杜の里から

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日本脱カルト教会「被災地をねらうカルト!?」の公開講座を聞く

9月14日(土)、日本脱カルト協会主催で、「被災地をねらうカルト!? -大学やコミュニティでとるべき対策とは-」と題する公開講座がありました。
この案内ポスターによりますと、
公開講座の趣旨
2011年3月に起きた東日本大震災福島第一原子力発電所事故は、未曽有の被害を巻き起こし、人々の間に地震津波等の天災や放射能への恐怖を深く植え付け、社会不安を巻き起こしました。幸い生き残った人々の多くも心に傷を抱え、その上、生活の基盤やこれまで生活してきたコミュニティ(共同体)や人間の絆を一方的に奪われ、孤立した状態に置かれている方もいらっしゃいます。
そのような中、人々の社会に対する不安や孤独感につけ込み、多くのカルト的な団体が被災地や大学などにおいて、新たな信者や資金の獲得をしようと暗躍しているという憂うべき実情があります。
公開講座は、「被災地とカルト」というこれまで余り論じてこられなかったテーマに正面から取り組み、カルト問題の理解を深め予防と対策を考えるため、カルト的な団体による手口の紹介から、大学やコミュニティにおいて講じるべき対策まで、講演や全体討議を通し、参加者の皆様共々、考え、学ぶきっかけを作ることを目的とするものです。
とあります。
講師は「FOOCOM.NET」でお馴染みの松永和紀さん、宮城学院教授の新免貢さん、「やや日刊カルト新聞主筆藤倉善郎さん、宗教ジャーナリスト・フォトジャーナリストの藤田庄市さんという豪華な顔ぶれ、しかも地元の仙台市で開催という事で、当然のごとく参加してまいりました。
今回はそのレポートをお送りいたします。

公開講座が行われた場所は、仙台市内街中の「日本キリスト教団青葉荘教会」、初めて訪れましたが、その教会は街中と言えど閑静な住宅地の中に、凛とした構えで建っていました。
  
会場に到着すると、そこにはオウム事件でご存知の滝本太郎弁護士や、悪徳商法でお馴染みの紀藤正樹弁護士の姿もありました。紀藤さんはいつもテレビで見るのとは大違いの、Tシャツ・短パンというラフな格好です。
会場内は老若男女約100人ほど、直前での開催日発表だったにしては、思ったよりは集まったのではないでしょうか。
(尚、会場内は録音・撮影は禁止でしたので、以下写真はありません)
司会の竹迫之牧師により、あいにく当日参加出来なかった元理事の浅見定雄さんからの講座開催に寄せるメッセージが読まれた後、いよいよ講演が始まります。

最初の講演者は宗教ジャーナリストの藤田庄市さんです。
被災地はカルトの繁殖土壌であるとし、震災そのものを「天罰論」と結び付け、その救いの先を自らの宗教へと導くやり方を断罪します。
取り上げたのはエホバの証人顕正会、推薦本として以下の本を紹介されました。
 『ドアの向こうのカルト
 『昼寝するぶた』(絶版、サイトはこちら
これらの宗教に共通するのは、終末論を用いた「信仰的脅迫」による精神の『呪縛』というもので、震災というリアルな体験が「神の怒り」とか「自然からの警告」といった超自然的な存在を意識させ、信仰への強制を行うという事です。
この様なものに対し藤田氏は、
「人の心を呪縛するものは、精神の自由への侵害である」
とし、故にカルト宗教は憲法違反であると断罪します。


2人目の講師は松永和紀さん。
本来は食品に関する情報を発信している立場から、今回のカルト講座での講演には初め違和感を持っていたとの事でしたが、今回の災害は自然災害だけに留まらず「情報災害」でもあり、それにどう立ち向かうかがカルト問題を底辺部から防ぐ一助になるとの認識となり、今回の講演となったそうです。
講演で使用するスライド資料は予め配布されていたのですが、

実際の講演では発表順番を変更し、まず被災地で問題となっているニセ科学の分かりやすい事例として、何と「EM」の紹介から始まりました(やった!)。
  
そして放射能の不安から、安全情報ばかりに飛びついてかえってリスクを上げてしまう危険性などを紹介し、そこからリスクの捉え方、付き合い方などが語られます。
  
そして震災以降の現代社会をこう表現します。
  
このおさまりがつかなくなった感情をどうコントロールするか、それには正しい情報と向き合い、それを自分の中で消化して現実を捕らえる他はないという事を、松永さんは自らの辛い体験を例に挙げて訴えます(でもそれは、中々難しい事でもあると言われましたが)。
講演の最後に紹介したスライドは、ニセ科学問題を扱う人には毎度お馴染みのものですが、この「ニセ科学」の部分を「カルト」と入れ替えてもそのまま通用する所に、カルトの入り口には「ニセ科学」が存在し、その背景は同じである事が良く分かります。
  


3番目の講師は「やや日刊カルト新聞」を主筆している藤倉善郎さん、藤倉さんはPC画面を駆使しての講演です。
今回の震災で、様々な教団が被災地支援の名乗りを上げましたが、でも実際それは、震災を利用した布教活動以外の何ものでもなかったと、様々な教団の実例を紹介しながらメッタ斬りしていきます。
(メッタ斬られた団体)
 幸福の科学
 ・統一教会(UPeace)
 ・サイエントロジー
 ・浄土真宗親鸞会
 ・摂理
 ・顕正会
 ・ヨハン早稲田教会(ヨハン教会連合)

(それぞれにリンク貼ろうとしましたが止めました。)
講演後半は「幸福の科学」が信者に向けて流したビデオの紹介、何でも天照大神を召喚し、彼が大川隆法の口を借りて語るという内容で、初めは笑って見てましたが、進むうちに段々腹が立ってくる自分に気付きます。
そして被災地におけるカルト団体については、被災地での支援活動はまあ良いとするが、被災地での布教活動は大いに問題があると訴えます。
それは、反社会的な団体が震災を布教の足がかりにしており、被災地における活動の資金が、反社会的活動による収益から出ているという点です。
最後に藤倉さんは、この画面を紹介して彼らをばっさりと断罪します。

  いいことをしても
  しょせん
  カルトはカルト



最後の講師は地元宮城学院女子大学教授の新免貢さん、これまでご自身がなされてきた、学生を狙い撃ちにするカルト教団との闘いの日々を、怒りを込めて熱く語られました。
例えば、市民向け講座のメンバーとして接近してくる事例、主催者名を明らかにしないまま開催されるゴスペルコンサートの事例など、学内警備の隙を突いて執拗に潜入してくるカルトの手口が紹介されます。
今回の震災に関しては、今度は「ボランティア」の名目で被災地に取り入ろうとする動きも見られ、例えば仮設住宅で開催されるイベントの中には霊感商法で有名な団体の姿も垣間見られ、知らず知らずのうちに信者に勧誘される危険を訴え、そしてこれは単にカルト団体だけではなく、ボランティアを指導する行政側の方にも問題がある事を指摘します。
つまり現状、被災地ではただ指示された事だけを行う言わば官製的ボランティアを作りあげてしまい、臨機応変に振舞う機会が与えられない中で被災者にも情報は行き渡らず、そこにカルトの温床が出来上がる危険性を唱えます。
新免さんの批判の矛先は既存の宗教にも及び、活発なカルトの動きとはうらはらに既存の宗教は何を成してきたか厳しく糾弾し、キリスト教が抱えるカルトと同様の収奪システムの矛盾を付きます。
それは震災を契機に活発化するカルト団体に対し、まるで無視を決め込む様な既存宗教のふがいなさに対する、心からの苛立ちと怒りの叫びでした。

講演後の質疑応答では、〔カルトと既存宗教の違い〕が質問として挙がりましたが、
(藤田) 「そもそもカルトの精神は根本が「呪縛」であり、それは心理的脅迫。」
(新免) 「既製宗教=正、カルト=誤という単純な構造でもない。既製宗教でもカルト的一面はある。
      はっきり分けるのは原理的に難しい。」
(藤田) 「宗教は元々白黒付くものではなく灰色(グレー)である。」
というやりとりがあり、次に問われた〔擬似科学とカルト問題の共通点〕という質問では、
(松永) 「科学にも不確実性(グレー)があり、そのグレー部分を白であると言ってきて原発事故が起こった。
      これからはグレーであるという事を見せようとするのが重要。」
と解説されました。

震災を経験して確実に言えるのは、我々の住む世界は常に「不確実性」に溢れていて、そこでは「完全」とか「絶対」と言える価値観は、実はすでにずっと前から崩壊していたという概念が、冷徹な現実の姿として目の前に突きつけられてしまったという事です。
そしてこの不確実な世界に漂う「漠たる不安感」の中にあって、人々はそこに心の安らぎ「安心」を求めるし、それは「自己防衛本能」でもあります。
この「漠たる不安」を払拭するには、何よりも正確な情報を得る事が一番なのですが、情報から閉ざされてしまった人は、やがて「漠たる不安」にどんどん押しつぶされていきます。
やがてそういう人は、「安全」か「危険」か、「0」か「100」かという極端な二者択一の「確実性」を求める様になり、ここにニセ科学やカルトの付け入る土壌が出来上がるのです。
いやもうすでに、現状では十二分過ぎるほど出来上がってしまったと言えるのかもしれません。

ではそんな中で我々は何をなすべきなのか?
それこそまさに、グレーはグレーであるという事、ただし、白に近いグレーもあれば真っ黒にしか見えないグレーもあるという、本当のグレーの色を伝えていく様努力するしかないのでしょう。
そのためにも情報発信のレイヤーを増やす事が重要で、個人が様々なツールを使って情報発信する重要性を松永さんと藤田さんは訴えられました。
今回の震災では、改めてネットの力が(良しにつけ悪しきにつけ)再認識される事となりました。
藤倉さんはもっとネットの力と有効性を認識すべきと仰いましたが、それは自分も同感です。
今回の講座内容も、その場だけの閉ざされた空間だけで終わらせるべきではなく、出来れば松永和紀さんのあのスライドも、広く公開してもらいたいと切に願うものです。

カルトとニセ科学は、一見離れている様で実は極めて近い関係にあります。
それはどちらも人の弱い心の奥に入り込み、やがていつの間にか精神を支配し、それが善い事(良い物)であると信じ込ませ、結果その団体上部だけが利益を得るという共通した構図を持っている事です。
自分らだけが利益を得るために、震災や被災地をダシに使う行為は、決して許される事ではないのです。



(講師の方の著作など)
藤田庄市:「宗教事件の内側」
松永和紀:「もうダマされないための「科学」講義
藤倉善郎:「「カルト宗教」取材したらこうだった
新免 貢:『死の講座』より「第18回目 「震災における死」」




幸福の科学」の信者洗脳ビデオがこんな所に…(^^;)。