杜の里から

日々のつれづれあれやこれ

こんなところにマイナスイオン(追記あり)

楽工社刊「おかしな科学」(渋谷研究所X+菊池誠)読了致しました。
この本については、T-3donさんが「みつどん曇天日記」で秀抜なレビューを述べられておりますので、ぜひそちらをご参照のほどを(はい手抜きですそうです私が悪うございましたあなたの言う事はすべて正しい!)。

で、この本に六さんなる人物が登場するのですが、いやこれ、自分じゃないかと思うほどかつての私に瓜二つであります。
特にしょっぱなの「マイナスイオン」なんかそのまんま。
あの頃(1999~2003年頃)は「マイナスイオンは体に良い」という触れ込みで、猫も杓子も「マイナスイオン」とばかり巷に製品が溢れており、実を言うと私もこの文言にはころっとダマされていた口だったのです。
しかし今では、家電品売り場に行ってもドライヤーぐらいにしか使われなくなってしまいました(ま、ドライヤーについては「体に良い」というのとは違いますけどね)。

で、これまでは前置きでありまして本題はここから。
これまでの「健康に良いマイナスイオン」というものはすっかりご無沙汰になってしまった昨今ですが、実は私、こういうものを手に入れてしまったのでございます。


 「マイナスイオンあぶらとり紙」


 どぉ~ん! ↓



(クリックで拡大)

これ去年、確か薬局の試供品か何かで貰ったものなんですが今までどっかに行方不明になっておりまして、最近ひょんな事から見つかったものであります。
しかしいや、何もあぶらとり紙にマイナスイオンなんてああた。ってどゆ事?
改めて裏面をマジマジと見てみて、思わずクラクラしてしまいました。

 どぉ~ん! ↓



マイナスイオン化溶液」ぃ~??? 何じゃそりゃ???
またこれの解説文も何ともはや。

マイナスイオンには〔爽快感を与えたり〕、〔心身をリラックスさせたり〕、〔細胞の老化を防ぐ効果がある〕【いわれています】
・吸脂力、肌触りはもちろんのこと、〔癒しを与えてくれる〕あぶらとり紙です。

いや~、久々に直球ストレートのビーンボールを喰らったかのようであります。
で、WEBサイトにもあるのかと思って探してみましたら……あった
箱のデザインは多少変わってはおりますが、包装紙といい説明といいこれに間違いなさそうです。
で、他にもあるのかいなと思って調べてみましたら、あったあった
特に最後の「マイナスイオン和紙あぶらとり紙」にいたっては、『和紙の中にトルマリン(イオン鉱石)と天然セラミックを漉き込んだお肌にやさしい美肌和紙』だそうでして、『マイナスイオンによる優れた美肌効果』、『マイナスイオン効果により、お肌がリラックスし、毛穴が開き老廃物を取り除きます。』ですと!

昨今は景品表示法などもうるさくなったせいか、一昔前は「健康」を全面に押し出していたものが、最近は「癒し」とか「リラックス」とかいう感覚に訴える言葉に変化し、業者の間でもそれがトレンドとなっているようです。
それにしてもこの「マイナスイオン化溶液」なるもの、一体何?
で、ちょっと調べてみますと「カシピア」という言葉に行き着きます(サイトはここ)。しかしそこでは、
「ミネラルから生まれたカシピア」
としかなく、一体これが何なのかさっぱり分かりません。
さらにここの説明を読んでみても、
  「人間本来の持つ治癒力に働きかけて身体の中から健康にしてゆく力を持っています。」
などとちょっと首を傾げたくなってくる説明があるばかりで、その正体は謎のままです。
でもこれ、アパレル業界では割と浸透しているようであり(例えばここ)、あぶらとり紙もそうですが、「高付加価値機能」として「カシピア加工」などという言葉で紹介されている製品もあります。
ただここの解説でも、
  ■マイナスイオン化 ― いつもいきいき♪爽快感!
などと、「マイナスイオン」については感覚に訴える書き方になっています。

さて、実はアパレル業界ではもう一つ「マイナスイオン」を謳う繊維があるのです。それがこれ。

「IOCA-C21」

その解説を見てみると物凄いです。

  イオカ・C21を使用した素材の特性
  マイナスイオン(ホルミシス)特性
  繊維内部に配合されたマイナスイオンは生体内のイオンバランスを調整し、健
  康維持と回復に必要な抵抗力を増進します。

  遠赤外線(ジアテルミー)特性
  生物にとって極めて大切な遠赤外線は体を温める機能を有し、元気と活力に
  有効な熱エネルギーを再び生産させ、健康体へと導きます。

  肌のサポート(スキンケア)特性
  イオンバランスの調整は代謝能力を高めます。そのためお肌の悩み(敏感肌・
  カサカサ肌・痒み肌)等々を内面よりサポートします。
  特に肌を大切にしたい方にお薦めします。

  疲れと緊張の緩和(リラックス)特性
  繊維内部に配合されたマイナスイオンは酸素交換率を高め、酸化抑制機能を
  有し、緊張やストレスからくる疲れを緩和しリラックス感を与えます。

  安眠の誘導(サプリメント)特性
  繊維内部に配合されたマイナスイオン+遠赤外線による相乗効果で生態内領域
  がほどよく刺激され安らかな眠りへと誘導されます。

これの本家はこちらなのですが、この解説がネット通販となるともっと凄まじいものになります。(→こちら

本家でさえ「生体内のイオンバランスを調整し」ぐらいの控えめの表現なのが、通販サイトでは、
「免疫担当細胞群のマクロファージやナチュラルキラー細胞の活性化が促進されます。」
と見事にグレードアップしております。…いいのか?

しかもこれ、前述の「カシピア」以上にアパレル業界では有名のようで、名だたるメーカーにも採用されているほどです(製品解説はこちら)。
この繊維の機能については、こちらのサイトによりますと、一応「第32回日本臨床免疫学会総会」(2004年10月8日、発表者:医学博士 渡邊隆司)にて発表が行われたそうですが、おかげで、
内閣府 国際保険協会認定」
「日本アトピー協会推薦」
とまでになっています。
こうしてみると実際に何らかの効果があるように感じられてしまいますが、しかしこの発表論文を読んでみると、これあくまでマウスの話なのですね。果たしてそれから臨床試験がどこまで行われたかははなはだ疑問です。
それにこれ、効果があると期待されるのはあくまで【皮膚疾患】についてだけでありまして、それが宣伝となると、
「緊張やストレスからくる疲れを緩和しリラックス感を与えます。」
となってしまうのですね。

そして受け取る我々消費者側も、「マイナスイオン」と聞くと今でもこんな風に思う人達が多いのではないかと思うのです。
だから現在でも、「マイナスイオン」と聞くとやはり何らかの効果があると期待し、それを見越してメーカー達は様々な文言で我々に誘いの手を伸ばしてくるのですね。


8月27日に国民生活センターが「家庭用オゾン発生器の安全性」と題してマスコミ発表を行いました。
その中で、
「治療効果をうたうなど、薬事法に抵触するおそれのある表示及び広告がみられた。」
とあり、調べてみたらこんな宣伝が行われていました。その中の文言、

  4.マイナスイオン効果
  オゾンが酸素分子と酸素原子に移動(イオン化)する状態が多いため、 海や山にはマイナスイオンが多いのです。
  又、酸素原子が大変活性の強いマイナスイオンであることが、健康上大変良く、細胞賊活・気分爽快などの働きもあります

などととんでもない事が書かれています。これ、「オゾン発生器」なんだけど…。
これなどまさに「マイナスイオン」という言葉で、消費者に何となく健康によさそうというイメージを植え付けているのですね。

頭で紹介した「おかしな科学」でもこう述べられています。
 (p.33)
  菊 でも、マーケット全体で見たら、やっぱり今でも「イオンは体にいい」と言っているように見えるよね。
  六 イオンが体にいいという迷信があるうちは、イオン製品も売れ続けるってことですね。


「その通りです!」



  (*「カシピア」については、現在取り扱い業者に問い合わせ中です。)


(8月29日追記)
「IOCA-C21」を使用した生地が「NANOMIX(ナノミックス)」として新たに販売されているようですね(こちらの記事より)。
製造メーカーは「ワンポイント株式会社」、この生地を使用した製品の広告サイトもありました。
キャッチコピーは、
「健康と癒しを装う 身体リフレッシュ繊維 NANOMIX」
  ↑
このサイトの登録/更新:09/08/28……何というシンクロニシティ! (^^;)

(2010年1月17日さらに追記)
しばらくぶりにチェックしてみたらリンク先が消えてましたね。失礼致しました。
代わりにこちらを参照下さい。

「カシピア」については未だ返答なし!