杜の里から

日々のつれづれあれやこれ

EMへの疑問(16)~東京湾はEMで浄化されたの?~

東京都区内で行われているEM活動で、最も有名なのは日本橋川へのEM活性液の投入活動です。
2006年(平成18年)に日本橋川河畔にEM培養装置が設置され、以来毎週10トンのEM活性液が投入されていますが、この事によって川の水質が劇的に改善したという訳ではない事は以前何度かブログ内で取り上げました。
【自ブログより】
 (2009年11月12日 「EMへの疑問(4) ~その効果はホントなの?(前編)~」
 (2009年11月14日 「EMへの疑問(5) ~その効果はホントなの?(後編)~」
 (2010年12月28日 「その後の日本橋川(しのぶさんのコメントへの返事)」

しかしEMの開発者である比嘉照夫氏(以下「比嘉さん」と呼称します)は近年は、EM投入によって日本橋川のみならず、東京湾までもがきれいになったと自身のサイトで盛んに宣伝しています。
(以下サイトより引用、強調は引用者によります。)
(2014年8月4日) DND第85回 「5年目をむかえた海の日のEM投入活動」より

 EM投入後、半年で例年なら、区役所に寄せられていた日本橋川神田川の悪臭に対する多数の苦情の電話は全くなくなり、1年後には魚が群れる川に変身したのである。日本橋川のEM投入は、今も続けられ、本DND第15、16回と第72と73回に述べたように、この成果は、東京港はもとより、東京湾まできれいで豊かな海に変身させてたのである

(2015年6月4日) DND第95回 「水系改善と生物多様性の回復(4)」より

 日本橋川から毎週10トンのEM活性液を流し続けて10年目、3年目には東京港がきれいになり、5年目には東京湾がきれいで豊かになり始め、マスコミも東京湾のこの奇跡的な変化を毎々報道するようになってきた。多摩川のアユも、その例であるが多摩川に限らず東京湾に流れ込んでいる川はアユだらけである。
 「認定NPO安房の海を守る会」が東京湾の外湾に投入したEM活性液は、この10余年で1000トン余、内湾には日本橋川から4000トン余、その他、湾岸の多くの地域で河川浄化を中心に使用されたEMが東京湾流入しているのである。

(2015年8月24日) 新・夢に生きる 第98回 「ふるさとを創生し始めた東京湾沿岸 」より

今、東京湾はほとんどの地域で水泳可のレベルに達しており、どこの干潟も潮干狩りが楽しめるようになっています。

東京湾に投入されたEM活性液は日本橋川から4000トン余、舘山から1000トン余、東京湾流入する河川に投入されたEMも1000トンくらいあります。この投入は今後も続けられますので、東京オリンピックの頃には、世界トップクラスのキレイで豊かな海になることが約束されたようなものです。

この様に比嘉さんは何度も、投入されたEMのおかげで東京湾がきれいになったとおっしゃっています。

しかし、こちらのブログ〔warbler's diary〕の2016年5月4日の記事「EMによる水質改善効果徹底検証(2)-日本橋川編」の中で、1998~2015年(平成10~27年)までの日本橋川の水質データが紹介されました。
それを見てみますと、そもそも日本橋川の水質自体、EM投入後に大きく変化したという証拠は見受けられません(この記事の巻末では東京湾のデータも紹介されています)。
それでもその後も比嘉さんは自身のサイトで、

(2016年6月8日) 新・夢に生きる 第107回 「海の日のEMダンゴ、EM活性液の一斉投入」より

現在の東京湾は、全域で泳げるレベルに達しており、5月の連休の潮干狩りは、今や東京湾沿岸の人々の大々的な海浜レジャーになっています。

などと述べています(この回は別な意味でも東京湾が使われていますが、ここでは敢えてその件には触れません)。

では果たして、実際東京湾の水質はどうなっているのでしょう?
東京湾の環境浄化を掲げる団体としては、2002年(平成14年)に関係省庁や自治体が協力して設立された「東京湾再生推進会議」という組織があります。
また、東京湾を囲む都県が集まった「九都県市首脳会議 環境問題対策委員会」も、東京湾の水質を調査し発表する活動を続けています。
東京湾再生推進会議」では毎年『東京湾環境一斉調査』という、一般市民も協力する大規模な環境調査が行われ、その結果もサイト内で発表されています(→こちら)。
今の所一番新しいのは平成28年(2016年)9月に発表された「平成27年度の調査結果」ですが、それを見てみますと、青潮の原因でもある東京湾の貧酸素状態はあまり改善されている様には見えません。

平成27年東京湾環境一斉調査の結果 より)

また、「九都県市首脳会議 環境問題対策委員会」でも、「平成27年度」の東京湾底質調査の結果が発表されています(→こちら)。
その調査結果を見る前に、まずは東京都の中で日本橋川はどの辺にあるのか、その位置関係を今一度スケールごとに確認してみます。
日本橋川神田川の支流で、皇居脇を下り隅田川に合流する全長4.8キロほどの河川で、毎週10トンのEM投入は上流(地図左上方)の新川橋と堀留橋の間で行われています。
 (クリックで拡大 ↓)

(「日本橋神田川に清流をよみがえらせる会」より)

そして日本橋川と合流した隅田川は、今話題の豊洲やレインボーブリッジ、お台場京浜公園を経て東京湾へと流れ込んでいきます(日本橋川はブルーのラインで表記)。



先ほど紹介した「平成27年度」の東京湾底質調査結果(PDF)を見てみますと、その辺り(⑩、⑪、⑫)のCOD値はそれほど良い様には見えません(日本橋川は地図上方左側)。

  
またこの調査では、CODや全リン(T-P)・全窒素(T-N)等の水質だけではなく、自然環境指針となる生物層の調査も行われており、それによって0~Ⅳの5段階の環境評価区分が行われています。

  

これらを見ますと、実は東京湾はすべての地点がきれいになっている訳ではなく、改善の方向に向かっているのは多摩川河畔などの一部だけで、それもいつ悪化してもおかしくない微妙なバランスの上に成り立っているという事がよく理解出来ます。
そしてその環境を守るために、様々な人達が努力している事も分かりました。

(「東京湾再生のための行動計画(第一期)期末評価」(PDF)p.12より)

・「東京湾再生の取り組み」(→こちら
・普及啓発資料
 「きれいな東京湾を目指して」(→こちら)(←ダウンロードしてぜひ見るべし!)
・埼玉県:「きれいな東京湾を目指して(九都県市・水質改善専門部会の取り組み)」(→こちら
・千葉県:「東京湾をきれいにする活動事例(パンフレット)」(→こちら

そして、危機感を持って東京湾の状況を見つめている人の姿もありました。
・「五輪を迎える東京湾は死にかけている」(→こちら
お台場海水浴場の可能性を考える記事もいくつか。
・「東京を蝕む深刻な「水質汚染」…都心近くの「お台場・海水浴場」構想、頓挫の危機」(→こちら
・「お台場海浜公園で泳げる日は来るか?」(→こちら

いずれの事実も、東京湾の環境改善にはかなりの時間もかかるであろうし、それには周辺住民の「自覚」と「協力」が欠かせないという事を示しています。
ただEMを入れさえすればすぐに回復するというのは、自分にはあまりにも自然環境を楽観視し過ぎている様に思えてなりません。

これらの事は、比嘉さんの言う事を鵜呑みにしていただけでは決して知る事はありませんでしたが、今回こうして色々と調べてみて、遅まきながら改めて東京湾の実情を知る事となりました。
この意味では逆に、改めて比嘉さんにお礼を言わなければならないかもしれません。

東京湾の環境は以前より改善されたとは言え、未だ危うい状況である事は間違いなく、油断するとすぐに悪化してしまう極めてデリケートなものだという事がよく分かりました。
このか細い環境を守るには、まずは現状を正しく把握し、そして一番の問題である生活雑排水を減らすために、まずは家の中の蛇口周りの生活を見直す事こそが、一人一人誰もが参加出来る最も身近な東京湾浄化活動なのだと改めて感じた次第です。

(九都県市首脳会議 環境問題対策委員会 普及啓発資料「きれいな東京湾を目指して」(PDF)より)


こんな状況を知ってか知らずか、自身の講演会で比嘉さんは、あいも変わらず東京湾は浄化されたと力説しておられるばかりなのです。

(2016年11月19日 横須賀市での講演より)

 「東京湾、今日浦河沖の所まで行ってきたんですが、これは凄い水になってますね。多少の皮膚病でも東京湾で泳いだら治っちゃうんじゃないですか? それぐらい凄いですね。
この海水を汲んできて撒いたら、肥料いらないんじゃないかという、それぐらいもう神水なみになってます。

何故かというと、東京湾には我々が5000トン余りもEMを日本橋川から流して。で、これはもう、東京湾のあらゆる生物を復活させて、東京湾の真ん中にはもう海藻や珊瑚の大ジャングルがあるんですから
いつの間にかですね、船橋のあの辺、貧酸素水塊といって青潮というのがあったんですが、これがもう無いんですよ、みな消えて。これは消せないという事になってたんです。何十年も続いて。
これは全部EMですよ、と言っているんですが、だから、もう東京湾今どこも泳げるようになっているんですよ。」
……
日本橋もそうですね。日本橋は、東京の屋形船に乗って下さいよ。凄いですよね、今。
あの辺で全部魚採って、あれ天ぷらにしているんですよね。昔ならとっても想像できない話だった。
5月の連休、東京湾の干潟、人がみんな埋め尽くしているじゃないですか。こんな沢山人がいたのかと。
これ、全部EMなんです。
でも、みなさんは掃除をして海をきれいにしたから、きれいになったと。多摩川にもいっぱい鮎が上がってきたと言ってますが、そうじゃないんです
水はきれいにしてもですね、エサが無ければ、あるいは魚が増える条件、要するに一番小さい目に見えない微生物、そこが生産的になり、悪いものが来たらみんなそれをエサに変えてという、生物が多様化していく準備を微生物がしてくれないと、こういう事は起こらないんですね。
でも、我々には5000トン入れたという、……」

 
 

(終わり)