杜の里から

日々のつれづれあれやこれ

手続きが遅すぎる

震災からもうじき5ヶ月ともなる先月7月の終わり頃、我が家にようやく「り災証明書」が届きました。
6月の頭に申し込んでから手元に届くのに、およそ2ヶ月の時間がかかりました。

「り災証明書」の申請については、まず津波被害などに遭って避難所住まいを余儀なくされた人達を優先するという意識もあり、そのため我々の様に取り合えず住む家が無事だった住民達は、当初「り災証明書」を申請するというのには消極的だったのですね。
だから3月から4月にかけての申請数はそれほどの数ではなかったのですが、6月20日からの高速道路無料化のニュースが流れた途端申請数が一挙に増え、そのため仙台市では発行手続きが大幅に遅れてしまったのです。
実際申請に行った人の話を聞きますと、申請窓口には高速道路用と通常の「り災証明書」用2種類の申請書があり、高速道路の方は申請すればその場ですぐ発行してもらえたという事でした。
そして、申請に訪れた人がそこで初めて、「り災証明書」がある事で受けられる様々な免除事項(→一例)を知る事となり、そこで今度はその場で、改めて通常の「り災証明書」を申請するという事が起きたのです。

また、「り災証明書」を発行するには被害を受けた家屋の被害認定が必要となるのですが、仙台市では初めの頃は鑑定士の人が一軒一軒回って家主立会いの下に「全壊」、「大規模半壊」、「半壊」、「一部損壊」の診断を行っていました。
しかし申請者の増加によって戸別判定が追いつかなくなり、そこで市では作業の効率化を図るため、ただ外観だけで判断する『簡易診断』に切り替え、取り合えず見た目だけの判断で被害程度を認定した「り災証明書」をどんどん発行するという体制に変えてしまったのです。
でも中には、外観はそれほどではないが内側が甚大な被害を被っているという家も実はたくさんあったのです。
そのような所は、一度「り災証明書」が届いた後で市に対して「不服請求」をするという段取りとなったのですが、これがそもそもの問題。
実際にはこのようなケースが非常に多かったのですね。
結局役所には今度は再調査の申請が殺到し、その結果改めて職員が訪問して、家の中を家主立会いの元再診断するという二度手間となってしまったのです(我が家もこのケースでした)。

そしてこのようなケースばかりが原因ではなく、遅れるのには義援金を受け取るシステムそのものにも問題があったと言えます。
義援金を受け取るにはまず「り災証明書」を発行してもらわなければならないのですが、それが届いた後、今度は義援金の受け取りをわざわざ「自己申告」しなければならないのです。
そもそも、家屋の被害診断は市の職員が行うのですから、「全壊」やら「大規模半壊」などの判断が下されたその場で「り災証明書」がすぐ発行されればこんなに遅れる事はなかったであろうし、そしてまた、その場ですぐ義援金請求書を家主に書かせ、職員が役所に戻った時にその書類を担当に提出するとしていれば、被災者がわざわざ役所の窓口に出向く事もなく、役所の窓口業務ももっと簡略化されたはずです。
あるいは、判断が下されたその場で職員が役所の担当に電話し、
「No.○○、Aさん宅、半壊です」
と連絡すればそれで済む訳です(そもそも「り災証明申請書」を提出した時点で、その受付ナンバーがそのまま個人IDとなって登録されているのです)。
「り災証明書」をもらう一番の理由は義援金の支給を受けるためだという事を、本当ならば行政はちゃんと知っているはずです。
仙台市の一番の失敗は、この義援金支給の手続きを【通常通り】に行った事にあります。そもそも今は【非常時】なのです。

実際この処理にどのぐらいの時間がかかるかと言いますと、被災者が義援金を貰おうとした場合、まず「り災証明書」の申請手続きを行い、そして担当の職員が被害診断に来るのが一週間から二週間後となります。
そしてその被害診断から「り災証明書」発行までまた1週間から10日、それからようやく個人が義援金申請書を提出するという二度手間三度手間となっているのです。
人口が少ない町などではこれでも良いでしょうが、人口が多い都市部でこのような通常時の対応をしていたのではとてもさばききれるものではありません。
当然様々な提出書類を簡略化し、申請時点ですぐ支給手続きがなされるような【非常時の対応】が求められます。
仙台市では、この【非常時の対応】が出来ていなかったのですね。

今回このような実体を敢えて取り上げたのは、他の行政機関は仙台市のこの事例を反面教師と捕え、ぜひ他山の石としてもらいたいと思ったからです。
東南海地震が懸念される東京や名古屋などの大都市では、防災マップや帰宅困難者対応など『その時』の備えは色々準備されているようです。
でも果たして『その後』の準備はどうでしょうか。
行政機関での『非常時における事務処理体制』というものが、果たしてどれほど検討されているのかはなはだ疑問です。

被災者が復興への歩みを踏み出そうとする時、それを後押しするはずの全国から集まった善意の義援金、それを一刻も早く被災者の元へ届けられる【非常時の体制】をきちんと想定しておくという事、これもまた行政が行うべき震災に向けての備えではないかと思うのです。

全国版のニュースで、義援金の支給がまだ4割にしか満たないというニュースがありました。
でも4割も支給されているのならまだいい方です。
ローカルニュースで以下のような報道がありましたので紹介します(強調は引用者)。
仙台の義援金 なぜ遅い?
  2011 年 08 月 03 日 20:33 (JNNニュースより)
 震災発生から4か月半あまり、全国から寄せられた義援金は、4割ほどしか被災した人の元に届いていない実態が分かりました。
 中でも仙台市での遅れは深刻です。
 全国から被災地に寄せられた義援金は、総額3086億円で、すでに7割が市町村に送金されたものの、被災者に届いたのは4割に留まっています。
 中でも仙台市は、義援金の支給率が県内の市町村で最も遅く14%と、石巻市気仙沼市の89%に遠く及びません。
 仙台市健康福祉部の鈴木清隆部長は、「非常に煩雑な処理になっていて、被災地の自治体にとって事務作業は大きな負担。被害を確認して支給するまでに時間がかかる」と説明します。
 これに対し市民からは、「何事も遅い。しっかりしてほしい。他の市町村はもっと早くやっている」「何日くらいでと、はっきり言ってもらえれば都合がつく」といった不満の声が聞かれています。
 義援金の対象は、県内14万の個人や世帯で、当面の生活にも困っている人も多いだけに、義援金を少しでも早く届けられるよう、国や県も職員の派遣や事務の代行といった支援が必要との声もあります。
http://skip.tbc-sendai.co.jp/01news_2/20110803_14113.htm
もちろん仙台市でも他からの応援を頼んではいるのですが(→一例)、支給システムそのものを見直さない限り、このような応援も焼け石に水でしょう。


ようやく届いた「り災証明書」を持ち、義援金支給の申請に行って来ましたが、
「いつ頃振り込まれるのですか?」
と聞いた所、多分どこからか派遣されてきたであろう職員さんの、こういう機械的な返答が帰ってきました。

「大体2ヵ月後ぐらいになろうかと」

「なんですとぉ~~~!」

その答えに、私は思わずクラクラしてしまったのです。