杜の里から

日々のつれづれあれやこれ

こんなところにマイナスイオン(回答編)

以前クルマのエアコンに付いているプラズマクラスターイオンについてのエントリーを上げた事があります。
あれから随分時間が経ってしまいましたが諸般の事情により今日まで延び延びになっておりまして、今回遅まきながらようやくここに取り上げさせていただきます。

前回ご紹介したように、我が家の車のエアコンにはプラズマクラスターイオンが付いております。そしてその広告に関して様々な疑問が湧いたのが前回までで、その後オゾンの危険性についてはどうやら心配する事はなさそうであると分かりました。
しかしモードについては謎のままであったので、取り合えずその事をメーカーに質問してみました(ここで言うメーカーとはあくまでクルマメーカーの事で、以降「メーカー」という場合はすべてここを指します)。
(質問)
・カタログでは、車内に浮遊するカビ菌の活動を抑制する「クリーンモード」、マイナスイオンの比率を高めイオンバランスを整える「イオンモード」とあるが、それはどのようなものか?

    

実は前回エントリーを上げた後このエアコン部品メーカーの資料(リンク切れ)を見つけたのですが、その中ではこれらのモードについて、
○ クリーンモード:プラスイオンとマイナスイオンを同じくらいの量出すことで、車室内のイオンバランスを森林に近い状態とし、積極的に除菌を行うモードです。
○ イオンコントロールモード:マイナスイオンの割合を多くすることによって滝の周辺に近い状態にするモードです。
などと、極めて曖昧にしか書かれていません(強調は引用者によります)。
この質問に対してメーカーからは、
 室温25℃、噴出し口より25cmで計測、イオン発生ユニットより、
 ・クリーンモード…マイナスイオン16万個/cm3
 ・イオンコントロールモード…マイナスイオン50万個/cm3
 の数のマイナスイオンを放出している。
との回答を得ました。
ただし、これだけ。
この「マイナスイオン16万個/cm3」というのが果たして「森林に使い状態」であるのか、そしてそれだけで果たしてどれくらい除菌が行われるのかなどという説明は一切ありません。
そこで次に以下の質問を行いました。
(質問)
 ・どれほどの除菌効果があるのか、具体的な資料を見せられたし
するとメーカーから驚くべき回答が寄せられました。
何と、
「資料はない」
と言うのです。
「…はぁ!?」
思わず声を上げてしまいましたが、メーカから提出されたのは結局このマイナスイオンの数のみで、実際の除菌データの計測などはどうやら何も行っていない様なのです。

果たしてこれで良いのでしょうか。いくらメーカーにとっては畑違いとは言え、少なくともカタログ上ではそれなりの効果を謳っているのですから、何らかの確認作業を行うべきだと思うのですが。
例えばここで、同じクルマの部品である「エアバッグ」について考えてみましょう。
エアバッグの効果を確かめたいと思い、メーカーは部品メーカーにエアバッグの性能を尋ねてみました。そうしたらそこから、
「時速30kmで衝突した時、秒速○km、ガス圧○kgで膨張します」
という説明が返ってきました。
それでメーカーは「はい分かりました」と言って、そのまま車体に取り付けて終わりとするのでしょうか?
いやいや、そんな事はありませんね。
どこのメーカーでも、わざわざ実車を壊してまできちんと実証試験を行い、詳しい評価データを取っています。
  
これはカタログ上のデータだけではなく、実際の状況で果たして謳われている通りの効果が得られるかどうかという事を確認している訳で、クルマメーカーならばどこでも行われている「当たり前」の事です。
そしてユーザーからしてみても、本当に知りたいのはそれが【実際の場面において効果があるのかないのか】という事であり、決してエアバッグの性能諸元などではない訳です。

このイオンエアコンについても、イオンユニットが別売りのオプションとして後から取り付けるものであるならば、その効果の検証はあくまでその部品メーカーの責任で行うべきものと言えます。
例えば、シャープでは車載用のプラズマクラスターイオン発生器「IG-BC15」なる製品を発売していますが、これの効果を検証するのはあくまでシャープという事になります。
しかしこのイオンエアコンは初めから車内部に取り付けられており、まさに車の一部となっている訳ですから、従ってこれの性能評価・効果の検証はあくまでクルマメーカーが行わなければならない事となるはずです。
ところが実際は、メーカーは部品メーカー(この場合はシャープ)から示されたカタログ通りの諸元しか知らず、実際の効果の検証は何も行っていなかったという訳です。

結局これは、プラズマクラスターがどれほどの効果があるのかという話ではなく、メーカーとして自社製品にどこまで責任を持つのかという話なのです。

そしてその後話を進めていった所、実はメーカーは、プラズマクラスターに関しては何一つ理解していない事が明らかになったのです。
それは以下のエピソードから知る事となりました。

私の所有している車は2007年式で、製造からすでに3年の月日が流れています。
エンジンの調子は良いのですが、今現在ちょっと問題になっている事があります。それは…、
エアコンを入れる度、長くクルマに乗っている人なら誰もが経験する、あの「カビ臭」がエアコンから漂ってくるのです。
勿論これはプラズマクラスター云々の問題ではなく、カーエアコンの持つ宿命みたいなもので、それが今回我が家のクルマにも起こっているという訳です。
そして今回、ここで改めて明らかになったのは、
プラズマクラスターは、エアコン本体のカビ抑制には無力である。」
という事です。
勿論これは当たり前で、イオン発生ユニットは運転席側の噴出し口のすぐそばに付いていて、あくまでクルマの室内側にイオンを放出する仕組みになっており、エアコン内部のカビ発生を抑制する構造にはなっていないのです。
つまりこれはイオンそのものの問題ではなく、エアコン自体の構造的な問題であったという事です。

さてこうなった場合、我々ユーザーはどうするでしょうか。
ここですぐフィルター交換などをすれば良いのでしょうが、未経験者にとっては中々手間がかかる作業でもあり、また業者に頼むと結構なお金もかかります。
そこで取り合えず芳香剤とかエアコン消臭剤などを使うのが一般的な対応となる訳ですが、ここでプラズマクラスターイオンの根本的な問題に突き当たる事になるのです。
シャープのサイトのプラズマクラスターイオン発生器Q&Aを見てみますと、その中の8番目〔[Q]カーアダプターの接続と本体の設置について〕の項目にこのような説明があります。
【ご注意】
プラズマクラスターイオン発生機の近くでは、フッ素樹脂やシリコーンを配合した化粧品などは使わないでください。
本体内部にフッ素樹脂やシリコーンが付着し、プラズマクラスターが発生しなくなることがあります。
フッ素樹脂やシリコーン配合商品には次のようなものがあります。
ヘアケア商品(枝毛コート液、ヘアムース、ヘアトリートメントなど)
化粧品、制汗剤、静電気防止スプレー、つや出し剤、ガラスクリーナー、化学ぞうきん、ワックスなど。
実はこの件については以前からこちらの方が指摘なさっており、私もそのおかげで今回の問題に気付く事が出来た訳ですが、試しにこの事もメーカーに尋ねてみました。
そうしたら案の定、メーカーの営業マンは今回の私の質問で初めてこの事を知った訳です。

一般的に通常の部屋などではシリコン環境になる事はめったにない訳ですが、しかしクルマとなるとそうもいかなくなります。
クルマの室内というのは、ガラスの曇り止めなどで実はシリコン環境が推奨されていたりするのです(→一例)。
またダッシュボードの清掃などで使用される撥水性のクリーナーなどには、すべてフッ素やシリコンが含まれています。
この対応については本家のシャープの方に直接尋ねてみました。
そうした所Q&Aにあった通り、
「内部のプラズマクラスター発生ユニットに成分が付着し、能力の低下や早期のユニット交換が必要になるため、シリコーン配合商品の近くでは使わないようお願いしている。」
との回答と、また、運転を停止している場合は吸気をしないため、内部のイオン発生ユニットに成分が吸着することは防げるので、シリコン成分がなくなるまで換気をしてから使用するようにとの防止策も教えていただきました。
しかしこれは、クルマ用ユニットIG-BC15のように取り外しが利くものの場合であり、今回の様に初めからクルマに装着されているものについてはそうはいかないのです。
煙で洗浄するタイプのエアコンクリーナーなどは、作業は通常窓を締め切ってエアコンをONにして行いますので、自ずとその成分表示には注意が必要となります。
こういう事をメーカーは何も知らず、よって当然注意書きなどもなく、ために何も知らないユーザーはついこんな事をしてしまう恐れもある訳です。この時イオンユニットは一体どうなってしまうのでしょう?
このような事を、イオンユニットを取り付けているメーカー自身が何も知らなかったというのはちょっと問題なのではないでしょうか。

そもそも、メーカーはこのプラズマクラスターというものを一体どう考えているのでしょうか。
イオン放出口についても、シャープの場合はあくまで車内全体にイオンが行き渡る様なセッティングを推奨しています。
しかしこのカーエアコンの方は運転席側からだけの放出であり、車内全体に行き渡らせるつもりならばイオンユニットは中央口に取り付けるのが普通ではないでしょうか。
それにそもそも、このプラズマクラスターイオンはエアコンをオンにした時初めて発生するようになっています。
ドライバーで、年がら年中エアコンをオンにしている人ってどれぐらいいるのでしょう?
私の場合エアコンを入れる時は真夏の暑い時とか雨や雪の日で内側が曇る時ぐらいのもので、他のシーズンはほとんどオフの状態で走っています(ガス代の節約にもなりますし)。
そもそもユーザーからしてみれば、エアコンのカビ臭を防ぐ様な仕様の方がよっぽど有難いし、車内の空気環境に気を使っている人はそれこそ別途車載用イオン発生機を自分で買うでしょう(エアコンのオンオフに関わらず、常に使用出来ますし)。

そしてここで使用しているイオン発生デバイス
この「クリーンモード」と「イオンコントロールモード」についてシャープに尋ねた所、確かにかつては同様のモードを使用していたが、現在は複数のイオン発生デバイスを1つのユニットとし、従来よりもさらにイオン発生量を増やして最高濃度のイオンを放出しているとの説明があり、
「現在発売中の商品では、プラズマクラスターの高濃度化や検証実績から効果的な使いかたをご提案しており、同様の運転モードはご用意しておりません。」
という回答を得ました。
つまり、このカーエアコンで使われているユニットは一世代前のもので、現在の専用イオン発生器の方が優秀であると暗に言っている訳です。

こうしてみると、果たしてカーエアコンにイオン発生機を取り付ける事って意味があるのでしょうか?

実証データもない。イオンについては分からない。ユニットの問題点も知らない。これがもの作りのメーカーの回答でしょうか。
たとえ畑違いとは言え、その有効性を自分達で検証しようとすら思わなかったのは一体なぜなのでしょう。諸元ばかりに頼り過ぎ、いつの間にか根拠なき信頼という事態に陥っていなかったでしょうか。
いやそもそもメーカー自体が、元々プラズマクラスターというものにさしたる興味など持っていなかったのではないか、そんな思いすら抱いてしまう結果となったのです。

当初このエントリーを上げようとした時は、丁度アメリカでトヨタ車の欠陥騒ぎが起きていた頃でした。故に新たな火種を撒く事はあるまいとして今日まで延ばしていた訳ですが、実際あちらでは何に対して訴訟を起こしてくるか分からないのです。
メーカーはそのためにも確固たるデータを常に用意しておくべきなのですが、そのような時にこんな有様ではほとほと心もとない気持ちになってくるのです。
トヨタでは現在、様々な車種プラズマクラスターを採用しています。またこれは、日産ダイハツなどでも同様の状況です。
その科学的根拠を尋ねられた時メーカーは、実証データもない状況で果たしてうまく説明する事が出来るのでしょうか。

勿論ここでクルマメーカーばかりを責める訳にはいきません。肝心要の元メーカーでもそれは同じ状況なのですから。
シャープではイオンユニットの効果に関する様々な検証実験を行っています。
しかしそれは極めて限定的な環境による所のものであり、その実験結果がそのまま普段の生活にも当てはまるかと言えばそうもいきません。
今回問題にしているのはあくまで車内環境ですが、クルマは常に排ガスに溢れた外気と接しており、乗員は外から直接土足で乗り込み、またカビ・ダニなどが発生しやすく静電気も起こりやすい内装など、実は車内というのは家庭の室内よりも厳しい環境であるのです。
ところが、この車内環境の中で厳密に測定したデータというのはいくら探してもどこにもありません。
車載用イオン発生器についてはこのようなレビューなどはありますが正直感想程度のもので、これなど本来ならば厳密な検証実験として製造元メーカーが行わなければならない事ではないでしょうか。
これは共同開発したデンソーについても同様です。
しかし、そこの広告で用いられているデータはシャープからの丸写し、おまけに
「1m3の密閉容器での試験による10分後の効果であり、実使用空間での実証結果ではありません。」
などという注意書きの横に車室内の写真、これなどなんの意味もありません。
実証試験としては、少なくともセダンなら大人4人、ミニバンなら乗客6人を乗せた状態で実際に公道上を走らせ、空気取り入れ口(ベント)を「開」と「閉」状態でそれぞれ一時間、イオン発生器ONからの時間経過による浮遊細菌数の変化等、これぐらいは調べて欲しい所です。
勿論これを行ったとしても別の条件では異なる結果になる事は分かりますが、我々ユーザーとしてはあくまで「目安」となる数字を提示して欲しい訳です。
そもそも実証データもなしに、車内でも有効だと言える根拠が一体どこにあると言えるのでしょう。

ここでは主にプラズマクラスターについて言及しましたが、パナソニックの「ナノイー」についてもそれは同様です。
先ほどのシリコン環境について、ナノイーの説明書(PDF)にはそのような注意点はありませんが、こちらの方の話によりますと、「ナノイー発生ユニット自体は影響がないが、他の電子部品には影響がでる事もあるので使わないで欲しい」との説明を受けたそうです。
そうすると、シリコン環境になりやすい理容室でのドライヤーなどに悪影響が出てきそうなものですが、何せ目に見えないもの、長年の使用で実際はどうなっているのか分からないという状況であるのが本当の所かもしれません。


つい最近、NTTドコモがプラズマクラスターイオン発生装置を内蔵した携帯を参考出品しました(→こちら)。
メーカーの想定する利用シーンがいまいち定かではありませんが、検証に耐えうる実証データを提示するのは、この携帯を発売するNTTである事は言うまでもない事です。



(参考)
・「書く力!書く参加!メルマガ市民ライター通信」より『チョットかがく(18) ■ 空気浄化装置 --なまえをかえて再登場? ■
・「PseuDoctorの科学とニセ科学、それと趣味」より『S02-02: 「立証責任」について