杜の里から

日々のつれづれあれやこれ

【考察】EMに関するよくある誤解(3)(環境編)

前回は短くまとめましたが、今回はちょっと長くなってしまいました。どうぞ最後までお付き合い下さい。

元々農業資材であるEMが注目される様になったのは、それを環境浄化材として利用し、その活動が方々で取り上げられた事によります。
しかしながらこれが一番大きな問題で、環境浄化の名の下に、各地で様々な誤った活動が行われる事になり、それと共に方々から批判の声が挙がる様になります。
では、EMは全然効果がないのか?
そう問われた時、しかし私は素直に「はい。」とは答えられないのです。

〔環境編〕

●台所の汚れにスプレーなどしても、EMなんか効かない

いいえ、そうでもありません。
前回述べた様に、台所の残飯の悪臭などには確かに効果があり、また使用者の話によれば、油汚れや台所の汚れなども良く落ちる様です(→参考)。
油汚れが落ちるのは、EMの発酵液に含まれるであろう様々な酵素によるものと推察されますが、残念ながらEMの詳しい成分が明らかになっていないため、ここはあくまで想像で言わざるを得ません。
ただ、発酵液の生成過程は基本は「乳酸発酵」でしょうから、普通に考えれば何らかの酵素が生まれている可能性はあり、それが汚れを分解すると考える事もできます(→参考)。
もちろん、それはEMに限った話ではない事は言うまでもありません。(→自ブログより)


●トイレ掃除にEMなんか効かない

いいえ、そうでもありません。
前回の畜産編と同様アンモニア臭は中和されますし、便器に付いた尿石もアルカリ性ですから、EMやEM活性液をかけるとそれも中和作用により除去出来ると考えられます(→参考
専門業者などは強力な酸の洗剤を使用したりしますが、小・中学校で日々の掃除に使用するには、EMぐらいがちょうど良いかと思われます。
勿論、同様の効果のある資材は他にいくらでもありますが。


●EMをスプレーすればカビも生えなくなる

いいえ、それは違います。
EMは消毒剤ではありませんし、製造過程の中で糖蜜を使用しており、製品にはどうしても数パーセントの糖分が含まれています。
湿った場所にただ吹き付けるだけでは、逆にそれはカビの栄養源となり、かえってカビを増やしてしまう事にもなりかねません。
掃除の際にはすでに付着しているカビは落ちやすくなると思いますが、くれぐれもカビ取り後はアルコールや塩素系のカビ取り剤などで消毒しておいて下さい。
また、EMの中には雑菌の増殖を防ぐアルコール成分はありませんので、栓を開けたらなるべく早めに使い切った方が良いかと思われます。
EMユーザーの中にもカビ体験をなさった方がいますが、そのユーザーからの質問に会社からは、EMへのアルコール添加を薦めています(→こちら)。


●EMを排水口に流しても浄化などされない

いいえ、そうでもありません。
元々EMが環境浄化資材として注目されたのは、沖縄県うるま市立図書館での浄化システムに使われて成功したからです。
そのシステムはこちらで見られますが、その処理方式を見ますと「活性汚泥法による長時間バッキ方式」とあり、要は活性汚泥の一つとしてEMを利用したもので、これはこれでうまく機能しているようです。
つまり、「閉鎖系システム」においては、EMも活性汚泥の仲間として同様の役割を果たす事もある訳で、条件がうまく揃えば、家庭の排水管から繋がる外側の「溜まり場」が、浄化槽代わりに機能する事も考えられるのです。


●EMを川に流せば浄化される

いいえ、違います。
先に述べた様にEMには糖蜜などの成分も含まれており、EMが効果を発揮するとすれば浄化槽の様な「閉鎖系システム」の中であって、自然水域にEMを投入しても、それはただの有機汚濁となるだけです。
それにEMの元菌は〔沖縄生まれの菌〕達ですし、綺麗な自然水系では実は微生物の数はそれほど多くはなく、EMの様な外来微生物を大量に投入する事で、もしかしたらそこの生態系に良くない影響を与えるかもしれません。
浄水場では排水の浄化に「活性汚泥」という微生物群が使われていますが、あの中にはどの様な種類の菌がいるのか、実は詳しくは分かっていないのです。
ですから浄水場では、絶対に活性汚泥を自然水系にもらさない様、厳しい管理が行われています。
外来菌の投入で一番懸念されるのは「種の撹乱」と「突然変異」の問題で、実は微生物の世界ではそれは良く起きる出来事でもあるのです。


●プール掃除にEMを投入しても無意味である

いいえ、そうでもありません。
これまでの数々の事例を見ても、学校でのプール掃除には確かに効果はあります。
投入した微生物達はプール周りのコンクリートの壁に住み着いて微生物の膜(バイオフィルム)を作ります。
それがプール壁面に広がる事により藻などの根付きを防ぎ、それで軽くこするだけで掃除が楽に出来ると考えられ、実際そういう事例は数多くあります。
勿論、同じ事は他の資材でも出来るのは言うまでもありません。
しかし当然ながら、もしそのままひと夏も放っておけば、プールの水環境は富栄養化・貧酸素化が進み、どんどん悪化していくという恐れもあります。
幸いな事に、そうなる前にどこの学校でもプール掃除が始まるので、皆良い面だけを見て済んでいるという訳です。


●1)プールにEMを入れると、EMはヘドロを食べてくれる
(参考)
「EM菌を活用した環境にやさしいプール清掃」

いいえ、違います。
壁面にバイオフィルムを作ると同時にEMは他の微生物のエサともなり、それが更に大きな微生物達のエサになるという具合に食物連鎖が進み、それらの微生物達がエサと同時に汚れも食べてくれて、それによりヘドロは段々少なくなっていくと考えられます。
EMが食べるのではなく、EMは食べられてしまうのです。(→参考


●2)排水した水にEMが含まれるので、河川も浄化される

いいえ、違います。
EMは他の微生物のエサとなり、時間が経てばバイオフィルムの微生物層も投入した頃とは大きく変っているはずで、そこではどの様な微生物が優位になっているのかは誰にも分かりません。
それに普通、屋外プールの排水は下水道に繋がれていて、直接河川には流れ行かない様になっています。
もしプールが下水道と繋がっていずに、その排水が直接河川に流れていくとなれば、それは立派な有機汚濁であり、その後どの様な事態となるかは誰にも分からないのです。
この様な場合はちゃんと水質を調査し、事前に自治体の担当部局とよく打ち合わせをしてから資材の投入をした方がよろしいでしょう。


●5)小学生が環境を学ぶ教材として優れている

そうでしょうか。
多くの学校事例を見てみると、ただプール掃除が楽になるという理由だけで、他校の見よう見まねで採用しているという事例ばかり目立ちます。
本当に環境教育として行うならば、少なくとも微生物の知識、自然の浄化作用などの学習は必須であるし、何よりプールは良い実験場なのですから、投入前の水質(Ph、BOD、CODなど)調査から経過観察、微生物の繁殖状況など細かいデータを取り、それを周りの河川データと比較するなど、様々な学習プランが出来上がるはずです。
しかしながら、この様な授業を行っている学校を私は見た事がありません。
ただ「EMはすごい!」と思わせるだけならば、学校は業者の言いなりに生徒達にEMという商品を売りつけるだけの、単なる宣伝マンでしかありません。


●EMだんごは自然環境を浄化してくれる

いいえ、それは違います。
EMだんごというのは元々は、EM投入活動をしていた人が流れていくEM液を川床に固定するために考案した泥だんごで、その効果についての科学的根拠は何もなく、勿論検証など何も行われていないものです。
ただこれが、環境活動で子供達が投入する姿などがマスコミで紹介され、やがて大きな環境イベントでこれがパフォーマンスとして行われていく内、「EMだんごが環境を浄化してくれる。」と思い込まされているだけの事です。
厳しい言い方をさせてもらえれば、EMだんごとは、正体不明の外来微生物をただ混ぜ込んだだけの泥だんごに過ぎず、やっている事は、そこらの畑の土をただドボドボと河川に撒き散らしているのと同じ事です。
そして河川にとっては、それらは自分達に余計な負担を与える有機汚濁という存在でしかないのです。


〔まとめと考察〕

初め農業用資材として開発されたEMは、試験場での試験ではそれほどの効果は認められませんでしたが、その後、EM普及を目的としたNPO「地球環境共生ネットワーク」(U-net)の発足や「教育技術法則化運動」(TOSS)の向山洋一氏、船井幸雄氏などの強力を得て、EMは環境用資材として新たに生まれ変わる事になります。
当初は家庭内での掃除など限定的な使用法が紹介され、それだけならば問題はなかった所、やがて比嘉さんの著書「地球を救う大変革」などに影響された環境運動メンバーから、自然発生的にEM活性液の河川への投入活動が始まり、それがマスコミで取り上げられる様になります。
そしてその姿がEMのネットワークを通じて各地のユーザーに伝えられ、徐々にEM投入活動は全国に広まっていきました。
更に、例えば大阪漁協等の大きな組織での活動はマスコミの絶好の記事ネタともなり、その効果が果たしてEMによるものなのか何の検証もないまま、ただ「EMは効く」というイメージだけが広がっていく事となります。
同時に、教育現場で環境教育の授業などが始まる様になると、徐々にEM使用の実践授業が行われる様になります。
それがまたマスコミに取り上げられ、その後は地域のボランティアや福祉施設、保育園などでEMだんご作りが行われ、やがてそれは環境イベントなどでは重要なパフォーマンスとなり、現在に至ります。

こうして「環境浄化にはEM」というイメージが作られましたが、活動を行っている人達がEMの効果を実感するのは、実は家庭内での掃除や悪臭の消臭効果ぐらいなのです。
しかしこの実感があるがため、河川の環境が改善されたのはEMのおかげと思い込んでいる様に私には見えるのです。下水道の普及や河川改修などには頭を巡らす事もなく。

繰り返しますが、EMは別に「特別な菌」ではありません。
通常ならけんかする様な嫌気性と好気性の微生物を、たまたまうまく共生させた微生物資材というだけで、そこに神秘的な力などは初めから備えてはいませんし、かと言って、だからまるっきり効かないというものでもないのです。
ただそこに比嘉さんの「何にでも効く」というセールストークが加えられ、目の前に現れた現象すべてをEMの作用と思い込み、やがて当初の目的を忘れ、ただ「EMを使う事」自体が目的化されてしまう、こうなる事こそ大きな問題なのです。

今現在行われているEMだんご投入活動を見てみますと、まさにその懸念がそのまま実行されている様に見えます。
そしてEMを巡る論争でも、ただ効くか効かないかという単純化された議論になりがちですが、こうしてEMの効果を客観的に確認する事により、EM問題の本質は何なのかを改めて見つめ直す事が出来るのではと私は思うのです。

ここでどこの家庭にも常備されている胃薬を例に挙げてみましょう。
胸焼けとか食いすぎ・飲みすぎの度にお世話になり、薬の効果は常に実感しているとします。
でももし、この胃薬がガンに効くなどと言われた時、あなたは果たして素直に信じるでしょうか?
EMはある一面では確かに効果があるかもしれませんが、その効果は言わばこの胃薬の様なものです。
EMだんごや活性液を河川や海に投げ入れる様は、ガンを治そうとして一生懸命胃薬を飲み続けている姿に私には見えてしまいます。
でも、胃薬でガンは治らないのです。

EMはよく、「効かない」のを「効く」と言うから問題と言われますが、「EMは効く」からこそ問題なのです。

続く


※このシリーズはもう少し続きますが、次回は10月13日のEM討論会以降になります。

(参考)
自ブログより:「考察:環境運動にはなぜEMがまかり通るのか(3)」
        「EMだんごを投下する前に考えて欲しい事」
        「自然水系に微生物資材を投入するというのはどういう事か」