杜の里から

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EMへの疑問(15)~活性液はどれぐらい汚いの?~

環境学習を行っている先生方へ】

現在日本各地の学校で、身近な自然に目を向けた環境学習が行われています。
中には地元の環境団体と学校とが連携したり、或いは行政の協力も得たりして、様々な河川浄化活動なども行われています。

その活動が行われる上で、自分達の身近にある川が「きれいな川」なのか「きたない川」なのか、その汚濁度を計る尺度として一般的にCOD(化学的酸素要求量)とかBOD(生物化学的酸素要求量)という水質検査の値が採用されています。

〔「きれいな水」、「きたない水」と水質指標〕(PDF)より


またこちらの資料(PDF)では、低学年用により分かりやすい説明がなされています。


高度経済成長期の頃は河川を汚す一番の原因は工場排水でしたが、それは厳しい排出基準によって大分改善され、代わりに現在では、生活雑排水が汚染原因として大きなウェートを占めているのが問題となっています。
この事はどこの自治体の環境部局からも指摘されていて、例えば佐賀県多久市では、水質汚濁は生活排水が主な原因と断言しており、また愛知県でも、「生活排水が汚れの大きな原因となっています。 」とはっきりと述べています。

多久市HPより)   

どちらの自治体も、身近な食品を生活排水の一例として挙げ、そのBOD値も示しています。
どの食品も人間にとっては有用なものですが、それをそのまま流してしまえばそれらは川にとって立派な汚濁源となってしまうのが分かります。
つまり川から見たら、それらは皆「汚ないもの」なのです。
ですから環境学習の中でCODなどの検査を行う時は、生徒達に川の立場から見て「この食品はどれぐらい汚ないのか?」という思いを抱かせる事で、BODやCODの値の意味をより理解出来る様になると思います。

環境学習を行っている小中学校の中で、微生物資材のEMから作った「EM活性液」を直接河川に投入するという活動を見かける事があります。
それは大抵の場合、浄化活動をしている地域の人が講師として招かれ、活性液の作り方やその効果などを説明し、そうして出来上がった活性液を何の疑問も持たずに近所の河川に投入したりしています。

ではこの活性液は、どのようにして作られるのでしょうか。
EM研究機構の〔資料ダウンロード〕(PDF)の4ページ目に活性液の作り方がこう紹介されています。
【EM活性液編 増やし方シリーズその2】より
[用意するもの]
 ・〔EM・1 200ml〕+〔糖蜜 200ml〕+〔水 9.6L〕+〔ポリタンク10Lサイズ〕
[作り方]
糖蜜200mlを水でよく溶かし、後はこれら材料を容器に入れてよく混ぜて暖かい場所に置き、夏なら一週間、冬ならば10日~2週間ほどで酸っぱい発酵臭(pH3.5以下ぐらい)がしたら完成。
という、極めて簡単なものです。
しかしこれがEM研究所のページ(→こちら)では、
 ・〔EM・1 1L〕+〔糖蜜 1L〕+〔水 8L〕 (計10L)
とされており、EM情報室のサイト(→こちら)にも作り方が載ってましたが、ここも同じ様に
 ・〔EM1またはEMW 1L〕+〔糖蜜 1L〕+〔水 8L
でした。
本家のEM研究機構では、EM・1と糖蜜と水の割合は
 0.2L+0.2L+9.6L 
で、EMと糖蜜は総量に対して48倍希釈となっています。
しかし、EM研究所とEM情報室の作り方ではそれが
 1L+1L+8L →(8倍希釈
となっており、本家よりも6倍も濃い割合となっています。
これを見るだけでもEM活性液の作り方はかなりアバウトなものだという事が分かりますが、ではこうして出来た活性液のBODやCODは一体どれぐらいなのでしょうか。
あいにくEM自体の組成は公開されていないので詳細は分からないのですが、同量加える糖蜜については詳しい研究資料があり、その値も分かっています。

活性液を作る時に加える糖蜜とは、サトウキビから砂糖を作る過程で排出される糖を含んだ液体で廃糖蜜とも呼ばれ、近年ではバイオエタノールを精製する時に大量に排出される廃液でもあり、それは極めて高いBOD値を示しています。
もちろん工場ではそれをそのまま廃棄する事などは出来ず、そのため企業では、この廃液(廃糖蜜)を有効利用すべく盛んに研究が行われています(→こちら)。
この中で糖蜜の成分が明らかにされていますが、(→PDF)ここでは糖蜜のBODは40,000~50,000mg/LCODは約62,000~170,000mg/Lという高い値を出しています。


また、バイオエタノール事業が軌道に乗っているタイでも同様の問題が起きています。
研究資料〔タイのバイオエタノール導入〕(PDF)の中でも糖蜜は、
(P.16「2.1.6 バイオ肥料工場」より)
「BOD値(生物的酸素要求量)が 45,000ml/LCOD値(化学的酸素要求量)が100,000ml/Lと汚染度が高く、また酸性が強いため(pH4)、何らかの処理をほどこさなければならない。」
と記されています。

北海道大学の研究(PDF)でも、

BOD 58,000mg/l
COD 170,000mg/l

と、極めて高い値を示しています。

これら資料での値を平均しますと、糖蜜のBODは約50,000mg/LCODは約130,000mg/Lほどとなります。
活性液10L中にはEM・1、糖蜜をそれぞれ1Lずつ使用しますから、材料の時点で初めから10Lの活性液中には「50,000mg/L+EM・1分のBOD値」が含まれる事になります。
それを一週間ほど発酵(多分アルコール発酵と同様?)させて活性液の完成となる訳ですが、では出来上がった活性液は一体どれぐらいのBOD・COD値となっているのでしょうか。
果たして河川の環境基準である、10mg/L以下なのでしょうか。


和歌山県環境学習プログラムの中に、「みそ汁のCOD(化学的酸素要求量)を調べるには」という実践授業の例(PDF)があります。
これを参考に、EM授業を行っている学校では食品だけではなく出来上がった活性液でもCODの検査を行い、他の食品と比べてそれがどれぐらい汚れているのかを、ぜひ確認してほしいと思います。
また活性液の作り方を教える講師の方にも、そのBODやCODはどの位なのか、生徒さんはしっかりと聞いて下さい。
講師の方は皆長く環境浄化活動を行っている人達ですから、きっときちんと答えられるはずですし、教えてもらった数値と出来上がった活性液の数値を比較する事で、それがうまく出来たか失敗したかを確かめる事も出来るはずです。




何よりも、そういう確認作業こそが、環境浄化活動の大切な基本なのですから。


(参考資料)
・〔「きれいな水」、「きたない水」と水質指標〕(PDF
・〔パックテストとは?〕(→こちら
・〔わかやま環境学習プログラム-中学校指導者用-〕(→こちら
・togetterより『署名活動「小中学校におけるEMの利用を止めてほしい」のご紹介』
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