杜の里から

日々のつれづれあれやこれ

【考察】EMに関するよくある誤解(4)(放射能編)~後編~

前回はちょっと長めになってしまいましたのでエントリーを分けましたが、結局今回もまたずいぶん長くなってしまいました(と言うより、こっちの方が長いです…)。
どうぞめげずに、最後までお付き合い下さい。


〔まとめと考察〕

原発事故後、福島県では各地で除染作業が行われ、また同時に様々な除染方法の実証試験(→参考PDF)が行われています。
この「除染」という作業は大まかに言うと放射性物質の回収」であり、とどのつまり実際は「移染」という作業である訳です。
現在の科学では放射線を分解したり消したりする事は出来ず、結局我々に出来るのは、環境中にばら撒かれた放射性物質を回収してそこを綺麗にする他に手はないのです。
現在各所で土壌の剥ぎ取りや洗浄作業などが行われてその効果が報告されておりますが、それが山林や田畑の部分になるとそうは中々簡単にはいかず、そこに微生物による除染という方法が入り込む環境が出来上がりました。

EMサイドでは相変わらず比嘉さんが声高らかに、EMによって放射線量が下がったと主張しています(→こちら)。
しかしやってる事はただEMを散布しているばかりで、ここでは「回収作業」が行われている気配はありません。
それでも放射線量が下がったというのはどういう事でしょうか?
そこには水による遮蔽とか放射線の測定の仕方など様々な疑問はありますが、もし比嘉さんの言う事がすべて事実だとすると、ここでは「土壌拡散」というものの可能性も視野に入れなければならないと思われます。
(尚これより先は、あくまで比嘉さんの言説を前提とした、私個人の「妄言」である事を予め断っておきます。)
EMには光合成細菌が含まれ、比嘉さんはこれこそEM効果の源として様々な独自理論を唱えています。
しかしもしそうだとするならば、光合成細菌はセシウムを取り込みやすい性質を持っていますから、汚染環境にEMを散布すると、まずは光合成細菌がその体内にセシウムを取り込むという事になるはずです。
それはつまり、EMが被曝するという事を意味します。
そして被曝したEMはそのまま土中深く潜り込み、その結果土壌表面の放射線量は低くなるという理屈も成り立ちます。
しかしそれだけで済むなら良いのですが、セシウム自体は消滅した訳でも何でもなくただ移動したに過ぎませんから、そのままではセシウムは土中のどこかにずっとあり続ける訳です。
弱肉強食というのは自然界の掟ですが、それは微生物の世界でも同様で、実際は微生物の間でもいわゆる「食い合い」というものが行われています。
もし被爆した微生物がより強力な微生物や、更にそれを取り込む微小生物のエサとなった場合はどうなるのでしょうか。
ここで起こるのが被爆食物連鎖であり、次に起こるのが放射性物質「生物濃縮」及び「自然界への拡散」です。
最悪の場合、この拡散はやがては地下水に流入したり、周辺に新たなホットスポットを生み出す可能性もある訳です。
海に流れ込んだ放射性物質は、その広大な体積のおかげで人体には影響のない所まで薄まる事ができますが、狭い国土上のもっと狭い一地域の土中での拡散は、果たしていかがなものでしょうか。

勿論こういった懸念は、比嘉さんの仰る事が正しいと言う前提での、あくまで私個人が考えただけの仮定の話ではありますが、しかしあのEM散布状況を見るにつけ、こんな事は絶対に起きないと断言する自信は私にはありません。
事実こちらの会社では、資材投入後に土中への拡散状況もちゃんと計測しており、実際に自然拡散の事を考慮している所もあるのです。

また、東京農工大学が『福島農業復興支援プロジェクト』(→こちら)という研究を行っていますが、その中で注目すべき興味深い研究があります。
それは土壌中のセシウム回収方法で、以前行われて結果が芳しくなかった「ヒマワリ除染」を再考し、それを一歩進めて、微生物資材の利用で植物中により多くセシウムを吸着させ、それを回収しようとするものです(→こちら)。
以前EMと放射能の研究の中で、ある濃度のEM散布により、植物中により多くのセシウムが吸収されるという報告がありました。
それは「EMフェスタ97」での発表ですが、そこでベラルーシ科学アカデミー放射線生物学研究所所長のエフゲニー・コノプルヤ氏は以下の様に述べています。
(以下引用 ↓)
 >EM-1を土壌にまくことは、Cs(セシウム)137の植物への移行を促進します。
  そのさいに、小分量のEM-1を土壌に入れたときに、最大の効果があげられました。

(↑ 引用終わり)
東京農工大の研究を見て思わずこの時の事を思い出してしまいましたが、それまでのEM除染とは真逆の成果を期待しているという事は、大変興味深いものと言えます。

ただ、この研究の中でも触れられていますが、ベラルーシと日本とでは土壌の形態も違い、またそこに含まれるセシウムの区分も明らかではありません。
微生物資材散布による除染方法の最大の問題点は、元々の土壌条件が違う所で、他でうまくいったからといってそれがそのままそこに当てはまる訳ではないという事と、散布後に何が起こるか本当の所は誰にも分からないという不確かさにあるのです。

この事からも、微生物資材を用いての除染というものは、あくまで「放射性物質の回収」という立場で行うのが正解であると言えますが、ただそのためのゼオライトカリウムの過剰な散布というのは、やはり土作りの観点からも農家の方にとっては不安の大きいものでもある訳です。
中には独自の微生物資材を用いて、自主的に回収作業を行っている農家の方もいらっしゃいますが(→こちら)、この方の方向性こそが、微生物資材による除染の正しいあり方であると私は思います。

放射性物質の回収にあたって微生物資材を利用するという動きは他にもあり、中でも広島国際学院大学佐々木健教授の、光合成細菌によるセシウム回収技術などがよく知られています(→こちら)。
この研究でのキモは、カリウムを吸収しやすい光合成細菌の性質を利用し、カリウムと構造が似ているセシウムを代わりに吸着させ(つまりわざと微生物を被爆させ)、それをまとめて回収するという所にあります。
佐々木健教授のこの方法は、平成24年文部科学省「国家課題対応型研究開発推進事業、原子力基礎基盤戦略研究イニシアチブ」にも採択されており、今後の展開が期待されるものです。

原発事故以降、様々な除染方法が検討され、その中で自然環境への影響から微生物による除染技術にも脚光が当たる様になりました。
しかしそれに伴い、不安につけ込んで放射能が消えるなどと称して自社製品を売り込む怪しげな業者の数も増える事となり、それがまた問題視されてもいます。
今年の5月には、新聞にこんな記事も掲載されました。
読売新聞より
「微生物・パウダー…「怪しい」除染技術売り込み」
(←クリックで拡大)

記事にもあるように、大抵は試験の結果不採用となったものが多く、実際は効果なしというのが大半の様です。
微生物資材による除染作業は、確かな科学的根拠に準じた方法を科学的思考で行っていくべきで、怪しげな宣伝やあやふやな口情報に頼るばかりでは、無駄な時間と資金を費やすばかりとなるのは目に見えて明らかです。

原発事故以降、手軽に行えて効果のある除染という事で、福島県内の各所でEM供給基地が誕生し、またFM番組などで盛んに宣伝活動が行われています。
しかし、実際にEM除染を行っている所は果たしてどれぐらいあるのでしょうか?
EM関連のサイトを見ても紹介されるのはいつも同じ所ばかりで、それが広範囲で行われているという印象はあまりありません(紹介されているのはせいぜい5~6箇所ぐらい)。
それにそもそも、EMが放射線の低減に効果があるかどうかは、汚染された現地の土を容器に入れ、そこにEMを散布するという小規模な実験(勿論比較のために他の資材も使用する事は言うまでもありません)をすれば明らかなのにそれも行わず、ただでさえ他の要因が複雑に入り組む自然環境中に、直接投入してしまう意味が私には分かりません。
そして見かけ上は放射線量が下がったというデータを持って、除染とはまるで関係のない福島県以外の地で、それをEMの成果として披露するという宣伝のやり方は、まさに震災につけ込んで信者を増やそうとするカルト宗教の手口を私に思い起こさせるのです。

先に紹介した佐々木健教授も、自身のサイトの中で敢えてこの様に述べている事が、私にはとても印象的に感じたのです。↓
(「(2) 光合成細菌による放射性セシウムストロンチウムの除去、回収」より)


光合成細菌混合と言っているEM菌は、通常販売されている製品からは、光合成細菌は検出されないので[我々の研究]、放射能除去活性があるとは考えられない。科学的データでも添付があれば別であるが、対照実験のない非科学的データは受け入れられないのが常識である。雨に流され放射能が低下しているだけの場合も経験している。

(終わり)


(追記)

佐々木健教授は2018年5月27日にお亡くなりになりました。謹んでご冥福をお祈り申し上げます。

そのためリンク先や引用の文言など多少変更しています。

(参考資料)
・日本水環境学会より『生物物理化学的放射能除染等の新技術開発と評価』(PDF)
・Space Agricultureより『福島・放射能対策への宇宙農業からの提案』
・「農業ビジネス」より『「放射能汚染の土壌科学」シンポジウム、農水省マニュアルから自然凍土除染法、建設土木技術まで最新研究一挙採録』
除染情報com