杜の里から

日々のつれづれあれやこれ

放出したらどうする!

7月4日、IAEAのグロッシ事務局長が来日して放出処理水の安全性についての報告書を提出し、その内容は「計画は国際的な安全基準に合致」し、人や環境への影響は「無視できるほど」というものでした。

もっとも、今現在世界中でトリチウムは放出されており、震災前には国内でも85兆ベクレルのトリチウムが排出されていて、それでもこれまで健康被害などの報告はなかったので、まあ予想通りの内容であったという思いです。

(出典はこちら、図面右下に注目、1兆ベクレル≒約0.019g

 

福島原発からの年間放出量もわずか2.2兆ベクレル(≒0.04g)ほどで今回の処理水放出量もそれを限度としているし、IAEAの報告書により科学的にも安全である事が改めて証明された訳ですが、それでも依然「風評」に対する不安が拭えず、国内ではあちこちで反対の声が上がっているのが現状です。

2015年、政府は「関係者の理解なしには、いかなる処分もしない」と漁業者達と約束し、岸田首相も今年の3月11日の東日本大震災追悼式典で、
経済産業省から福島県漁連に対して回答した「関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない」との方針、これは遵守いたします。」
と改めて述べています(→こちら)。
そしてその理解醸成の一環として行っていたのが、今回の2年間に及ぶIAEAによる科学的検証だった訳です。

これにより安全性への懸念はない事は証明されましたが、漁業者達の一番の不安はそれを理解せぬ消費者によって生み出される「風評」にある訳です。
つまり「風評問題」に関する一番の関係者は消費者である我々国民なのですから、これから政府は国民に向け、処理水放出への理解を積極的に語ってくれる事が重要となります。


そんな中、こんな記事を目にしました。

東京新聞WEBより」(以下引用、赤強調は引用者によります)

反対署名25万4000人 処理水放出に「科学的に安全でも風評被害が出る」 東北地方の生協など集める
2023年7月7日 20時11分 

  東京電力福島第一原発の処理水の海洋放出設備の準備が整った7日、市民らが放出への抗議行動を展開した。東北地方の生活協同組合などは放出に反対する約3万3000人分の署名を政府と東電に提出。原水爆禁止日本国民会議原水禁)など3団体が東京都内で記者会見し、強引な姿勢を批判した。


 「理解が進まない中で放出すれば、科学的には安全であっても風評被害などの大きな影響が出る」生活協同組合コープあいづ(福島県喜多方市)の吉川毅一理事長は東京都千代田区の東電本店を訪れ、対応した同社幹部に厳しい表情で懸念を示した上で、署名目録を手渡した。海洋放出ではなく、別の方法で処理水を処分することを求めた。


 署名は、福島、宮城、岩手の3県の生協連合会や宮城県漁連が募り、提出済みを含めて計25万4000人分が集まった。 

 

「『関係者の理解』反故にすることは許されない」

 

 原水禁NPO法人原子力資料情報室、福島県平和フォーラムは都内の会見で、海洋放出反対を訴えるホームページを海の日の17日に開設すると発表。原水禁の谷雅志事務局長は「関係者の理解なしに海洋放出しないとする約束を反故にすることは許されない」と強調した。


 政府や東電がどのようにして理解を得たと判断するのかを明らかにしないまま、「丁寧に説明する」と繰り返す現状についても「同じ説明を繰り返すのではなく、関係者が納得するまで説明を続けるべきだ」と指摘した。(小野沢健太)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/261631

記事中では生協の理事の方が

「理解が進まない中で放出すれば、科学的には安全であっても風評被害などの大きな影響が出る」

と懸念を示したとありますが、でもよくよく考えてみると漁業者が風評を恐れて反対するのは分かりますが、消費者側から風評を懸念して反対というのが僕にはよく分からないでいます。

再度言いますが、風評を起こす側は生産者ではなく消費者です。

風評を恐れる漁業者達を支援するなら、本来我々消費者側が風評を起こさぬ様にすれば済む話で、科学的に安全であると証明されたならばこれ以降はこちら側の問題として捉え、いかにすれば風評が防げるのかは我々消費者自身が考えるべきものだと僕は思っています。

 

風評のせいで消費者が買い控えする事となれば、それは漁業者だけではなく販売する側も被害を被る訳で、だからこそ消費者と直接接する売り手側の姿勢がここで大きく問われる訳です。
安全なものならば、それを消費者に積極的にアピールして販売促進に繋げる販売戦略もあって良く、消費者の誤解と不安を取り除こうとする売り手の熱意こそが風評の払しょくに一番効果があると思うし、この売り手側の姿勢が漁業者達を救う鍵になると思うのです。

 

ここで気になるのが、反対署名を提出した生活協同組合(以下「生協」と称す)です。
先の記事では

「海洋放出ではなく、別の方法で処理水を処分することを求めた。」

とありました。
しかし海洋放出はもう止められない所まで来ているし、やがて粛々と放出は始まる事でしょう。

その時生協はどう対処するつもりなのでしょうか?

 

放出反対署名をした被災三県からの魚の仕入れは断ち切ってしまうのでしょうか?
でもそうすると自ら漁業者たちを見捨てる事になる訳ですが、漁業者は補償も貰えるし政府を批判するならそれでも良しとするのでしょうか?
そして生協自体が風評の発信源として存在していくのでしょうか?
それとも政府の方針を理解したという姿勢で、風評の払しょくに励むのでしょうか?

 

実際に放出が始まったらどうするのか、風評を広げる側に付くのか払しょくする側に付くのか、漁業者を見捨てるのか救うのか、これから生協は難しい二者択一を選ばなくてはならないのですが、生協も署名した会員さん達も皆、これから先の事をどこまで本気で考えているのか僕にはよく分からないのです。

 

福島県の漁港では現在もスクリーニング検査を行っていて、特に福島漁協では国の基準値よりもはるかに厳しく、多分世界一厳しい25Bq/kgを自主基準としています。

だからこそ僕は、福島の魚は世界一安全であると思っているし、処理水放出後でもその思いは変わりません。

放出後でも今までと変わらず美味しくお魚を頂くつもりだし、漁業者が苦しんでるとするならば少しでも後押しするつもりで日々のメニューに魚を増やしたり、外食では肉よりもお魚メニューを選ぶつもりです。

 

そして販売する側もきっと、「応援セール」とか「お魚フェス」などのイベントを催したりして、これからも漁業者達を応援してくれるだろうと僕は信じています。