杜の里から

日々のつれづれあれやこれ

「不信」の元は「不誠実さ」にある

前回投下しました記事は多少センシティブな内容でもあって多くの反響をいただきましたが、処理水放出について言いたい事は過去記事でもあらかた語り尽くした感もあり、この件について述べるのはもう終わりにしようかと思っていましたが、7月24日に気になる記事を見かけてしまい、はてブコメントの中にも今回のテーマに沿うご意見もありましたので、最後にこの件について改めて思う所を綴っていきたいと思います。

まずは7月24日にアップされた朝鮮日報の記事を紹介します。

朝鮮日報コラムより

僕は日頃韓国のニュース記事は批判的な目で眺めているのですが、この記事に関してはただ頷くばかりでした。

(以下引用、改行・強調処理は引用者によります)

 本紙は約10年前に狂牛病牛海綿状脳症BSE〉)に関するデマがあった時も科学の側に立ったように、今も同じ姿勢を貫いている。福島原発汚染水海洋放出施設の取材を申請した理由も、現場をありのままに読者に伝えようとしたからだった。

 それでも、取材を放棄した理由は明確だ。日本政府と東京電力が「科学に基づいて透明性をもって処理水の情報を公開する」という従来の方針に反する行動を取ったためだ。
 日本政府と東京電力にも、どの報道機関に取材を許可するかを決める権利はあるし、嫌な報道機関を避けることもできる。だが、自分の口に合う報道機関を選別する行為は、自らが主張してきた「透明性をもった公開」ではない。
 透明性をもった公開ならば、汚染水の安全性を疑う報道機関にも公開しなければならない。

 

まったく同意見です。
処理水放出に関してその中身が広く国民に共有されているとはとても思えない現状において、国・東電には疑念を抱く人、反対する人にこそ積極的に施設を公開し、放出への理解を求める努力が必要であると思います。

そんな中でこの記事の様な事が本当に起こったならば、東電の対応はとても不誠実であると言えるし、そもそもこれこそが東電が信用を失っている根本原因だという事を東電は知るべきです。


7月10日に韓国の野党が抗議のため来日し、日本の政党とも一緒になって抗議活動を繰り広げましたが、その時どうして彼らに原発施設を見せてあげなかったのか、僕は残念でなりません。↓

元々反日勢力である彼らは親日に転じた現政権を批判するのが本来の目的で、処理水放出反対運動は単なる反政府パフォーマンスに過ぎない事は明白ではありますが、そういう立場の者にこそ積極的に情報を開示し、彼らの偏見を解くため努力しているという姿を示すだけでも、隠ぺい体質とも見られる東電への不信感を払しょくする良い機会でもあったのに、ただ「無視するだけ」というのはあまりにも大人げなく勿体ない事でした。

そもそも批判や反対を叫ぶ人というのは往々にして古い情報ばかりで判断していて、新しい情報がアップロードされていない事が多いのです。

最近目にした事例ではこんなのもあり、まあ果たして彼らは知っててやっていたのかどうかは分かりませんが、ネットの中ではすでにフルボッコ状態になっていて何とも微笑ましい限りです。

(ちなみに、前回の記事を挙げるに当たり参照した資料を記事の末尾に「参考資料」として紹介したのですが、それにまで目を通した人が果たしてどれほどいるのか、初めから反対・否定の人達はおそらく誰も見ていないのではないかと僕は思っています。)


そして韓国の議員団が訪日したならば、この機を逃さず福島県漁連も積極的に手を挙げ、市場で行われている放射線検査の実態などを彼らに見せてあげれば良かったのにとも思っています。
韓国よりも遥かに厳しい基準で日々検査している実態や、周りの飲食店で美味しそうに常磐ものを食する人々の姿など、輸入禁止を続けている韓国の人から見たら目から鱗の光景だった事でしょう。
そしてその時同行していた日本の議員は果たしてこの地元の様子を見て、未だに水産物の輸入を禁止している韓国に対し、どういう思いを持つのかという反応も見てみたいものです。

 

ただ肝心の福島漁連は、処理水放出には未だに反対の声を上げています。
7月11日に開かれた福島県漁連の理事会の模様を、福島民友が詳しく報道しています。

記事の中で、県漁連の野崎哲会長はこう述べています。

(以下引用、強調は引用者によります)

県漁連の野崎哲会長は反対の姿勢を改めて強調し、終了後に「漁業者として海で操業する観点、関係者の合意なしには海洋放出しないと約束した観点から容認する立ち位置には立てない」と表明した。

そして「関係者の理解」についてこう答えています。

 野崎氏は報道陣から「関係者の理解」の在り方について問われ、「(数十年後に)廃炉作業が完全に終わり、福島で漁業を続けられていたという状況になれば、ようやく理解するということだと思う」との見解を示した。

 

7月27日にも福島県いわき市で東電の職員も交えて福島県漁連の組合長会議が行われ、その模様が福島のローカルニュースで紹介されました。

この中でも野崎会長は改めて反対を表明し、

 「国と東電がどうしても実施するというのであれば、約束は履行されていないという立ち位置。事業終了まで堅持できてなおかつ福島の漁業が存続出来て初めて履行されたと」

と述べていました。

 

漁協ですから漁業者の生活を最優先に考えるのは分かりますが、この意見からは正直、漁協は末端の関係者である「消費者」の方を向いているのかという疑念が僕に湧いてくるのです。

漁業者の最大の不安は「風評」にある事はよく分かります。

しかしこの「風評」というものは、すべて「消費者の側」から起こるのです。
消費者の不安の元は放出する処理水が「安全か危険か」という事で、風評の原因がここにあるのは多分漁業者達も分かっているでしょう。

福島県漁協は初期の頃から国や東電から直接説明を受けていますが、それにも関わらず、その説明を受けて処理水は安全だと思っているのか、それともやはり危険だと思っているのか、つまり肝心の『漁業者自身がどう思っているのか』を消費者に語ろうとしないのです。

そしてただ、

廃炉が済んでその時漁業者が存在していたら理解する」

などと観念論の様な事を言うばかりです。

消費者が知りたい事を何も語らずにただ「合意がないから反対」と語るのは、それはつまり、「やはり処理水は危険なのか」、「漁場は汚染されてしまうのか」、「獲れた魚は食べられるのか」などという不安を消費者に抱かせているのと同じ事で、「安全か危険か」を敢えて語らない所に、僕は福島県漁連の「不誠実さ」を感じてしまうのです。

 

記事の最後には今回の報告会の要旨が書かれています。

◇西村経産相が県漁連に説明した主な内容

・規制基準を満たさない処理水は海洋放出されないよう関連設備が構築された

・放出開始後もモニタリングなどの安全確保の取り組みを講じる

・人や環境への影響は無視できるとIAEAに評価された

IAEAは放出開始後も現地事務所を置いてモニタリングを続ける


◇県漁連関係者からの主な意見

IAEAが関与しているのは重要

・福島の漁業を続けていけるように支援を

・販路開拓に取り組んでほしい

消費者に安全性をしっかり説明してほしい

安全性の説明はただ国に要求するだけではなく、まずは漁連の方から身近な関係先(仲買・卸売り)に伝えていくのが先ではないかと僕は思うのです。

 

7月26日、全国知事会が国に対し、国内外で一層の理解醸成活動を行い関係者の理解を得る努力を政府に求めるとの提言をまとめました。

理解なしに放出が開始されれば間違いなく風評が起こるとの危機感を知事達は共有しており、国・東電はマスコミを選り好みしたりせず、賛成・反対含めたより多くの国民に情報を伝える努力をして欲しいものです。

 

ちなみに処理水放出に揺れるお隣韓国では、関係省庁による合同ブリーフィングが毎日開かれています。↓

この記事では最後にこうまとめられています。

 とはいえブリーフィングについて「日本政府や東京電力がすべきことではないか」という韓国野党の批判には耳を傾ける余地がある。

迅速かつ正確な情報を届け、信頼を得ようとすることはリスクコミュニケーションの基本だ。

韓国政府がそれを実践しようとするのであれば、その姿勢は見習うべきだろう

伝え方も硬直したお役所的な発想ではなく、例えば若者に人気抜群のユーチューバー達を招き、ファンから集めた素朴な疑問質問を東電の担当者にビシバシぶつけ、その模様をエンタメショーとして実況生配信の形でネットに流してもらうというのも、不安や疑念を持つ一般消費者への効果的な広報となるかもしれません。
(それに生配信ならば、恣意的な編集などがなされる恐れもないでしょう。)

 

国民に理解してもらうにはまずは「不信」を取り除く事から。

それはただ「誠実」である事に尽きるのです。

 

 

(7月28日追記)

「生配信」の箇所を当初「生中継」と表記してましたが変更しました。