってきた,生物が戻ってきたという,そういう報告もありました。
 また,今回,磯津漁港が,ヘドロとか――そういう海の浄化のため,ヘドロ対策とか,そういう海の浄化のために漁協の組合員さんたちと,それからNPOの人たちが協力して,EMによる港の浄化に,本格的に取り組んでいる様子がビデオで紹介され,説明もされておりました。
 もうちょっと実に衝撃的でありましたですが,今回,津市で行われましたEM活性交流会というのに私どもがお誘いをしたんでありますが,当市の市長と助役と教育長にも参加していただきまして,EMというのが,一体どういうもんかというのを一面でしょうけれども,御理解をいただいたんではないかなというふうに思っております。

各地で行われているEM活用交流会というのは、あくまでEMを推進する側が行っていますので、中で発表された阿瀬知川の事例も当然EMによって改善されたとする見解でしか語られない訳です。
そして強調されるのが、
NPOの人たちが協力して,EMによる港の浄化に,本格的に取り組んでいる様子」
であり、そして当然ながら、あの三重県が行った実験は(比嘉さん自ら実験の指揮をしたにも関わらず)取り上げられる事は決してなく、見事に見て見ぬふりをされてしまうのです。

今回はたまたま公明党の議員を例に挙げましたが、これは決してここだけの話ではなく、こういう議員さん達は党を問わず各地に存在しています(この方などは「地球環境・共生ネットワーク」の理事でいらっしゃいます。おかげで岩手県は、沖縄県に次ぐEMの一大拠点となっております)。

議員というものは行政に対し、住民達の代表としてその施策を行わせる権限を持っています。それ故、議員らが怪しい言説に染まってしまう事ほどやっかいで危険な事はありません。
それに議員が一度そのような活動に身を投じてしまうと、今度は「票」というものが存在しますから、そこから中々抜け出す事が出来なくなってしまいます。そして住民達からの要求をどんどん議会に要求するようになり、結果、活動がどんどんエスカレートするという事になってしまうのです。
そうならないためにも、議員さんには幅広い視点を持ってもらいたいと願うだけではなく、住民側からも積極的に、議員さんに正確な情報を与えるという行動が重要であると私は考えるのです。

鈴鹿市のEM推進派の議員さんはこう仰いました。
 【「なぜ,そうなるのか」ということをもっと深く追求をしてほしいものです。】
この言葉はそっくりそのままご本人にお返ししたいと思います。

(2)へ続く