杜の里から

日々のつれづれあれやこれ

EMというもの(追記あり)

河北新報:2009年6月25日朝刊より)
 EM菌で汚れすっきり
 七ヶ浜向洋中 発酵液用いプール掃除
七ヶ浜町向洋中(生徒356人)で18日、恒例のEM菌発酵液を使ったプール掃除が行われた。
向洋中は5年前から、EM発酵液を利用したプール掃除を始めた。25㍍プールに5月19日、汚れが落ちやすくなるように200㍑の発酵液を散布した。
 ~(中略)~
町では小中計4校でEM菌を活用したプール清掃に取り組んでおり、掃除の手間が減ったほか、洗剤を使うより下水の汚れが減ったという。
*            *            *
この時期になると、各地でこういう記事が見られるようになります。プール掃除に関しては、それが閉鎖系の環境である事もあり、EMの効果は確かにあるように見えます。
しかしここで私が気にかけるのはこの効果の方ではなく、ニュースなどに登場する「EM」という単語の取り扱い方についてです。
「EM」とは実は、数ある微生物資材の中の一つの【製品の名称】であるのです。
つまり、このような報道がされればされるほど、特定メーカーの商品の宣伝活動をしているという事にマスコミは気づいていません。
そしてそれはまた、行政や関係機関にとっても同様です。

下の写真は、旅行の途中でたまたま見かけた看板です。↓

 

【EM堆肥】などと、別に言わなくてもいいような事を平気で載せています。
これが民間の販売業者ならばまあ理解もできます。しかしこれは、国土交通省管轄の一行政機関のものなのです。
果たしてこのような表記に問題はないのでしょうか? 同じ書くならば、「バイオ処理による堆肥」とでも書くべきではないのでしょうか?

例えば次のような事例を考えてみましょう。
EMと同様の複合微生物資材に「アーゼロン」というものがあります。EMは80種の微生物が共存していると言われますが、こちらは約90種の微生物が含まれており、土壌改良から環境浄化剤までと、まさにEMと同様或いはそれ以上の効果を謳っている製品です。
これを試しに、「EM」の部分と置き換えて言ってみるとこうなります。

 「アーゼロンで汚れすっきり」
 「アーゼロンを活用したプール掃除」
 「刈草を利用して、アーゼロンで堆肥を作っています」
 「アーゼロンで環境学習」
 「河川の浄化活動にアーゼロン大活躍」……

見事に特定商品の宣伝文句になってしまいますね。
ところが「EM」と言ってもなぜかこれほどには感じなくなってしまいます。つまり、元々「EM」という単語が「有用 (Effective)」と「微生物群(Microorganisms)」を組み合わせて作られた「有用微生物群」の略であり、それがさも「一般名詞」であるかのようなイメージを皆抱いてしまうから、何の違和感もなく使ってしまっているのです。

 「EM」というのは実に見事な名前です。その生みの親である比嘉照夫さんは、誠に絶妙な名を思いついたものだとほとほと感心してしまいます。
 「イーエム」と発音する事により、その語感から何となく「いいもの」という連想を呼び起こします。そして尚且つ覚えやすい。
また、EとM二文字だけというシンプルさから、その後ろに他の単語を結び付けても違和感なく自然に読む事ができます。
曰く、
「EMせっけん」、「EMだんご」、「EM農法」、「EMぼかし」、「EMクリーニング」etc…。
そのためそれが、つい「一般名詞」であるかのような錯覚に皆捕われてしまいます。
しかし実際は、「EM」とは「㈱EM研究所」及び「(有)サン興産業」で製造されている一製品の「固有名詞」であり、登録商標もしっかりなされているものなのです。
つまり、何気なく看板に「EM」の文字を書いたとしても、それはきっちり「EM」という【商品】の宣伝を行っているのと同じ事なのです。
そしてそのような意識もなく、行政機関や議員さん達が「EM」という単語を安易に使用しているという感じを私は抱いてしまいます。

本当にこれで良いのでしょうか?

学校や行政機関、或いは議員さんのHPなどで「EM」「EM」と連呼するというのは、実際は商品を宣伝しているのと同じ事で、これは特定企業への【利益誘導】にあたるのではないでしょうか?
このような事が、公平であるべき行政機関で行われていて良いのでしょうか?
或いはまた、議員さんがHPの中などで皆に薦めたりして、果たして大丈夫なのでしょうか?
私には思わずこんな疑問が沸いてくるのです。

国内では、微生物資材の種類は100種以上もあるとされており、各社が独自の技術開発と企業努力により、その効果はEMを超えるというものさえ作られています。
それなのに、公的機関や議員さん達が「EM」という具体的な【製品名】を採り上げるというのは、「公平性」の観点からも非常に問題があるのでは? と、つい考えさせられてしまうのです。

EM研究機構のHPを見ますと、そこには「EM」という言葉の概念として、
 1.微生物資材としてのEM
 2.EMを使用して作られた各種製品
 3.その他、EMを利用した資材
 4.EMを活用したEM技術
という、複数の意味で使われていると説明されており、ちゃんと「製品」である事が明記されています。

何の考えも持たず、ただ周りがそう言っているからと言うだけで具体的な製品名を連呼するのは、実は特定企業に肩入れしている事と同じであるという事を、公的機関の担当者や議員の方々はもっと自覚すべきだと思います。

(2010年7月23日追記)
本文中、「微生物資材の種類は【100種】以上」のリンク先が消えていました。
これは2010年4月に行われたサイトリニューアルによるもので、以前は平成16年版でしたが今年は平成19年版が記載されており、その中ではこの一覧表はカットされています。
尚、資料提供先は神奈川県HP、農業の項目中の「土づくりと施肥改善」の「土壌改良資材」です。
ちなみに、この資料中で紹介されている「全国土壌改良資材協議会」によりますと、現在発売されている微生物資材の数は約200種となっています。