杜の里から

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「被曝の森」再び~BS1版はどう変わったか?(プロローグ)

2016年3月6日、NHKスペシャル(以下「Nスペ」)で「被曝の森」というドキュメンタリーが放送されましたが、その描き方のあまりのひどさに、ネット上では多くのブーイングが湧き上がりました(私もその一人です)。
あれから2ヶ月後の5月1日、今度はBS1で、タイトルも新たに原発事故5年目の記録 前編・後編」 として、あの「被曝の森」が帰ってきました。

BS1の震災関連のドキュメンタリー番組は、地デジ放送と同じ映像ソースを用いて新たに再編集したものが多くあり、近くでは3月13日にNスペで放送された『原発メルトダウン 危機の88時間』が、3月28日にBS1で『実録福島第一原発 88時間』として放送されています。
映像ソースは両者とも同一のものを用いていますが、採用する映像やナレーションなど編集の仕方は違っていて、ために出来上がった番組のニュアンスも微妙に異なったものとなっています。

「被曝の森」はNスペ版では実質58分の放映時間でしたが、今回の番組はBS1スペシャルとして放送時間も延長されて1時間40分となり、内容も前・後編に二分され、前編は「被曝の森」として放射能汚染環境下での生物への影響について、後編は「無人の町はいま」 として、里山を侵略する獣達による被害報告となっています。
前回のNスペ版ではこの両者の内容が交互に語られていて、ために放射能影響と獣害がごっちゃになって混乱する様な内容でしたが、今回はこうして分けた事で大分すっきりした形になりました。
ナレーションも前回の伊勢谷友介からNHK礒野祐子アナに代わり、断定口調の硬い感じから「ですます調」となり、全体的にソフトな印象となりました。

特筆すべきは番組冒頭のプロローグ部分で、今回はあの流れる様な空撮映像の撮影シーンから始まり、この空撮映像を撮影した矢野健夫さん自身も登場し、彼自身が語る言葉までも紹介されています。
これによりこの番組が、ドラマ性よりもドキュメント性を全面に押し出していくという姿勢が直接的に伝わる形となっていました。


飛行撮影家の 矢野健夫さん。
去年10月、誰も経験した事のない撮影に挑みました。
モーターパラグライダーにより、原発事故の影響で全町民が避難している地域に向かいます。

(福島 浪江町空撮映像)
見えてきたのは小学校、5年前のあの日以来、子どもたちの声は聞こえません。
人の営みが途絶え、まるで時間が止まったかのような里山
(音楽 瀬川英史
さらに進むと森が広がっています。
秋を向かえ、木々は色づいていました。
ここが、今なお放射性物質で汚染されている「被曝の森」です。

矢野 「本当にきれいな紅葉があり
    何か不思議な海の底にいるような感じもあり
    えっ これ何? そんなに危険なの?って。
    きれいさって そういう、ものすごい痛みも持っている」
これ以降はNスペ版同様のナレーションが語られますが、前回とは明らかに違っている箇所も出てきます(前回記事はこちら)。
汚染された森で、毎時100マイクロシーベルト以上あるホットスポットを発見。特殊なカメラで赤く映し出されました。
森で暮らす生き物達に、放射線の影響は出ているのでしょうか。
放射線に反応する特殊なフィルムで生物を撮影すると、汚染を示す黒い影が浮かび上がりました。

科学的な研究の手がかりとなるのは、史上最悪の原発事故が起きたチェルノブイリ
福島の汚染地帯と比較しながら、世界中の科学者が生物への影響を調べています。
次のシーンに登場するロシアの科学者が今回は変更されていました。
この部分は前回は、
    (Nスペ)
    「福島ではチェルノブイリと同じ現象が見られる
     福島での調査は始まったばかり」


    

という場面が登場し、その後のナレーションは、
原発事故によって生まれた東京23区の1.5倍に及ぶ広大な無人地帯。
住民7万人が今も避難を強いられている。
あの日以来、突然人がいなくなった町。
そして、放射性物質で汚染された森で、今何が起きているのか。
原発事故から5年目の記録だ。
となっていました(強調は引用者による)。
チェルノブイリと同じ現象」
「今何が起きているのか」
と、いかにも不安を掻き立てるような語りとなっていましたが、今回は別の科学者が登場し、その後のナレーションもシンプルな形に置き換わっていました。
研究者 (字幕・吹き替え)「低線量被曝の本当のリスクを知るためには
    基礎的な研究を続けていくことが重要(なのです)」



私達は放射性物質で汚染された森を、長期にわたって取材しました。
原発事故から5年目の記録、前編は「被曝の森」の放射能汚染を追います。




タイトルまでのプロローグの内容、長さとも前回とは大きく異なっていて、ここだけ見ても、番組内容はNスペ版とは大きく変わるという予感を抱かせるものとなっていました。
今回は主に前編の「被曝の森」について、Nスペ版とどう違うのか、どこが変わったのかを検証していきたいと思います。
本編へ続く)